幼馴染のふりをして女子高生のバーチャル女子会に顔を出したら、なぜかみんな全裸だった

kattern

幼馴染のDiscordを設定していたら全裸女子会が始まった件について

第1話

 小野原陽佳は僕の幼馴染。

 幼稚園の頃に僕の家の隣に越してきてからの付き合いだ。


 おっとりしていて優しい陽佳。そんな彼女のことが僕は大好きで、中学に上がっても普通に家に遊びに行ったりしていたんだ。


 もちろん異性としても好き。

 幼馴染じゃなくて恋人になりたいなって思ってる。

 けど、高校生になって陽佳がお嬢様女子校に進学したのを機に、僕たちはちょっと疎遠になっていた。


 だから、陽佳からLINEで「ゆうちゃん、ちょっと相談があるんだけれど。私の部屋に来てくれるかな?」って連絡が来たとき小躍りしちゃった。

 久しぶりに陽佳に会えるぞって――。


「ごめんね、ゆうちゃん。私、パソコンよく分からなくて」


「いいよ陽佳。Disordの設定なんていくらでもやってあげるよ。僕は陽佳の頼みだったらなんだって大喜びさ」


「えへへ、ゆうちゃんってばやっぱり優しいな」


「僕が優しいのは陽佳だからだよ」


「……え?」


「なんでもない、なんでもない!」


 好きな女の子と話せたうれしさで、セリフが少女漫画になってしまった。


 ダメだぞ勇一。

 一途系男子のマネなんて。


 けど、その意味深な「……え?」はちょっとドキッとしちゃったよ。


 もしかして脈アリなのかな?


 パソコンを前に肩を寄せ合って座っている隣の幼馴染。

 彼女が僕の言葉にどんな顔をしたのか、ヘタレの僕にはちょっと確認できない。

 誤魔化すように僕はチャットソフトの設定を進めた。


 陽佳の相談とは他でもない。

 お嬢様学校の友達とネット女子会をすることになったのだが、そのやり方が分からなくて困っていたのだ。


 昔から機械音痴なんだよね、陽佳って。


「どうかな? できそう?」


「うん。後はサーバを登録するだけ」


「すごーい! ゆうちゃんってば天才だね!」


「これくらい普通だよ」


「……あ、そうだ。ビデオ通話するからお化粧しなくちゃ。ごめんね、ゆうちゃん。ちょっと席外すね」


 別にお化粧しなくても陽佳は美人さんだけれどな。

 なんて、言ったらどんな顔をするんだろう。


 可愛らしく頭を下げる陽佳。

 毛先にほんのりとパーマがかかったミディアムの髪を揺らして、彼女はひょいと僕の隣から立ち上がる。

 ポーチだけを持って陽佳は部屋を出た。


 さて、どうしようかな。


「サーバーの登録もしてあげようかな」


 陽佳にやってもらうつもりだったけど、どうせ僕がサポートするものな。

 それなら僕がやっても問題ないかも。


 ただ、陽佳の友達にどう説明しよう。


「ただの幼馴染だって言って、信じてもらえるかな?」


 彼氏だと勘違いされちゃったりして。


 えへへ。


 そんな妄想をしつつ僕はサーバーを登録する。

 ひとつしかないボイスチャンネルには既に先客が二人。

 ちょうどいい、通話テストに付き合ってもらおう。


 僕はさっそくチャンネルに入った。


 すると――。


『いかがです愛菜さん、この私のアバターは? プロのイラストレーターに依頼して作っていただきましたのよ』


『あはは、みこちんなに言ってんの。みこちんの裸しか映ってないよ』


『……おかしいですわね? こちらでは普通に動いていますのに?』


 端正な肉体に高貴な顔立ち。

 ビックなボインにすべすべお肌。

 胸のポッチを縦ロールがナイスセーブ。


 全裸の金髪縦ロール女子がデデーンとパソコンの画面に現われた。


 ――どうなってるの?


『あら、陽佳さん。ごきげんようですわ』


『よっぴーやっほー! ディスコの使い方分かったかな?』


 彼女たちは陽佳の友達に間違いないらしい。


 けど、なんで全裸なの。

 陽佳の女子校で、空前の全裸ディスコブームが起こっている――ってこと?


 いや、そんなバカな。


『陽佳さんには、私のアバターが見えてますよね?』


「いや、見えてないです。見えるのは白い肌とおっぺえだけ」


『これ面白いんですのよ。カメラに向かってポーズを取るとその通りに動きますの』


 やめて! 揺れて縦ロールの中から見えちゃいけないのが見えちゃう!


『変顔をするとアバターも同じ顔をしますの。こんな風に』


 なんでアへ顔ダブルピースなのさ!


