第9話 ペパロニ・チーズミックス増量の何が、〈翼竜〉を惹き付けるのか。

 シーフードミックス。トマトソース。チーズ。エビとイカ。栞さんが好きらしい。


 ポテトベーコンコーン増量は、何の説明もいらないだろう。葦原、小学生の頃からこれは外せないのだ。


 三枚目はペパロニ・チーズミックス増量である。辛めの味を選んでくれたのは、俺にも気を使ってだな。


「……よかった」


 Lサイズ三枚三千円(税別)のクーポンを当てて以来、葦原の頭の中が三枚の選定でいっぱいだったことは想像に難くない。たとえ期末試験期間中でも。三枚。栞さんと俺の好みまで悩んでくれたようだ。

 普 通 に 聞 け よ メ ニ ュ ー の リ ク エ ス ト く ら い 答 え る か ら 。


 葦原によれば、ピザトットの配達員は特に家の二階を不審に思うことなく受け渡しを済ませたという。客商売ゆえにスルーしただけかもしれないが。


「ほら、ピザトットのウインドブレーカーまで当たったぞ。配達員さん、おめでとう、って言ってくれたぞ」


 配達員の端末ガチャで当てたそうだ。色は青でタバスコを両羽に構えた黄色いヒヨコである店のキャラクター、ピザトットが背にいる。葦原のサイズではなさそうだが。


「よかったけど、〈翼竜〉大行進まだ終わってないよー」


 栞さん、スマホの画面と窓の外を交互に見ながら。


 どうも〈翼竜〉は戦闘状態ではなさそうなので、さて、これは何話の場面なのか。そこが気になった。

 あれだけ読み込んできたつもりの俺たちが、すっと浮かんでこないということは、よほどさりげない記述だったのかもしれない。


「今回はこっち、普通に時間流れてるんじゃねえ?」


 葦原、さっきまで座布団とちり取りで装備していたのはなんだったのか、麦茶を分けながらのんびりそんなことを言い出す。


「なんか普通にピザ冷めてくみたいだわ」


 なるほど。


「食おうぜ」


 よくこの状況で、と思うが、昔からこうなんだよなー。


「……!」


 そういえば、さっきから霧の向こうから。


「!なに? この家?

 どっちにしろ、そっちじゃないわよっ!」


 女性の声。


「……これかなあ?」


 俺がペパロニ・チーズミックス増量をひとくちかじったとき、栞さんが、シーフードミックス片手に何か見つけた。


「『姉妹は昔、この町を通過して〈翼竜〉の大群を納めたことがあり、』」


 え、なんだ? それ、何話? ひょっとしたらそんな一行だけ?


「こら! リーナ! 覗かない!」


 なんだ?


 昭和の木造住宅、その二階の窓を、〈翼竜〉二号が覗き込んでいる。


「あれ? なんかいい匂い……

 あっ、リーナ!」


 リーナと呼ばれた〈翼竜〉二号は、人間を背に乗せてはいるが子供なのかほかの個体と比べ小柄で、窓からいきなり頭を突っ込んできたかと思うと、


「ああ?」


 俺のペパロニ・チーズミックス増量をぱくり、と奪い取った。


「なんてことするの、リーナ!」


 背に乗っていたのは、少女のようだ。


「あっ」


 栞さんが、嬉しそうな声を上げる。


「もしかして、あなた、」


 リーナの背にいる少女。

 銀髪のショートカット、紫の瞳。


「ランさんですか?」

「え、どうして知ってるの?」


 この場の全員がきょとん、としている間にリーナは首を伸ばし、残りのペパロニ・チーズミックスを平らげ、箱を舐めていた。

 窓はさすがに通れないようだが、ガラスを無理矢理割らないとは、行儀がよい。

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