第9話 女子会

 

  政志と喧嘩をした日から数日たったけど、まだ、あの時言ってしまった事を

私はものすごく後悔していた。


「はぁ。」

 

 政志があんな風に落ち込み、逃げるように帰るなんて思ってもいなかった。

当然、好きで政志を悪く言うつもりも無かったし、包茎がどういうものか、

どれくらい悩んでいたのか、虐めはどれくらい惨かったのかとか、は考えずに

とっさにでた一言ではあるのだけれど、政志を相当に傷つけてしまった事には

変わりない。


正直、「どうしたらいいんだろう」と言うのが本音だった。


 あの時は、政志と食事に行けた事で、多少浮ついた気持ちがあったからなのか、

普段なら、”包茎なんて”と蔑むようなことは言わなかったんじゃないだろうか。


 もう言ってしまった事は、取り消せないけど、虐められていた過去なんて、誰だって他人に知られたくはないだろう。

まだ、会って間もない人の方が良いかもしれない。


 今、冷静に考えれば、むしろ親しい友人や家族の方が知られたときのショックは大きいかもしれないと、もし、自分が政志と同じように、虐められた過去があったとしたら、しかも、他人からその事が漏れ伝わったとしたら私ならどういう感情が流れてくるだろうかと、頭の中をグルグルと同じような考えが出ては、消えを繰り返していた。


 どうにか、政志と仲直りしたいのだけれど。


「どうしたら、政志は許してくれるかな」


 そんな、独り言が虚しく響くだけでいっこうに解決案は出てこない状況に、法子は

かなり、ヤキモキとしていた。


「法子、待たせてごめんね」


そんな、暗い感情を抱いている、私へ明るく声を掛けて来てくれたの美香先輩だった。

今日は、前に約束していた二人だけの女子会をする為、繁華街まで来ていたのだった。


「お久しぶりです」

「久しぶり~、じゃ、いっこかぁ。」


美香先輩と軽く挨拶を交わしたあと、私は繁華街の人込みを避けながら、予約してあるお店へ向かっていった。

美香先輩は大学に入ってからの付き合いだけれど面倒見が良くて、みんなよく恋愛相談とかをしていた。


かくゆう私も、美香先輩にはよく相談に乗ってもらっていた。

まぁ、なぜか、私が誘う事はほとんどなくて、いつも私が悩んだりしているときに

美香先輩から誘ってくれることが多くて、女子会をするたびに何かしらの相談を私は

していた。

美香先輩には私の感情が離れていても、読める特殊能力があるのだろうか。

それとも、みんなにそうなのか。

他の人も含めて私と同じような、タイミングで美香先輩が誘っているのなら

それこそ、特殊能力だけど。

ただの偶然かなぁ。と馬鹿げた事を考えながら、私は美香先輩と横並びに歩いていた。


若干、鼻歌交じりの美香先輩は道中はあまりしゃべる事もなく少し足早に歩きながら予約したお店へ入っていった。


私も、後に続いてお店の階段を上り、入口の自動ドアを通って店内へ入った。


店内は、普通のチェーン店で特段まだって、オシャレな訳ではないけれど落ち着いた

空気感を演出していた。


美香先輩と女子会をするとき、初めの事は女子特有にオシャレなお店をセレクトしていたのだが、オシャレなお店はお財布には厳しい時もあり、最終的には値段重視の

セレクトになっていった。


正直、私は美香先輩と話が出来れば場所は、特にこだわりはなかった。


「さあ~なに頼もうかな。」


美香先輩はメニューに目を落としながら、ビールやらおつまみやらをすかさず注文していっていた。

「法子はどうする」ときかれはしたが、ほとんど美香先輩の注文したもので満足できそうだったので、私はビールのみを注文していた。


「美香さん、結構頼みましたね」


「うん、今日忙しくては、朝から何も食べれなかったから。」

「お腹すいちゃってさ」


「そうだったんですか!! もっと早く言って下さいよ。」

「なにか、買ってきたのに」

そんなに、忙しそうな感じも見せず、約束の時間も変更せずに来てくれた事に

私は、改めて、この人に出会えてよかったなと思っていた。

政志との喧嘩以降”私が一方的に悪いのだけれど”陰鬱とした気分が抜けなかった

から、美香先輩の明るさを元気の良さには正直、かなり救わている。

今も、さっきまでの陰鬱な気分もだいぶ和らいで来ていた。


「ごめんね、ありがと!」

「っさ、ごはん来たし食べよ」


そう言って、美香先輩はお酒もそこそこに、早速料理を食べ始めていた。

女子会でのおつまみと言うよりは、定食屋でごはんを食べているレベルで運ばれたきた料理をもくもくと美香先輩は食べ続けていた。


「ふぅ~」

よほどお腹が空いていたんだろう、美香先輩は一通り食べ終えて満足げな表情をしていた。


珍しく、食事をしている間、美香先輩はあまりしゃべる事が無かったので相当だろうとかっての思って、自分でも気づかないうちに笑っていた。


「やっと、笑顔になったね」


美香先輩に言われるまで気づかなかったけど、どうやら私は美香先輩と合流してから

笑っていなかったようだ。

性格に言うと、心から笑っていなかったのだろう。


美香先輩は特に、私に何があったのか問い詰めたりする事なく、私の顔を静かに見守っていてくれている。


私が話したければそれでいいし、言いたくなければな無理には聞かない。

そんな、美香先輩のいつものスタンスが垣間見える。


普段の相談ごとなら、”よくぞ、聞いてくれました”と言わんばかりに、話始める私だけれど、今回の政志との喧嘩については、正直、美香先輩に話すべきか迷っていた。


山中の件もあるし、自分でもどう話したら良いのか、話すべきなのか分からずにいたのだ。


「やっぱり、いつもとは違う感じか。」

「無理しなくていいよ」


そんな、優しい美香先輩の言葉に、今まで押しとどめていた感情が溢れ私は

気づかぬうちに、涙をながしていた。

やっぱり、この人は信頼できると、そうある種の覚悟を決めて、政志とまた、笑って会うために。


美香先輩に相談する事を私はこの時、心に決めて。


政志との事、喧嘩の原因などを話始めたのだった。


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