第39話 ところで俺と叔父さん
叔父さんはグレンさんのあんな発言を聞いて、それから部屋に戻ったので、そのまま休んだのだと思う。
普通に疲れるよなこれ。
「いやいや、お構いなく」
それでなんとなく、グレンさんは俺の部屋にいる訳だが。
「まだ勉学に励まれるでござろう?
拙者、こちらで充分でござるゆえ」
て、指したのは押し入れか!
「いやあ、落ち着くでござるな」
俺の分の布団を放り出して、自分でなんかスペース作り始めたぞ。
「では失敬」
閉めちゃったよ。
ドラ◯もんか。
いや、神様だから、なんか……祠? そっちのイメージか?
まあ、俺は勉強するけどな。
* *
いや、こんな事態で数学など解いている場合か。
てかなんか、集中できなくなったな。
台所に降りて、とりあえずインスタントコーヒーいれた。
ふう。
で、なんだ? 叔父さん、どんな状況だ?
てか、グレンさん、明日は何して過ごすんだ? 俺も叔父さんも、あんまりお構いできねえな。叔父さん、結婚式場決める、て言ってたし。
そう。あの甥(俺)に遠慮してたあれ。梨穂子さんのご両親が介入したら一応解決して、もう進めちまえ、てなったんだわ。
もともと俺、卒業したら就職して家を出ようと思っていて、その相談もずっと叔父さんとしていたし、梨穂子さんも、当面ご実家とこっちの家行き来しながらの生活になりそうということだし。
それはそれで。
……なんか忘れてる気がするんだが、まあ、机に戻るか。
コーヒーカップを持ったまま二階に戻り、机に向かう。
「そういえば」
試験期間中って、余計なことばかり浮かんでくるな。
「叔父さんのネタ帳に、なんで俺宛にあんなこと書いてたんだ?」
何かの時には俺にアカウント管理を託す、みたいな一文。
「日影丈吉にあやかろうと、そういうことらしいでござるよ」
「わっ」
急に押し入れが開いて、驚いた。
「すまぬすまぬ」
「びっくりした。
でも、やっぱりそうなんだ。深刻な何かの事情があったのかと思って、心配したんだ、あれ」
「叔父上思い、結構なことでござる」
日影丈吉は出征する前に、原稿を姪に託したという。
昔の原稿は全部紙だし、戦争中だからいつ燃えるかわからない。今より深刻だったろうな。まあ、デジタルもデータが飛んだら一瞬だけど。
「でも、物理で原稿託されたら、託された方も、なんか覚悟が重くなりそうだな」
「そう思うでござるか?」
「なんとなく」
「今の甥ご殿も、相当なお覚悟をされているとお見受けできますがな」
「それは……」
創作世界がリアルでこっちに来るんだもんな。
「なんだろう。覚悟、っていうか。
叔父さん、ほとんど誰にも内緒でスズカワサトシの活動、していた訳じゃないですか」
「ふむ」
「叔父さんにも叔父さんだけの世界があって、なんか、戸惑ったけど、嬉しかった」
ずっと俺の面倒みるのにかかりきりなんだと思ってたから。
「だからやっと、俺が俺として役に立てるかも、って、そういう感じなんだ」
覚悟よりも、少し嬉しいんだな。
「そうでござったか」
「で、そろそろ勉強していい?」
「もちろん」
「グレンさん、起こしてごめん。おやすみ」
「失礼いたす」
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