第3話相談はOK?
昨日の再会から一夜明けて、私はいつもより重いまぶたを開けながら
電車に揺られていた。
「昨日はあまり寝れなかったなぁ」
私は、小さく、独り言をつぶやいていた。
私は昨日の晩、政志の事をひとしきり考えた後もなんとなく気に成って
なかなか寝付けないでいたのだ。
再会が金曜か土曜ならよかったのに、今日はまだ水曜だ。
週も半分に差し掛かったところでのこの眠気はやばいな。
そんなどうでもいいことを考えながらおもむろにスマホを取り出し
葉山法子は今日のニュース一覧から経済や金融・エンタメなどの情報に
簡単に目を通しながら、いつもの日常に戻っていた。
「おはようございます」
彼女の透き通った声がフロアに軽く響く。
朝も早い時間だとあまり人もいないので返事を返してくれる人も少ないけれど
静かなオフィスはなんだか落ち着くから、彼女はこの時間がお気に入りだ。
「おはよう葉山」
唯一挨拶をしてくれたのは同期の中山君だった。
彼とは入社以来研修でも席が近かったし、配属部署も同じだったので
それとなく仲良くなっていた、
入社当初はなれない仕事でたくさん悩んだり、分からない事や会社の愚痴とかも
なんとなく同期の山中君にはそういった相談とかもしていた。
彼は話を聴くのが非常に上手で女子社員からの人気も高い。
それもそうだろう。身長も高くて、顔も整っておりそれでいて女性の相談を
真摯に聞いてくれる。
お持ち帰りされたなんて話も聞かないし。
みんな、安心して相談しているのだろう。
「なにかあったの?」
ふいにそんな言葉を投げかけられた。
予想だにしなかった言葉に私は一瞬たじろいでしまったが
「とくに何もないけどなぁ」
私の精一杯の返答だった。
「そんなことないっしょ」
山中のモテる理由をもう一つ思い出した。
彼は他人のに微妙な違いに築き優しく話かけてくれるのだ。
それも嫌味なく、自然に。
そりゃ、モテるだろう。
なかなか気づいてもらえない事や、本当は相談したいけど切り出し辛いことは
社会人でなくとも山ほどあるだろう、上司や同僚、先生、恋愛、友達関係、親や親せき、進路や将来への不安とか、結婚とか人それぞれいろいろ。
それを山中君は見透かしたようにそれとなく聞いてくる。
聴かれた側も本当は話したいのでなんとなく話してしまうのが常の様だ。
「そうだね。ちょっと昨日久しぶりに友達に会ってね、久しぶりだったからか
びっくりして軽く話したあとに入って帰られちゃったんだ」
「そっか。急ぎの用事でもあったのかな?」
「なんか、そんな感じじゃなかったんだよね」
キーンコーン、カンコーンと始業にベルが鳴る。
私の働いている会社はフレックスとかは導入されているけどベルはそのまま残っている。
残っているというより復活した。
一度なくなったのだけれど、始業のタイミングが分かり辛いと
総務にクレームが多数寄せられたようだ。
当然、終わりのベルもある。
「僕で良かったら少し聴かせてよ。もしかしたら力になれるかも。」
「ありがとう」
この時は、彼に一度相談に乗ってもらえばどう政志の
話かければ良いかを思いつくかもしれないな、程度にしか
考えていなかった。
つくづく甘い考えの女だな、私は。
朝のやり取りも忘れ、いつもの慌ただしい日常が始まった。
法人営業を行うこの部署では、いつも電話やリモート会議、
顧客への訪問やリモート商談などが活発の行われている。
1月も終わりに差し掛かっているので売上目標とか来月の目標とか
今年度の目標とか、いろいろと会議や顧客への追い込みなどが
非常に多くなり、忙しくなる時期だ。
年始の挨拶も大方終わっている為、とにかく予算目標の達成の為上司陣は
いつも以上に気を張り詰めている。
かくゆう私も、楽観視出来る成績ではないのだけれど。
「お世話に成っております。葉山で御座います」
「本日の打ち合わせ宜しくお願い申し上げます。」
アポイント先へそんな電話を掛けながらスケジュールを確認していると
肩越しに山中君が。「今日夕方から時間ある?」
「朝の話きになっちゃって」
そんな感じで話しかけてきたのだった。
とくにスケジュールを見たからというわけではないだろう。
今日からのスケジュールは朝から晩までパンパンに詰まっていて
なかなか、「今日空いてる?」とは聞きにくいスケジュールだ。
ただ、幸か不幸か19:00以降は帰社しなければ時間はつくれたので
「19:00くらいなら」と軽く返事をしてその会話は終わった。
それから、スケジュールにある予定をこなし、18:30頃か
山中君から仕事の心配をしながらの予定の確認と、予約されたお店の情報が
ラインで送られて来ていた。
私はだいたい片付いていたので駅中のカフェから「OK」とだけ返信をした。
指定された場所もここからはそれほど遠くない為、今日の営業報告と帰社はしない旨を上司へ軽く伝えてから私はカフェを出て山中君が予約してくれたお店に向かった。
「どう話を切り出したらいいのかな」
内心、相談内容に対しての心配が漏れ出ていた。
それもそうだ、なんとなく政志が悩んでいるのはわかるがそれが
なにかは、まったく見当がついていないのだから。
私はどうしようか、ほんとうに相談すべきかも含めて
待ち合わせ場所へゆっくり向かっていった。
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