秘密警察を立ち上げました

「本校のイジメ問題を解決するべく、秘密警察を立ち上げることを決めました。つきましてはメンバーを募集します。我々は匿名で連絡を取り合い、お互いのプライバシーは守られます」


 二ヶ月前、クラスの何人かの机の中に手紙が入っていた。瞬く間に学校中の噂になって、誰がこの手紙を書いたのか詮索が始まった。結局犯人は見つからず、くだらないイタズラだとみんな飽き始め、忘れられていった。しかしその裏では徐々に秘密警察のメンバーは集まっていた。おそらく二十人くらいいるだろう。かくいう私もその一人、手紙に書かれていたメールアドレスに連絡し、返事がきた。


「ありがとうございます。あなたは今からイジメ撲滅のための秘密警察の一員です。あえて我々のグループには名前をつけないことにしています。我々は一人一人が各々で活動し、情報共有をするだけです。イジメの加害者の名前とそのイジメ内容、その被害者の名前、これらを共有したいです。そしてその被害者を助ける、もしくは加害者に報復する場合にはその旨も共有していきましょう。ただ、行動するのはあなた一人です。我々は匿名で、影から支え合うだけです。よろしくお願いします」


 私はイジメを受けているわけではなかった。私の親友がイジメを受けていた。私は彼を助けることができず、気付かないフリをして、気丈に振る舞う彼に甘えていた。私は決心した。イジメの加害者であるN君に報復を行う。彼が学校にもう来られなくなるような、圧倒的な恐怖を見せてやる。


「こんばんは! イジメを報告します。三年二組のN君がS君をイジメています。殴る蹴るは普通、カバンを窓の外に投げて取りに行かせたりしています。私はN君に報復することを決めました。まずは彼の上履きを裏庭の池に捨てます。こうゆう小さいイタズラを繰り返し、精神的に追い詰めていこうと思います」


 返事がきた。たくさんの人から返事がきた。


「あいつ、私も嫌いでした! 私も密かにあいつにイタズラしてみたいと思います!」

「俺もNにイジメられてる。やってやるよ」

「俺、あいつの家知ってる。あいつのイジメの写真を撮って手紙にまとめてポストに入れてみる」


 それから二週間後、Nは学校に来なくなった。私達の活動が度を越していき、収集のつかない事態になってしまった。Nの上履き、教科書、体操着など彼の所有物が全て無くなった。彼のイジメの様子が撮られた写真や動画が家に送り付けられ、ネット上にも拡散された。毎朝黒板にNに向けられた悪口が書かれていた。Nは最初はブチギレて暴れていたが、数日で大人しくなっていき、来なくなった。


「皆さんの努力によってNを抹殺することができました。ありがとうございます。継続していきましょう」


 私はこの秘密警察を作ったのが誰なのか、実は知っている。なぜならあの最初の手紙、メンバー募集の手紙をあの人が私の机に入れたところをたまたま見かけてしまったからだ。


 私はサッカー部の朝練をサボって人気のない階段で時間潰すのを日課にしていた。親には朝練に行くフリをして。そもそも参加率の低い朝練だった。


 教室には誰かいる可能性があるので行きたくなかったが、その日はいつもの階段付近でバスケ部が筋トレを始めたので逃げるようにして教室に向かった。恐る恐る教室の中を覗くと、担任の先生が私の机の中に何かを入れてそそくさと出てきた。運良く先生は私には気が付かず、階段を降りていった。机の中を覗くとあの手紙が入っていた。クラス中の机の中を調べると、全員ではないが同じ手紙が入っていた。先生の人選は完璧だった。イジメの加害者や不真面目な生徒の机の中には入っていなかった。そしてお調子者、頭の悪い生徒の中にも手紙は入っていなかった。先生は本気なんだ。私は震えた。やってやるよ、先生、知ってるよ、先生が悩んでいること。Nからの授業妨害、先生の車への落書き、先生が辛いのを知ってるよ。何より親友のSがイジメられてるんだ。私が代わりに報復する。見ていてください、私は先生のために鬼になります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショートショート 仲蔵 @nakazou0526

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