第43話 昭和なあいつが、まだあるというのか。

「あれー?

 浩平殿、これ、なんでござるー?」


 


 俺が階段を降りたところ。


「なんでござるー?」


 グレンさんが納戸の前で、何か両手に持ってる。


「あ、それ、」


 左手にあるのがコカ・コーラのヨーヨーで、右手のやつが、有名アクションドラマに出てきた通称スケバンヨーヨーだ!(しかも夜店のパチモン)


「あ」


 コカ・コーラのヨーヨーは、ロゴが入っているだけなのだが、スケバンヨーヨーは学園に潜入した学生刑事が犯人を追い詰めた時にぱちんと開け、中にある桜の代紋を見せる設定なので、蓋が開く。


 なんで知ってるか?


 父に聞いたからだ。そのドラマ、好きだったらしい。


「わー、拙者、これ開くのはじめてでござるー」


『なんでござるー?』とか、かわいく言っても、考えてみたら創作物の神だから、スケバンヨーヨー全く知らないのは考えにくいな。


 多分、このヨーヨー、ふたつとも父のものだ。まだあったんだ。

 スケバンヨーヨーは紐部分がチェーンだから、普通に練習するのはコカ・コーラの方を使ってた、て話してたから。だからどちらも父のだろうな。


 でも、葦原と探した時は出て来なかった。グレンさんが探したから、見つかったのかな……


「はしゃいでしまって、申し訳ないでござる。勉学の邪魔でござるな。拙者のひとり言は、どうぞお気になさらぬよう」

「……」


 いや、何となくはしゃぐんじゃないか、って思って来てみたら当たってたよ!


「棚卸しのあと、この先、日曜日の急な要求にすぐものが出てくるよう仕掛けておくでござるから、寛恕めされよ」


 グレンさんの法力ってそれか。


「うん。よろしく」


(そしたらあとでヨーヨー見ながら、叔父さんと話できるかも)


 ふいに父にまつわるものが出てきたので、なつかしい気分になってきた。


 にしても、グレンさん、はしゃいでいるとはいえ、結構な作業量じゃないのか。廊下に出ているものの数ときたら。昼前に少し休憩時間つくるか。

 俺は二階に戻り、教科書を出した。


 ……てところで、お約束のようにスマホが鳴った!


「葦原」


 メッセージ入ってた。


〈心の友よ、勉学ははかどっているか〉


 いつものやつだ。


〈明日は邪魔をする予定なので、本日中に試験対策は仕上げておきたまえ〉


 は?

 俺も返信を高速で打つ。


「〈来るのか?〉」


〈当然だ。心の友の自宅に危機が迫るのだからな〉


 危機前提か。

 ここで突っ込み返しても、なにかとあいつは面倒だ。


「〈とりあえず、わかった〉」


〈実は、うちも夕べはドタバタでな〉


 うん?


〈昨夜急患対応をしたオヤジ殿が、また玄関先で寝ていたのだ〉


 ありゃー、その話、今年なん回目だ?

 葦原の家は内科小児科の病院なので、親父さんがよくいろんなところで寝て、そのたび家族に助けられている。子供の急患は、ほんとうに大変そうだ。


〈俺も100キロ超えの息子として、オヤジ殿を抱えて部屋まで運んだのだが、よく考えたらそもそもこの体格はオヤジゆずりでな。腰がやられるところだったぞ〉


「〈おつかれさん🐬

 お前も腰、気を付けろよ〉」


〈では、また明日な。今日は勉学に励もうぞ心の友よ〉


「〈おう〉」


 …………さて。


 ………………………ここで余計なことを考えると、何も手につかなくなるな。


「なんでござるー?」


 まだやってるな。


 ……いやいや、階下に降りてはいかんのだ。


 * *


 それから一時間ほど、問題集に集中できたので、俺は偉いと思う。


「グレンさん、休憩する?」

「なんと。かような頃合いで?

 どうぞ浩平殿も少し息抜きを」


 さて、コーヒーでも入れるか。

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