第17話 解かりあえる日

 法子と俺は、あの電話から数日後に

今度は別の場所で、会うことにしていた。


お互い、駅での待ち合わせとかの話にはならず

直接店で待ち合わせをした。


俺は、法子を待たせるのは気が引けたので、30分前くらいに

店についていた。


正直、かなり緊張している。


偶然会った、あの日から、そこまで時間は経っていないのに

ずいぶんと前のことにように思えてくる。


そんな事を考えていると、個室のドアがおもむろに開いた。


そこには、待ち人が少し俯いて立ていた。


「ごめん。待たせっちゃったね」

いや、謝ることなんてない。

法子も、約束の時間の15分くらい前に来てくれていた。


久しぶりに会った二人は、以前とは違いなかなか話始められないでいた。

お互い、数分の沈黙が続いていたけど、どう切り出したものか分からずに

時間だけが過ぎていく。


いきなり、「それで、どうしたの?」と聞くのも野暮だろう。

いや、確実にマイナスだ。と政志は考えていた。


正直、会ったのが数日後で良かった。


俺のメンタルもだいぶ回復して来ているのか、そんな軽口の考えも浮かんでくるし、

マイナスの感情は今のところ顔を覗かせていない。


そんな、自分語り的な事を考えているとき、急に法子は立ち上がって。


「あの時は、政志の気持ちも考えずに嫌な事言ってしまって、本当にごめんなさい」

「謝るくらいで、許してもらえるとは思っていないけど、でも」


政志は、かなりびっくりした。


いきなりだったこともあるし、かなり大声で謝られたので

個室の居酒屋とは言え、周囲の反応も気になった。


「いや、もう大丈夫だから」

俺は、ぶっきらぼうに返してしまった。

また、喧嘩になるかな?と俺はそう考えていた。


「大丈夫そうじゃないよ」と。

法子は不意に俺の手を握りながら、心配そうな目で

俺の事を見つめながら伝えて来た。


正直、俺はかなりドキドキしている。

身体の奥が熱くなって、握られた手を通して相手に

熱が伝わるのではと思う程に。


でも、恥ずかしいとかそう言うのではなくて。

なんだろうか。


「私ね、いろんな人と話たの、そしたら政志のこと知ってる人に会ってさ」

「小澤美香とか」

恐るおそる、法子は美香先輩の名前を出した。


この名前を政志は聞きたくないだろう。

また喧嘩になるかもと思いながらも。


この日まで、私が聞いたこと、知った事、考えた事。

そして、政志への思いを知って欲しかった。


「ねぇ。最後まで私の話を聞いて貰えますか」

そう、出来るだけ丁寧に法子は政志へ伝えた。


「あぁ、うん」

政志はかなり動揺している様子だったけど、何とか承諾してくれていた。


それから、私、葉山法子は政志にこれまでの事をすべて話した。

少し説明口調だったかもしれないけど。


それでも、自分に出来る精一杯の言葉と表現で彼に思いを伝えた。

話終わったあとに、どんな結果に成っても後悔が残らないように。


ふぅ、一気に思いの丈を話た法子はかなり疲れている様子だった。

ふいに、ため息がでるほどに。


政志も、法子の話はかなり驚く内容だった。

世の中狭過ぎるだろ。


まさか、法子と美香が知り合いだったなんて。

思いも寄らなかった。


もし、電話で話されていたら、冷静には聞けずに

また、喧嘩に成ってしまっていたかもしれない。


正直、今も途中、途中はかなり我慢して聞いていた。


美香との付き合いは短かったけど、傷はかなり深かった。

もう、名前も聞きたくなかったのが、正直な所だ。


それほどまでに、性の問題は根深く、後を引ていまう。

俺のそのように考えていた。


「ありがとう、色々考えて、話してくれて」

俺の口から出た最初の言葉は以外にも感謝だった。


「今まで、また会ってくれた人とかいなかったし、ましてや謝られた事なんて」


政志は法子から受け取った思いが素直に嬉しかったのだった。

今まで期待はした。でも期待通りの結果なんて得られなかった。


自分の殻に閉じこもって。自分から行動もしなかった。

だからかもしれない。でも行動出来なかったし、一度深く傷つけれらた

相手に自分から会いに行ってとかは無理だった。


正直、自分から会いに行ってどうするのか。「俺、傷ついたから謝ってよ」

それも、一つの解決策かもしれないけど、俺には出来なかった。


そうした中、かなり身勝だけど、法子は違っていたし

法子だから、俺も話をしっかり聞くことが出来たのだと。

そう思っていた。


法子も、今回の話でまさか、感謝されるとは思っていいなかった。

それでも、会うのは最後とかに成ると。そう考えていた。


正直、政志でなければ、ここまでは出来なかっただろう。


お互い、今まで以上に深くその心を知り。

その空間は二人の暖かな感情で満たされていた。


「良かった。法子が傍にいてくれて」


ふいに政志から、そんな言葉が出ていた。


法子は、前のめりに成って政志に理由を聞こうとしたが

途中でやめてしまった。

ここで聞くのはなんか持った得ない。


そう感じていたから。


「なぁ、少し場所変えないか」


政志は、そう法子を誘った。


「うん。いいよ」


法子も笑顔で政志の申し出でに答え、二人はここ数日で

一番の笑顔で軽やかに店を後にする。

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