第40話 〈白の地〉の〈救い手〉さま
博士に案内された洞窟は、昔は翼竜の巣だったそうだ。
「今は、わしの機械たちを置かせてもらっております。
ここで、ここに住まっていた翼竜たちがいたことに思いをはせると、きっとこの機械の竜を成功させ、翼竜たちを守ろうと決意をあらたにできるのです」
〈俺〉たちの旅も、そろそろ十日程になる。
ここの雰囲気も少しずつわかってきた。
そして、〈俺〉自身もなんだか翼竜がかわいくなってきた。
なので、博士がやたらと熱く、押しが強いのもなんだか理解できる。
「長くこの地の人間の友であった翼竜たちを、ただの道具にしてはならぬのです。
古くから翼竜たちは、人間たちからの情に報いるかたちで力を貸してくれているのだといいます」
そうなのか。
「ですから、番号で呼ぶなど、本来考えられぬのです。このようなことが続き、名付け、友となることをやめた人間から、彼らは離れてゆくでしょう」
……ここでは戦乱、小競り合いにとどまらない、大変な事態が起こっているんだな。
「ところで、ブランカの件ですが、」
おっさんが切り出した。
「先ほどご説明した通り、討伐隊の者だけが、あのあやしき蝶に触れたのちに姿を消したのです」
「……」
「いずれもこちらを訪れた者ばかり、と」
「……たしかに、彼らはここに来て協力してくれた仲間ばかり。機械の竜の身体を頑丈で滑らかに動けるよう、鉄を鍛えるところから知恵を出しあった」
それが〈赤の竜〉の目についたのか。
「〈赤の竜〉。あやつは瞬時に邪魔者を排除する。理由は目的の妨げだから、それだけで慈悲はない」
だが、その〈目的〉が人間の理解をあまりにも離れている。
「〈混沌〉と〈安定〉。
この世にあるものすべてを飲み込み、巻き込んで、それだけ」
悪意のある侵攻、を行っているのではない。
大きな災厄。そちらがまことの姿に近いと言えるかもしれない、と、博士が。
「落雷、地震、土砂崩れ、洪水、津波、人間の力が及ばぬ災害のごとき〈赤の竜〉です」
〈俺〉も、よくわからんうちにこの世界に喚ばれて来たのだし、人間の力が及ばないことに巻き込まれたばかりだが、自然災害に比べられるとな。喚ばれたくらい大したことないような気がしてくるから不思議だ。友達の実家が津波で流されたことがある。
「〈悪意がない〉。
心の動きに何かと左右され、そのために喜びも苦しみもある我々ですが、であるからこそ、堪え忍ぶだけでは壊れてしまう。
〈討伐隊〉は、立ち向かうことで自らを鼓舞し、我々は、翼竜の友として助けとなる機械や武具を工夫しております。
〈悪意がない〉、〈心を持たない〉というものからは、我々はどのように見えるのでしょうな」
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