第7話 わからない男心②
法子の言葉に当惑を隠せない政志は問い詰めるように、冷たく、怒気を込めて
聞き返してしまっていた。
当然、法子が悪いとは微塵も思っていないが過去の記憶に縛りつけられている俺には冷静に話を聞くのは難しいだろう。”ごめん”心の中でそう政志は呟いていた。
「この間、政志に会ったときに、なんか様子おかしかったから会社の人になんとなく
相談しちゃったの」
そうか、あの一瞬でしかも11年ぶりに再会した人の様子を推し量るとは幼馴染とが言えなかなか出来る芸当ではないだろう。
「そうしたら、政志が包茎とかで虐められてたって。」
恥ずかしい、正直今すぐにここから逃げ出して、あの暗い部屋に再び逃げ込んで
時が来るまで、時間が解決するまで、もの言わぬ貝に成っていたい、そう思っていた。
「包茎くらいで言い返せばよかったじゃん」
政志は、女性の法子にはわからなくても仕方がない反応に対して
複雑な感情を抱いていた。
法子が自分の過去を他人から、高校の同級生から、知ることになるとは
夢にも思っていいなかった。ただ、「虐め」の話がでたときに法子なら理解は出来なくても、自分を傷つけることは無いのではないか、分かってくれようしてくれる、んじゃないかとどこか期待していた気がしていた。
でも、実際の法子の反応は、他の人たちと変わらず無神経に自分の心を傷つけるものだった。
その、期待の大きさもあって、政志は今にも泣きだしそうな顔と震える声で、それでもはっきりと。
「うるせぇよ!!」
「お前に何がわかんの?」
とかなり強く言葉を発してしまっていた。
法子は、政志の悲痛な叫びにも似た言葉に対して非常に驚いていた。今までの政志であればきっと、笑ってやり過ごしたり、注意はしたものの怒鳴ったりは決してしたりするような人間ではなかった。
今までも、政志と喧嘩をしたことが無いわけでは無いけど、大声で怒鳴ったり、当然暴力に訴えるなどの事は絶対に政志はしなかった。女性は当然としても男子同士の喧嘩であっても、政志が暴力に訴える姿が私が知っている限り一度もなかったから。余計だ。
「政志、ごめん」
法子も、自分の発しは言葉に対して悪い事をした、と思い泣きそうな声で政志へ誤ったが時ははすでに遅かった。
「いや、お前も結局俺の事ばかにして、楽しんでるんだろ」
「今までの、やつらと同じだよ」
「二度と、俺に話かけないでくれ」
政志はそう言うと、会計のお金だけをテーブルに残して店を足早に出て行った。
法子は、その間数十秒の間に、なんども、政志を名前を呼んで呼び止めようとした。
でも、言葉が出てこなかった。ただ、店から出て行く政志を見ている事しか出来なかった。今にも、溢れ出しそうな涙を堪えながら。
”私はひどい事を言ったんだ”と内心考えながら、”正直、分からないよ”と政志の悩みや虐めの原因、今の政志の気持ちなどは、法子にはわかりようがなかった。
虐められた事もなく、虐めのをしたこともなく、虐めの現場を見た事も正直なかった。
特に男子特有の理由ならそれ自体の大変さなどは、知りようがなかったのも事実。
けれど、そこまで政志が怒る理由を法子は分かって上げたかった。
ほんとうは、もっと楽しい話をして、今まで会っていなかった、時間を少しでも埋めて、自分の知らない政志と政志の知らない私を知りたくて、知ってほしくて今日政志と再び出会えたことがすごく、うれしくて、久しぶりにトキめいていたのに。
なんで、こんなことになっちゃたんだろ。
理由は、私の一言。
軽率な一言なのはわかっているけど、政志の怒り方が尋常じゃなくて、あんなに泣きそうになっているのも初めて見た。
でも、正直。”分からない”、が本当のところ。
”どうして、どうして、”といつもなら考え込まない法子も今回の理由はわからず同じ考えが頭の中をグルグルを駆け巡っていた。
「どうしたら、分かってあげられるんだろ」
政志の悲痛な姿を見て、政志の苦悩を理解して上げられなくて
色々な感情が入り交じりならが、自然と出た言葉だった。
自分の言葉と政志の辛そうな顔を思い出しながら、重たい足取りで自宅への道を歩いていった。
うっすらと、その目に涙を浮かべながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます