第19話 白いギターのために鈴木邸は召喚されたのか

 家の外が異世界となったのは、本日二度目。


 俺と葦原は、とりあえず表に出たわけだが。


「え、夜なのか?」


 時間の流れがこちらとは違うので、いつであってもおかしくはない。


「また森の中だけど、こないだとは少し違う場所のような気がする」


 葦原が懐中電灯で向こう側を指す。

 紫の霧が、今回どうも以前より薄く見える。何となく。夜目のせいだろうか。風のせいだろうか。


 馬が二頭。


 その少し離れたところに。


「人間?」


 二人、転がっている。


「まさか、」


 俺がした最悪の想像に葦原は気付き、


「いや、夜だぞ」


 寝ているだけか。


「どなたでござるかな?」


 横向きの姿勢のまま、声が飛んできた。

 この声は。


「グレンさんですか?」

「おお、甥ご殿で?」


 野営をして、寝入ったところだったという。寝袋のようなものを使って。

 悪いことをした。

 が、こちらもこちらへ来たくて来ているわけでもないので。


「叔父さんは」

「おお。こちらへ。

 ほれ、スズカワ殿?」


「………」


 叔父まで起こしてしまった。

 が、鈴木邸がこちらに来るということは、叔父は何か持ち出したいものがあるということだろう。


「……」

「せっかく安眠いたしていたところ、申し訳ござらん」


 何事か起こったのか、叔父は寝ぼけてわからんらしい。


「そちらをご覧あれ」

「……?」

「〈日曜日〉が、参ったようでござる」

「日曜日」

「奇妙でござるな」


 グレン氏も首をかしげる。

 こちらでは、先週からどれだけ日にちが経ったんだろう。


「ものを、取りに……どうして……」


 そうだよ叔父よ。今日はなんだよ。


「……ギター?」


 はい?








 おいおい、ギターって、あの白いギターかよ。


「なんで? 何に使うの?」

「浩平か。今日はそっち、いつの日曜だ?」

「こないだから、ちょうど一週間後の日曜だよ」

「何。こっちではそれ、一昨日の話だぞ」


 ということは。


 叔父が何か、自宅のものが必要になったとき、無理矢理〈白の地〉に鈴木邸は召喚される。それはいいとして(←よくはない)。


 叔父があちらに召喚されて半日ほど経過したとき、俺たちは、ひと月も戻らない、と、騒ぎになった。


 それと比べて今回は。あちらではあれから三日目、こちらでは一週間経過、と。


 なんだ、このズレかた。


「これですか」


 俺と叔父が呆然としているその横で、葦原は俊敏かつ冷静に叔父の部屋から白いギターを取ってきた。


「ほう、これは」


 グレン氏が感心する。


「スズカワ殿、これは楽器ですかな?」

「ああ、そうなんだが……」

「ここでひと節、ご披露いただけるという、そういう趣向ですかな?」


 いやいやいやいや、出し抜けに。


「確かにさっきまで、気分がいい晩だったんだよ」


 それで、ギターでも弾きたいような夜空だな、そう思っただけだと。なんか昭和っぽいこと言われた。キャンプファイアを囲む若人かよ。

 見れば焚き火あともある。野営だからな。


「そういえば今日は、家がこっちに来るの二度目なんだが」


 叔父の要求が何もからんでないのに、急に〈白の地〉がつながって、翼竜が来たことを手短に話す。


「……なんでだ?」


 作者がわからないことを、俺が知るか。

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