第16話  再び会える日

 "トゥルルル、トゥルルル"


”やっぱり電話は無理かな”


法子は、小澤美香への相談の後、一旦気持ちを落ちるかせる為に

一度家に帰っていた。


美香先輩から、政志の話を色々聞いて自分も政志にすごく悪い事を

してしまったと後悔をし、かなり落ち込んでいた。


 このままじゃ、政志と仮に会ったとしても、きっと前には進めない。

そう思って、一度、お風呂に入りながらこれからどうするか?を

考えていた。


よく、リラックスしているとき程、良い案やアイディアが浮かんできたり、

気がついたりすると言うけど、今は全く思いつかなかった。


確かに、美香先輩の言うように、政志の悩んでいる問題に対してクリニックの先生などから教えてもらう事は出来ても、その人は政志本人ではない。


もっとも、理解して上げないとダメなのは、政志の体の問題を医学的に理解したりする事。


じゃなくて、自分の愚かさをしっかりと謝罪した上で、政志の心に寄り添って

上げる事なんじゃないかと。


そう考えて、まずは自分の行ってしまった事を早く謝って、政志を嫌っているわけでも、馬鹿にしているわけでもない事。


そして、彼を思っていいる事を伝えてあげたい。


今回の件で、私自信も色々と政志との関係を思い出した。

あの日、偶然再会した時、なんで無意識に声を掛ける事が出来たのか

ずっと、疑問だったけど、やっぱり私は政志の事...


トゥルルル、トゥルルル。


と、今までのことを思い出していた時に、着信があった。


「工藤 政志」


着信画面に写し出された名前を見て、一瞬驚いた。


もう、政志は自分には逢いたくないだろうと。

そう思っていたから、どうやって政志に遭おうか。

その方法が、一番難しいと思っていたから。



 工藤政志は過去の出来事を思い出していた。


なぜか、いやな思い柄ほど、よく覚えていたり。

夢に出てきたりする。


忘れたい思いとは裏腹に。


 政志は、この日は目覚めも悪く、会社も珍しく休んでしまっていた。

一日中、俺は過去を思い出していた。


高校時代の虐めや小澤美香との関係など。


今まで、自分に起きた事を永遠に抜け出せないループの中で忘れたいのに

頭の中をグルグルと、記憶だけが駆け巡っている。


一度こうなってしまうと、なかなか抜け出せないもので、落ち着くまで

場合に揺っては1~2週間程度落ち込み、考えが巡ってしまうことさえあった。


 こんな気持ちになるのは久しぶりだったが、政志には慣れたものだった。

今まで、馬鹿にして来た旧友も別れた彼女も、その後連絡をくれたことなど

無かったから、落ち着くまでひとりでいる事が出来ていたのが良かった。


 時がたてば、自然と落ち着いてくるのを待つしかないとそう考えて、

ひとりベットの中で、悲しみと、虚無感を抱えながら。


負の感情が消えてくれるのをただ待っていた。


そうした時、ふいに自分のスマホが鳴った。

誰だろうか?こんな時は正直、電話になんか出たくはなかった。


「葉山 法子」


着信画面に表示された名前に、正直、政志は驚いていた。

まさか、法子が電話をかけてくるとは考えてもいなかった。


今までなら...


一瞬、出るかどうか判断に迷った。

まさか、電話してまで馬鹿にしてくる事は無いだろうけど。


そのまさかが、俺にはよくあるからと、嫌でもそう考えてしまって。

素直に電話を取ることが出来なかった。


 着信が切れてから、俺はどうしたものかと相当悩んでいた。

精神的にも過去を思い出して、かなり落ち込んでしる状態で

掛け直すのは勇気のいるものだった。


ただ、恐怖とは裏腹に、法子と話たい。

彼女の声が聴きたい。


とそう思う自分がいた。


数分間の葛藤の後、俺は勇気を出して、法子へ折り返し電話をすることに。


数回のコールの後、少しか細い声で法子は電話に出てくれた。


「先は出れれなくごめん」

そう、呟くように俺は謝罪した。


「私こそ、夜中にごめん」

そう、法子もどこか緊張しているかのような声で

伝えて来た。


「どうしたの?」


「えっと、ちょっと話したい事というか」

「この前のこと、謝りたくて」


俺は、正直驚いた。

今までこんな感じで、言ってきてくれた人はいなかった。


「もう大丈夫だよ」


俺は嘘をついた。


法子の声からかなり心配してくれている様子だったので。

これ以上はと、そう考えていた。


「大丈夫そうじゃないよ」

「あと、ちゃんと謝りたいし、話したいこともあるの」


法子の声はまだ、少し震えていた。

きっと、色々と心配や嫌な思いもさせてしまったのだろう。

ただ、さっきより何か、力強いものを感じたのも確かだった。


正直、もうこれ以上は傷つきたくない、もしかしたら想像と違って

また、馬鹿にされたりするのではないかと、そう言う考えも浮かばなかった

訳ではないけど。


なぜか、法子だけは信じたかった。


俺は、「うん。わかったよ。いつ会おうか」と

勇気を振り絞って、恐らく法子がそうしたであろう事を

俺の方から伝えた。


「ありがとう。じゃ...」


俺たちは、今度は偶然じゃんなくて、お互いをもっと知るために

また、会うことにした。


きっと、法子は信じられるし、信じたい。


そうした願望を胸に俺はまた、法子に逢う。








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