第11話 「サプライズ」

 今日は日曜日で、こないだと同じようで少し違う、俺の部屋の二階に異世界が来て、また去っていった。


 その直後に来たメール。

 異世界に飛んでしまった叔父が、こちらの世界で働いていた店の、店長からだ。


 神薙梨穂子かんなぎ りほこ


 そりゃあ、俺はこの人少しは知ってるよ。店で会ったこともあるよ。甥だもんよ。叔父さんの勤め先の人だもんよ。お世話になってます、くらい言うだろ。


 もしもの時の家族連絡先として、お互いの電話番号も知ってる。叔父がいなくなってからは伯母を交えて話したし、なんだかんだで書面やサイトのリンクのやり取りも出て、メールアドレスも知ってるもんよ。


 しかし。しかしだ。


「こないだ、俺と浩平、叔父さんの部屋漁りしたんだよ」


 人聞きが悪いな。〈失踪の手がかり探し〉だ。


「こういう時に都合がいい、日記の類いはなかったのだが」


 叔父の都合で異世界に飛ぶ昭和の家のくせに、昭和サスペンスのテンプレは降臨してくれなかった。


 とりあえず失踪した本人の日記にそれらしいことが書いてあって、そこから故郷の町へ飛び、死んでいたと思ったら生きていて、崖の上でこれまでの独白をされ、思いとどまり生まれ変わってやり直すように片○なぎさが説得するのだ。


 ここに関わる誰も『スキル:昭和』の持ち主じゃないらしいな。


 スキルが〈昭和〉ってどういうことだよ。知らねえけど。


 またもなんでこういう時に葦原が仕切るのかわからんが、話してもらおう。


「どう思うよ、栞さん」

「ん?」

「もしも俺がさ、」

「うん」

「誰にもなんも話してないうちから結婚情報誌集めて、婚姻届の書き損じ持ってたら」


 栞さん、固まる。


「……ごめん、ちょっと引くかな。

 まだその、私も心の準備が……

 え!?」


 固まった割には察しが速かった。


「叔父さんの部屋に、あった、ってこと?」


 そう。

 そして、その書き損じには、


「〈神薙梨穂子〉って書いてあった」

「……それは」


 葦原の話を継いで俺が告げた内容に対し栞さん、この瞬間ものすごく言葉を選んでいる。


「……その、店長さんと叔父さん、交際をされて……いたの?」


 俺は首を振る。それこそなんも聞いてなかった。


「あー……」


 いや、栞さんが困惑するのはわかる。

 なにそれ、ストーカーとか? 妄想とか?

 言葉の選びようがないケースばかりが推察されても弁明の余地がない。


「浩平くんのお誕生日の〈サプライズ〉って、それのことだったんじゃない?」

「さすが栞さん!」


 どこまでも善意の解釈をする彼女を葦原が讃えた。


「隠れて付き合っていたんだよ、きっと。

 でも、誕生日の主役ほったらかしでそれが強く出されるのもなんだから、サプライズついでに伝えようとしてたとか、そんなやつじゃない?」

「隠れて付き合ってた、かな」


 いくらなんでも同居している甥に、それは隠せるものなのか。


「あー、それだな、きっと」


 葦原が強く同意するのはなぜだ。


「だって、俺と栞さん付き合ってたの、全然気づかなかったよな!」

「そうそう!」

「……」














 気を取り直すのに、しばしかかった。










「まあ、今は『サプライズ』だったとしようよ」


 栞さんの声で我にかえった。


「そうか。じゃ、そういうことにして、」


 メールをひらく。


「〈元気にしていましたか。試験も終わったころですね、お疲れさまでした〉」

「優しいね」


 栞さんの声を聞きながら、俺はメールを読み進め、ある部分で固まった。


「……〈直接、お見せしたいものがあります。〉?」


 そのタイミングで、スマホが鳴る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る