第2話暗い部屋

 政志は葉山との再会を思い浮かべる。


突然の出来事で驚いたが、久しぶりに見た彼女は以前と変わらず

穏やかな笑顔で俺を見てくれていた。


中学の頃、葉山とはよく一緒に登校していた、

憂鬱な朝から彼女が常に元気で穏やかに笑っていた。

誰でも、朝は気だるく感じると思っていたが彼女だけは違ったようだ。


「朝から元気だね」


少し嫌味に聞こえるかもしれないと少し自分の言った言葉を後悔する

暇もなく彼女は、「今日は違う楽しみがあると思うから」と

笑ていた。


なかなか、素でそんな三文小説みたいなセリフを言うやつはいないだろうと

考えながら、いつも彼女は毎日の少しの違いを楽しみにしていたに違いないと

そう思っていた。


そんな事を、こんな暗いへやで思い出そうものならあとは簡単だ、

なんで、俺は彼女から逃げてしまったのだろうか。

彼女なら、分かってくれたかも。


いや、彼女でも...


淡い期待はやめたほうがいいだろう。

いつも、そうだった。


俺に優しく接してくれた人も、親切にしてくれた人も、仲の良かった友人も

途中でみんな、いなくなっていた。

いや、自分から距離をとったといったほうが正しいだろう。


いつもや優しい人も、親切な人も仲の良い人も少し人と違うというだけで

普通の人が出来る事を出来ないというだけで、罵倒されたり、糾弾されたり

馬鹿にされたり、陰口を叩かれたりする。


特に、自分が悪いわけでなく、彼、彼女らも悪気はないようだ。

ただの娯楽、ただ自分より確実に劣っているもの、馬鹿に出来る者を見つけれて

恰好の獲物を見つけたように、攻撃してくる。


会う人会う人、皆そうだった。


だから、今回もきっとそうだろう。

これは、俺の勝手な決めつけでそうと決まっているわけではないけど、

それでも、自分が馬鹿にされない事を想像するほうが難しい程に、

過去の人は俺を馬鹿にしてきたんだ。


あいつならとか、この人ならとか、は甘い幻想で皆どこかで馬鹿にできる人物や事柄を探しているんじゃないだろうか。


俺だって、葉山を信じたい。


いやまだ、すべてを話すこともないのだけれど、

それでも彼女だけはと思いたい。もう諦めかけていた感情を彼女との再会が思いださせていた。


ひとり、暗い部屋にいると過去のつらい記憶と、現在の少しの希望とそれを打ち消す

自分の思考がぶつかり合い答えのでない問答を永遠に続けてしまいそうになる。


「あれ、俺泣いてたんだ」


いばらくしてから初めて聞いた自分の声だった。


ずいぶん聞いていなかったきがしたし、泣くのも久しぶりだ。

大声で泣いてるわけではないけど、自然と涙が溢れていた。


きっと、俺の中の希望と絶望が久しぶりにぶつかりあったからだろう。

絶望だけならきっと涙は出ないから。


彼女は静かに涙を浮かべていた。

自分でも驚くほどの声を出したことに対してではなく、

政志が自分を見るなり、挨拶もそこそこに逃げ出したことでも無く。


彼が何かに、怯えているような表情をしていたから。


すぐに、私も走り出して、彼を追いかけたい衝動に駆られたけど出来なかった。


私は家に帰り先ほどの事を思いだす。


「我ながらよく話かけられたものだよ。」


そんなセリフをひとり呟きながら彼女は思いにふけっていた。


一体何に怯えていたのだろう彼は。


私の知っている彼は、常に前向きで困難な状況でも打開策を考えられる

人だった。

もちろん、落ち込んでいる姿も見るし、話しを聞いたこともある。

相談も受けた。

でも、話しながら彼は常に前を向いていた。

先程とは違って。


私はいつもそうだ、人がどういう感情でいるか、はっきりを

見て取れてしまう。

他のひとがどうかは、分からないけど自分ではそう思っている。


特に、それのせいで生き辛いとかは無いのだけれど、人が怒っているときや

不満を抱いているとき、嫌悪感、憎悪、嫌気、憎しみ、嫉妬などの負の感情は

よくわかる。


大勢での場で負の感情を抱いている人と会話するときはほんとうに疲れるし

出来ればやめて欲しいと思うけれども、もともとの性格が幸いしてか困ったことは

一度もない。

いや、もともとないというよりは過去の政志の性格に充てられたのだろう。


私は彼に憧れて好意をもっていたから。

彼の前では常に笑顔でいられたし、常に楽しかった。


毎日違う顔を見せてくれる彼と一緒に入れる時間が私のお気に入りだったんだ。

よく一緒にいたおかげで、私も徐々に負の感情の中に居ても前向きに考えられるようになっていった。


そのおかげで、いろいろな人から相談を受けたり、頼られたりした。

負の感情が分かるぶん周りも相談しやすかったのだろう。


ただ、そうした思いに成れたのもすべては政志のお陰だと思っている。

先程の再会のお陰で少し忘れかけていた恩を私は、思い出していた。


「よし、今度政志にあったらまた声を掛けてみよう」


ほんとうにそれでいいのか、政志の思いはそんなに軽くはないのではないだろうか、

そんなことも思いながら、それでも自分にはなにか出来るはずと。


そう自分の暗い部屋でひとり考えていた。


少し甘かったかもしれないけれど。





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