第71話 愛読者のみなさまへ。
「巫女さん?」
叔父さん、慌てる。また体調が?
「眠っておられるでござる」
グレンさんが落ち着いて言い、また叔父さんといっしょに〈白の巫女〉さんというか梨穂子さんというかやっぱり〈白の巫女〉さんをソファに運んだ。
「急になにが?」
「第71話、その時間に〈白の地〉はあるでござる。
これが、何を意味するか」
皆目見当がつかない。
「〈白の地〉の物語に命を吹き込んでいるのは、まずはスズカワ殿の手腕でござる」
うむ。
「しかし、その物語が世にあらわされて以降は、」
「読者?」
グレンさんの姿の件を思い出してみると、それか?
「左様。読者諸君がさらなる命を吹き込むのでござる。
ところで〈白の巫女〉殿は、もともと無理な手続きで梨穂子殿の身体を借り、現実世界に干渉しておられる」
「?? うん」
また、わけわからん話の予感。
てか、巫女さん、勝手に梨穂子さんに指輪送りつけて、勝手に憑依の実験して……
あ、それがそもそも無理の積み重ねだったのか?
「彼女が今いるのは第71話。続きが更新されず止まっている、第71話」
「まさか」
「お手数ながら、サイトをご確認あれ」
叔父さん、スマホを立ち上げ、小説サイトにログインする。
「ここ数日、PVが〈0〉でござる」
叔父さん、固まる。
「昨夜、〈赤の竜〉につながりそうな現実世界での炎上話の検索、ついついしてたんだが。
それよりも手直しして上げるべきだったのか、第72話」
叔父さん、そんなことしてたのか。なんとなく心情はわかるな。
「でも、読者が物語を待っているから、その心だけでなんとかならないもの? グレンさんのその姿だって、」
「普通はそれで済むのでござる。〈白の地〉とて、更新されていないからといって時間が止まってはござらん。住人たちもスズカワ殿が記した本編以外の活動が忙しいでござる。それが生きた創作物というもの。
問題は〈白の巫女〉殿。
無理をして現実界にとどまっている彼女は、どうも現実世界の更新回数や、PV数が身体に響くらしいでござるな」
神の目から見れば、そんなことがわかるのか。
「PVがつかないと、梨穂子の身体、ひょっとしたら〈白の巫女〉が憑依して眠ったまま?」
残酷にもグレンさんはうなずいた。
「となると、第72話の更新が一番手っ取り早いか」
なんだよ巫女さん……大丈夫かな……梨穂子さんも……
「てか、鈴木邸が二軒出現、て、結局どうしたのよ」
話の途中でこんなことに。
「今この家がどこにあるのか、表、見てくりゃいいんじゃねえか? とにかくそれから考えよう」
「あっ、」
「ここは拙者が。スズカワ殿は第72話をご検討くだされ」
グレンさんがいっしょに来てくれて、俺はまた意を決して玄関のドアを。
「よお」
「葦原どの。栞どの」
「おはようございます」
一旦ふたりを家に入れてドアを閉める。
次に開けた時は〈白の地〉のどこかにつながっているはずだ。
「もう、取り込み中らしいな」
葦原が嬉しそうなのがちょっといらっとした。
「どうしたんですか?」
「栞どの。そこまで深刻な状況ではないのでござるが……なにかと負担が大きく、早期解決が望ましいでござる」
「?」
「たぶん二人とも察してると思うけど、今、家は紫の霧の中だ」
「やっぱりなー」
「しかし問題なのが、こんな報告を受けていることなんだ。
どうも今、〈白の地〉別々の場所に鈴木邸は二軒同時に出現しているらしい」
「……はい?」
「とりあえず、うちは〈白の地〉のどこにいるのよ、ってことで、開けるぞ」
ドアを開ける。
「夜?」
木々の匂いがする。
「……あの、」
光が差してきたので、何かと思った。
乳白色の肌。白い装束。美しい目鼻立ち。
まて。光ってこれ、後光か!? はじめて見た。
さすが栞さんはすぐさま言った。
「エルフさまですか?」
「はい。神殿につとめるベルリオーカと申します」
「ベルリオーカ様?」
栞さん、ランさんの時みたいな顔をしたのだけれど、
「……なんだ?」
ベルリオーカ様の後ろの方からなにか迫って来る。
「ダメだよ、トト!」
トト?
名前?
……てか何、あのこっちに迫って来るやつ、カメ?
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