第11話


 人混みに紛れるように横断歩道を渡り、道路の向かい側に渡る。

コンクリートで造られた大きな駅が視界に入ると、小走りで改札口に向かう。

 駅の改札口を抜けて階段を進むと、プラットホームに辿り着く。

気配を消しながら人混みに紛れても、三人はピッタリと背後を付いて来ていた。

 何のために監視をしているのか、目的を吐かせる必要がある。

自宅が知られているため、ここで尾行を撒いてもあまり意味がない。

 学院の生徒が勝手に尾行しているのか、それとも学院側の教員が尾行をしているのかで対処が変わる。まずは尾行をしている者が何者なのか把握する必要がある。


 ちょうどタイミング良く電車が止まっていた為、何も気付いていない素振りをしながら電車に乗り込んだ。すぐに移動できるように扉の近くに立ち止まる。

 同じ車両に乗り込んできたのは一人だけで、他の二人は隣の車両に乗り込んだようだった。尾行をしている三人は息の合った連携で尾行を続けていた。

 一人が吹雪を見失っても、すぐに他の二人がカバーできるように連携を崩さない。

その手口は一見するとプロの仕業にも思えるが、敵意を隠しきれていない。

 しばらくすると車両の扉が閉まり、電車が動き出した。


 “ご乗車ありがとうございます。この電車は各駅停車、中野行きです。”


 スピーカーからアナウンスが聞こえ、電車が僅かに揺れる。

満員電車とまではいかないが、それなりに混雑している状況だった。

 車内には子供の笑い声やサラリーマンの話し声が響き渡っていた。

窓ガラスから外の景色を眺めていた吹雪は、気付かれないように周囲を探る。

 さすがに隣の車両までに気を配ることはできないが、同じ車両に乗り込んだ者は把握できていた。尾行をしている一人は女性であり、顔はフードで隠れていた。

 いかにも怪しい風貌だが、人混みに紛れているために違和感はなかった。


 「さて……やりますか」


 吹雪は尾行している女性の足元に冷気を発生させる。

車内にはエアコンの冷気が循環しているため、女性に気付かれることはない。

 ゆっくりと女性の足元を凍らせていき、身動きが取れないように固定する。

吹雪は鉄扇を取り出すと、素早く女性の背後に移動した。

 

 「大きな声を上げたら首を斬り落とす。逃げようとしても斬り落とす。俺の質問には嘘偽りなく答えろ。嘘を言った場合も命の保証はないものと思え」


 女性の背後に一瞬で移動した吹雪は、女性の耳元に小声で言い放つ。

女性の首元に鉄扇を当て、いつでも首を斬り落とせると殺気を滲ませる。

 いつのまにか尾行対象が背後に移動していることに、女性は驚きを隠しきれていなかった。フード越しで表情こそ見えないが、動揺を隠しきれていない。

 人混みに紛れているため、誰も吹雪の行動を気にも留めていなかった。


 「お前は誰だ?何のために尾行をしている?尾行を指示した者は誰だ?」

 「くっ……」


 女性が悔しそうに息を飲むのが伝わってきた。

尾行がバレているなど考えもしなかったのだろう。

 女性は一瞬だけ逡巡した後、口を開いた。


 「私の名は御門緑みかどみどり。五芒星学院の三年だ。生徒会にも属している。学院長の指示で尾行していた。貴様は学院の生徒を三人も殺害したんだ。お咎めが何もない方がおかしいと思うが?」

 「なるほどな。嘘は言っていないようだな。隣の車両にいる者も五芒星学院の生徒か?残りの二人の名前は?」

 

 緑と名乗った女性は男勝りな口調ではあるが、慎重に言葉を選んでいた。

少しでも対応を誤れば殺されると思っているのであろう。

 学院で殺害した者は四人のはずだが、緑は三人を殺害したと言っている。

奇跡的に一命を取り留めた者が一名いるということなのだろうか。

 確実に息の根を止めたはずだが、吹雪は妙な違和感を感じていた。

 

 「他の二人も生徒会に属している生徒たちだ。名前は双海恭介ふたみきょうすけ加賀忍かがしのぶだ。学院長の指示で尾行を続けていただけで、貴様に危害を加える気はない」

 「先ほど、お咎めが何もない方がおかしいと言っていたではないか?言っていることが矛盾している。何が目的だ?」

 「あくまでも我々の目的は監視。それ以外の指示は受けていない」

 

 嘘を言っていると直感的に悟り、殺気を滲ませる。

監視が目的なら、もっと慎重に尾行を行うべきだった。

 緑たちが吹雪の隙を窺っていたのは誰の目から見ても明らかである。

もし、吹雪が隙を見せていたら攻撃されていた可能性は否めない。

 それに緊張しているふりをしながらも、未だに敵意を隠しきれていない。

隙あらば攻撃に転じようとしていることは筒抜けであった。

 

 「嘘だな。監視して何の意味がある?他に目的があるのだろう」

 「本当だ。嘘は言っていない」

 「なら首を斬り落とす。覚悟はできているな?」


 右手に力を込め、緑の首元に押し当てている鉄扇を僅かに引く。

緑の首に鉄扇の先が食い込み、斬り裂かれた皮膚から血が流れ落ちる。

 少しでも力加減を間違えれば緑の首は、簡単に斬り落とされてしまう。

緊迫した空気の中、緑は逡巡を繰り返していた。

 学院長からの指示は秋月吹雪を拘束することであった。

もし、拘束できない場合は生死を問わないとも命じられていた。

 

 学院の生徒を三人も殺害し、グラウンドを氷漬けにした張本人である。

当初は速やかに拘束した後に尋問をする予定であったが、思いのほか吹雪に隙が無かった。そのため、吹雪に隙ができるまで監視に徹するしかなかった。

 だが、その監視がバレていた。予定外の事態に心臓の鼓動が敏感になる。


 「待ってくれ。学院長からの指示は君を拘束し、尋問すること。なぜ、生徒を殺害したのか、調べる必要があった。でないと殺された生徒の保護者に説明がつかない。なぜ、殺したんだい?聞かせてくれ」


 嘘を言っているようには見えなかったが、本当のことを言っているようにも見えなかった。それに吹雪がいじめに遭っていたことぐらい調べればすぐに分かること。

 今さら尋問したところで、意味のないことだとすぐに分かる。

学院長が何を考えて生徒会の生徒を動かしたのか、知る必要がある。


 「なぜ、生徒を殺害したのかだと?それについては既に調査が済んでいるはずだ。俺が聞きたいのは学院長の目的だ。正直に言わないのであればお前ら三人とも生きては帰れないと思え」

 「……」


 


 

  


  

 

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