第42話 ゆっくり朝飯ってのも久しぶりな感じだな。

 それから俺たちは三人でテーブルを囲んだ。

 普通にご飯など茶碗によそって、味噌汁はワカメと炒めたネギのやつ、それと卵二個ずつの目玉焼き。適当に切って焼いた、叔母さんが送ってくれたハムと、これまた適当に切ったトマトを添える。


「浩平殿も、見事な腕前でござるな。美味でござるよ」

「ありがとう」


 神様、目玉焼きは醤油派らしい。ついでに卵二つのうちひとつはご飯に乗せたな。


「梨穂子さん、何時ごろ迎えに行くの?」

「九時半の予定」


 式場の目星はついていて、あとは日取りほかの調整らしい。

 決めるの早いなと思ったが、考えてみれば二人とも花屋なので、取引が多くあることもあり結婚式場には詳しいのだった。ここだ、と決めていたところがあったんだろうな。


「お式は、いつになりましたので?」

「少し余裕を取って、来年の5月にしたいと思っていました」

「よき季節ですな」


 結婚式の準備って、時間かかるんだな。普通、半年以上かかるらしい。


「〈白の地〉の件が落ち着くまで、あまり用件詰めないほうがいいかな、って」

「お気を遣わせ、かたじけないでござる」


 グレンさん、頭を下げる。


「スズカワ殿の創作にも響く、〈赤の竜〉への憑依でござる。

 本来であれば、どんなハッピーエンドもバッドエンドも、後味がよくとも悪くとも、自在であったはずが、こちらへ侵食してくるとなれば、遠慮が増えるというもの」

「かといって、更新を放棄したら、今の状態がいつまで続くかわからないんだもんな」


 こちらの交渉がないことに乗じて、憑依した連中がどう動くかわからないし。

 あいつら、悪意があるんだろうな、という動きが見られるだけで、本当のところ何がしたのかよくわからないのもたちが悪いや。

 昨夜のタロキチの報告、〈侵食〉の内実を微妙に変えられてしまった例のように、連中の悪意が何を起こすかわからないのだ。


「解決するまでは、俺はなるべく慎重に更新して、日曜日に起こる出来事に注意する。できるのはそれくらいだ。

 ごめんな、浩平」

「え?」

「大事な高校生活なのに」


 また始まったよ。


「別にいいよ」

「でも」

「葦原たちもいるし。

 こっちの世界の安全がかかってるから、なるべく早く解決するに越したことはないけどさ」


 * *


 予定通りに叔父さんは出かけて行き、木造二階建て築五十年には俺とグレンさんだけが残った。


「じゃあ俺、試験勉強あるから」

「お励みくだされ」


 グレンさん、なにして過ごすんだろうか。


「失敬ながら、」


 耳打ちされた。

 いや、立ち聞きするの、叔父さんくらいしかいないぞ。


「え」


 ちょっと考えて、それから返事をする。


「驚いてごめん、でも、それ必要だね」


 グレンさん、鈴木邸の物置、納戸を検証して、日曜日に備える心構えを作りたいと申し出てきた。


「鈴木邸の装備を覚えておいてもらえたら、何かと助かるような気がする」

「そうでござろう、そうでござろう?」

「ただ、神様にそんなことさせるの気がひけるな」

「なあに。屋内で人目がなきゆえ、拙者の法力をちと用いれば、やすきことでござるよ」


 そうかー。そうきたか。


「じゃあ、なんかあったら呼んでね」


 そのまま二階に上がったが、瞬間、よくない予感がしてすぐに降りた。

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