 ノリノリで下品なポーズを決める金髪縦ロール全裸お嬢さま。

 そこはかとなく漂う気品が台無しだ。


 なんなのこの金髪お嬢さま。

 全裸配信だけで立派な通報事案なのにそこに変顔を重ねないで。


 女の子同士なら許されるノリだけれど、男の子の前でやったらドン引きだよ。


 ってそうですね、女子会でしたね。


 僕が部外者だったんでした。


『どうしたんですの陽佳さん? 全然喋りませんわね?』


『もしかしてミュートしてるのかな? よっぴー、もしもーし!』


 きょとんとした顔をする金髪お嬢さま。

 幸いにもマイクの入力が切れていたらしい。カメラも映していないから、二人とも僕のことを陽佳だと思っているみたいだ。


 うぅん、これは見なかったことにして、そっと閉じた方が良さそうだな。


 いやけど、このまま金髪の子が全裸なのも可哀想だな。


「テキストチャットならバレないか。『画面共有機能を使ってください』っと」


『あら、陽佳さんからチャットが』


 ふむふむと頷いた金髪お嬢さま。

 カタカタとキーボードが鳴ると映像がアニメキャラクターに切り替わった。


 わぁ、本当だ。すごい。

 かわいい美少女キャラクターだ。

 VTuberみたい。


 ――全裸だけれど。


「だからなんで全裸なのォ⁉」


 動揺する僕をそっちのけで、全裸女子高生たちはあははと笑った。


 そして『やっぱり恥ずかしいですわね』と言って、カメラ映像に戻した。


 アバターの裸が恥ずかしくて、自分の裸が恥ずかしくないってどういう倫理観?


『ていうかよっぴー凄いじゃん。こんなの知ってるんだ』


『そうですわね。陽佳さんはこういうの苦手なイメージがありましたのに』


 あっけに取られていたら、ちょっと話が予想外の方向に進む。


 いけない。

 余計なことをしてしまったかも。

 これ以上、彼女達の裸を見るのも気が引けるし、もう通話を切ろう。


 僕はボイスチャンネルの切断ボタンを押そうとする。

 しかし、突然ボタンの位置が移動した。


 画面が増えたのだ。


『ねぇねぇ、よっぴー? このソフトの使い方も分かる? なんかね、自分の顔にアイコンをかぶせられるらしいんだけど』


『あら、可愛らしいニコちゃんマーク』


 パソコンの中に陽佳の友達が増える。


 こんがりと日に焼けて健康的な身体。

 胸はちょっと控えめだけど、なんかそれが逆にエッチ。


 そんな彼女の動きに追従してに😊マークが揺れていた。


 どうやら、チャット相手に顔を隠すソフトを使っているらしい。


 ただ、表示されている位置がおかしい。


 ○首やん。

 おっぺえの先を隠していらっしゃるやん。


 ――彼女も全裸やん。


『どれだけ調整してもこっちを隠しちゃうの。なんでかな?』


 知りませんよ!


『あとこれ、アイコンも変えられるんだよ。ほら、💗マーク』


 ダメだぁー! エッチな自撮りの奴だぁー!


『シンプルに黒い棒とかにもできるんだ。すごいよね』


 犯罪臭がヤバイことなってるぅー!


 だめだ。

 僕が陽佳じゃないってバレたら絶対に訴えられるよ。


 同級生の女の子になりすまし、JKの裸を盗み見たDKとして立件されちゃう。


 ドスケベサイバーセキュリティ事案だ!


『こんにちは。みなさん、いらっしゃいまして?』


「また誰か入って来た!」


 僕が虚無っている間に、また通話の女の子が増える。


 日本人形みたいな姫カット。

 心配になるくらい華奢な身体。

 けれども胸はたゆゆん水まんじゅう。


 そして――。


『すみません。ちょっと格好が乱れておりますので、音声だけの参加にしますね』


「乱れるほど着てない! やっぱりまた全裸だ!」


 全裸は全裸を呼ぶということか。


 ――また、全裸だった。


 どうやらカメラ入力を切るのを忘れて全裸でディスコに入ったらしい。


 もうやんなっちゃう。


『アハハ! ゆきちゃんってばカメラ入ってるよ! 映ってる映ってる!』


『えぇ? あら、お恥ずかしい……』


『大丈夫だよ、私たちも全裸だから』


 大丈夫じゃないよ。


 全裸の絆を感じないで。深めないで。

 旅館に泊って一緒にお風呂みたいなノリでビデオ通話しないで。


 あと、陽佳をしれっと全裸参加させないで!

 陽佳は全裸になんかなりません!


『いやー、けど、見事にみんなすっぽんぽんだね』


『家ではやっぱり全裸ですわね』


『はしたないですけれど、裸に勝る部屋着はありませんからね』


『『『うふふふ……』』』


 お嬢様ってこんな娘ばっかりなの?


 ショックなんだけれど――。


 なんか疲れてしまった。

 全裸がどうとか、すっぽんぽんでエッチとか、JKのあられもない姿がとか、もうどうでもよくなってきた。


 いや、ちっともよくないんだけれどもね。

 覗きダメぜったい!


