第113話宮中盗賊事件(1)

つごもりの夜、追儺はいと疾く果てぬれば、歯黒めつけなど、はかなきつくろひどもすとて、うちとけゐたるに、弁の内侍来て、物語りして臥したまへり。内匠の蔵人は長押の下にゐて、あてきが縫ふ物の、重ねひねり教へなど、つくづくとしゐたるに、御前のかたにいみじくののしる。内侍起こせど、とみにも起きず。人の泣き騒ぐ音の聞こゆるに、いとゆゆしくものもおぼえず。火かと思へど、さにはあらず。

 「内匠の君、いざいざ。」

と先におし立てて、

 「ともかうも、宮下におはします。まづ参りて見たてまつらむ。」

と、内侍をあららかにつきおどろかして、三人ふるふふるふ、足も空にて参りたれば、裸なる人ぞ二人ゐたる。靫負、小兵部なりけり。かくなりけりと見るに、いよいよむくつけし。


大晦日の夜、追儺の儀式があっという間に終わってしまったので、私はお葉黒をつけるなど、少々身づくろいをして、ゆっくりとしておりました。

弁の内侍が来て、お話などをして、横になられました。

内匠の蔵人は、長押の下に座り、あてきが縫う仕立物の重ねひねりを教えたりして、静かにしていたのですが、中宮様の御座所の方角から、大きな声がしているのです。

私は弁の内侍を起こそうとしましたが、なかなか起きてはもらえません。

人々の泣き騒ぐ声が聞こえてきますし、恐ろしくもあり、様子がわかりません。

火事になったかとも思いましたが、そうではありません。

「内匠の君、さあさあ」

と強引に先に歩いてもらい、

「とにもかくにも中宮様だお部屋におられるのですから、まずは参上して、ご様子を見ましょう」

内侍を無理やりに起こして、三人で恐ろしさに震えて、足もふわふわとしながら、参上してみますと、裸の女性が二人、うずくまっています。

靫負、小兵部でした。

このようなことだったとわかると。ますます恐ろしくなりました。

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