第67話 鈴木邸、あちらこちら

 ところで、鈴木邸。


「これはこれは、巫女殿」


 グレンさんが玄関口に。


「グレン様」


 今は〈白の巫女〉である梨穂子さん、仕事大丈夫なのかな。

 あ、日曜はとりあえず仕入れは休みか。


「梨穂子?」

「ごめんなさい。今朝は

「……おう」


 叔父さんの対応がなんかうっすら塩だった。


「いかがいたしましたかな?」

「ごめんなさい。

 今日は心配で来たんだけど。

 来てないかしら? ゲイル博士ご一行」


 みんな、一瞬固まった。


「……71か?」

「巫女さん、第71話の〈白の地〉から来たの?」

「多分。こちらはあなた方がつけた物語の順番を知らないけれど、そう言うのなら、今、〈白の地〉の私たちはその71番目に創造された場所にいるのでしょう」


 まさか。

 第71話の終盤は、主人公の〈俺〉が、機械の翼竜に必要な〈燃える水〉につき、灯油かなんかで代用できんじゃねえか? というようなことを思い浮かべたところ、元の世界の自宅が出現した! 入ってみるとテレビはつくし、番組では今日は日曜日って言ってるし! 以下つづく! である。


「いよいよ、家に〈俺〉が来るのか?」


 叔父がモデルのようで、そうでもない〈俺〉。

 いつか対面する時が、そしたらなにが起こるのか、と、うすうすみんな思っていたと思うが、もうその時が来たのか。


「そこなんだけど、〈救い手〉の今日の活動報告を読んでいたらね、」


 言いかけたところで、〈白の巫女〉、膝から崩れていった。


「梨穂子!」


 叔父さんがめちゃくちゃ素早く抱き起こして、


「あ、梨穂子じゃないや。でも、身体は梨穂子だから……」


 なんでか冷静になった。


「……ごめんなさい。なんだか……」


〈白の巫女〉さん、力が入ってないぞ。


「水かなんか要る?」


 俺が気を利かせると、


「ええ……」


 と言うので、台所へ走った。

 その間に叔父さんとグレンさんが、梨穂子さんの身柄を居間のソファまで運んでいく。

 大丈夫かね?


「巫女殿、」


 グレンさんも、声をかける。


「報告書に何か? それを知らせにおいでになられましたのか?」

「……それもあるけど……

 ……この、いい匂いはなに?」


 叔父が答える。


「……朝飯」

「すごく、いい匂いね……」

「まさか」


 叔父さん、水を持ってきた俺とすれ違う。

 そして朝食の、まだ残っていた焼きサンドの一切れを持って戻った。


「なにこれ! おいしいわ!」


 コンビーフとチーズとキャベツの焼きサンドにかぶりつく梨穂子さん、というか〈白の巫女〉を俺たちは茫然として見ていた。


「梨穂子、朝食時々抜くんだよな……」

「そうなの! 身体お借りしたら、思ったより消耗してしまって。

 でも、身体お借りしてるから、こちらのお料理もいただけるのね! 嬉しいわー」


 小休止。


「外、見てきていい?」


 霧はまだ来てないと思っていたけど、巫女さんが来ているのだ。こうしている間に、紫の霧が濃くなって、すっかり〈白の地〉になってるかも。


「まず、それか」


 叔父さんとグレンさんも来た。


「あ、タロキチ」


 ところが、玄関でドアを開けるといきなりタロキチが待ち構えていた。

 スマホ、スマホ。


「ワンワワン〈おはようございます。

 みなさん、朝なので表に散歩やジョギングなど人の往来があり、わかりづらかったかもしれませんが、実はもう白の地に鈴木邸、来ておりますよ?〉」


〈白の地〉に飛んでもピザ屋は普通に来る現象、そういうことにもなるのか? 町内が騒がしいと異世界に召喚されたのがわかりづらいって?

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