「……自首しよう」


 彼女達にごめんなさいしよう。

 女の子達の秘密の女子会を覗いていたことをちゃんと伝えよう。

 それがきっと彼女達のためだ。


 僕は社会的に死ぬだろう。

 けれど、彼女達が全裸ビデオ通話の危険に気づいてくれるならいいじゃないか。

 これだけ色々拝ませてもらったんだ、それくらいさせてくれ。


 でないと、うしろめたさでしぬ。


 覚悟を決めた僕はマイクのミュートを切る。同時に、カメラ入力もオンにすると、男らしく堂々と彼女達に姿をさらした。


『……え? 陽佳さん?』


『あれ、よっぴーの画面に、なんで男の人が?』


『あら? あらあら、まぁまぁ!』


 ようやく全裸女子達の間に動揺が走る。

 ただ、なんか思っていたリアクションと違う。


 もっと、「耳ないなった」くらい叫んでもいいのよ。


「すみませんみなさん。僕は陽佳の幼馴染で、勇一っていいます」


『陽佳さんの幼馴染?』


『あっ! いつも言ってるゆうちゃんだ!』


『あらー、ゆうちゃんさん。はじめまして』


「これは丁寧にどうも。って、そうじゃなくてですね。みなさんダメですよ、ビデオ通話で全裸になったら。もし誰かに見られたらどうするんです」


『え、けど、今日はそもそも【全裸女子会】って話ですので』


 ――なんですって?


「ゆうちゃん」


 その時、部屋の扉がガチャリと音を立てて開いた。


 栗毛色でふわっとしたミディアムの髪。

 発育良好なふわふわボディ。


 息づかいに合わせて揺れる桜色のつぼみ。

 それと目が合った瞬間、僕の中で何かが切れる音がした。


 たぶん――鼻の血管だな。


 もはや言葉にする必要もあるまい。


「あのね、ゆうちゃん。今日は本当にありがとう」


「陽佳⁉ そ、その格好はいったい⁉」


 ――全裸だ! 陽佳の全裸だ! YATTAAA!


 って、喜んでる場合じゃないよ。


 なんで脱いでるの!


 困惑する僕の前で恥ずかしそうに俯く陽佳。

 その表情がもうすっかり大人の女で、僕の胸が暴れ牛のように猛然と高鳴った。


「あのね、ビデオ通話は口実なの。ゆうちゃんと二人っきりでお話したくて」


「待って陽佳。今ちょっと、二人っきりじゃなくて」


 ビデオ通話中なんです。

 パソコンで部屋の様子をブロードキャストナウ。

 君のお友達たちがDiscordの向こう側で全裸待機。


 わっふるわっふる。


 って、言っても伝わらないんだろうな。


 陽佳ってば機械音痴だから。(白目)


 震えた声で「いいから」と陽佳が呟く。

 彼女は身をかがめると、そのまま僕に覆い被さるように掴みかってきた。


 乱暴に動くと陽佳を傷つけそうで、僕はもう彼女のなすがままだ――。


「ゆうちゃん、私のことキライ?」


「そんなことないよ! けど、陽佳ちょっと待って! 今、こういうのは!」


「私たち、もう高校生だよ? おかしなことなんかじゃないよ?」


「そうじゃなくてぇ!」


 馬乗り。

 切なそうに僕を求める幼馴染に僕は身動きも言葉も封じられてしまった。


 ずっとこうしたかった。

 そんな願いが目を合わすだけで伝わってくる。


 僕もだよ陽佳。

 ずっと、君とこんな風になりたかった。


 けど、待って。


 ほんとまって。


 今は状況がちょっとヤバイの!


『あらあらまぁまぁ、陽佳さんったら大胆ですね』


『やるじゃんよっぴー! そのままやっちゃえ!』


『けっぱれですわ、陽佳さん! 安心してくださいまし! いざとなったら私たちが証言台に立ちますわー!』


 止めなさいよ君たちィ!

 なにを応援しているのさ!


『『『認知はまかセロリ!』』』


「まかセロリじゃないよ!」


「美琴ちゃんたちの声がする。みんなが応援してくれている気がするわ……」


「気のせいじゃないんだ! 気づいて陽佳ちゃん!」


 さぁ、二人でいっぱい仲良ししましょう。

 とろんとした目で僕の顔を覗き込んでくる陽佳。


 だめだこれはもうとめられない。


 はじめてのおもいでまったなし。


 頼む、陽佳のお友達。

 お願いだから通話を切ってくれ。


 そんな虚しい僕の願いはしかし、JKたちの秘密の【全裸女子会】を見てしまったとあっては、叶うはずもないのだった。


 とほほ。


 ぼくはおさななじみといっぱいなかよしした。


【了】


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