普通にヤレる事の幸せ

戸松 亮

第1話再会

 いつからだろう。

ひとりでいることが当たり前になったのは。

幼い頃は友達もそれなりにいた気がする。いやきっといただろう。

誕生日は家族はもちろん友人と過ごした事もあったが今は一人で過ごすほうが

多くなってしまっている。

もちろんひとりが嫌いなわけではないが、誕生日くらい誰かに祝福して欲しいと

ふと考えてしまう。


「いらっしゃいませ~」


機械的なコンビニ店員の挨拶が余計に心を虚しくさせる。

ここで自分の為にケーキなんか買うのは余計に虚しさを加速させるだけだろうかなど

分かり切っている事を思いながら夕食の買い出しを早々に済ませて外界と遮断できる

部屋にはやく引き込みりたいと考えていた。


社会人になって早く親元を離れたくて、都内ワンルームを契約した。

親と仲が悪いわけではないが、兎に角ひとりになれる場所が欲しかった。

不動産屋は丁寧で自分の要望をよく聞いてくれていた。

静かで落ち着いてして、駅近でなどごく当たり前の部屋を予算内で納められるように探してくれていた。


決して広く、綺麗なへやではないけれど住み始めてからはそれなりに満足している。

特に静かなのが良い。


誰にも邪魔されない。


いや侵されない空間は非常に心地いい。

この空間へ早く戻りたくて、帰りはいつも早足になる。


そんなどうでも良い事を考えていたとき、ふと横から顔を覗き込まれた。

一瞬変態か?と思ったがなぜか聞きなれたなついかしい声が聞こえた。


「政志君?」


その声は久しく聞いていなかった葉山法子の声だった。


「工藤 政志君だよね?久しぶりだね!!」


葉山法子とは中学校まで一緒だった。

属にゆう幼馴染的な関係だと思う。

昔から俺の事を気にかけてよく話かけてくれていた。

中学校を卒業してからはお互い別々の高校へ進学したから

そのあとはまったく会っていなかった。

こんなところで”再開”するなんて思ってもいなかった。

しかも声でわかるとは我ながらキモイなと思いながら俺は下を向いていた。


「この辺に住んでるの?私最近引っ越してきて」


思いがけない所で葉山の住んでいる場所を知ることになる。


「そうなんだ。それは2年くらい前からかな?」


ぶっきらぼうに俺は答えた。


「なんかしばらく会わないうちに変わったね」


決して誉め言葉ではないことはすぐに分かった。


恐らく、いや確実に葉山の知っている政志と今の工藤政志はかなり変わって

しまっているだろう。

自分で思うのもおかしな話だが中学校までに俺はかなり明るくクラスでも中心にいた気がする。


あのときが来るまでは。


過去の自分と今をふいに思いがし気恥ずかしさと、抱えている負の感情が押し寄せ

この場から早く立ち去りたいと思ってしまった。

まだ葉山は何か話したそうにしているとも見て取れたが足早に立ち去ろうと

挨拶もそこそこに葉山から距離をとるように俺はコンビニを出た。


「ちょと政志君...」


名前を呼び止められまだ何か葉山が話している、

いや叫んでいる?のは聞こえていたが


これ以上過去を思いだしたくなくて、葉山に知られたくなくて


あの空間へ俺は逃げ込んだ。



”バタン”

勢いよく扉の閉まる音だけが響いた。


俺は葉山法子との偶然の再会からろくには話をすることもなく

逃げ出すように、一目散に契約しているアパートの部屋へ入ってい行った。


逃げ出すように?


何を思っているんだ俺は、逃げ出すようにじゃない。

逃げ出したんだ、俺は。


再会は余りにもよらず突然だった。

近所のコンビニでまさか彼女と再会するなど夢にも思っていなかった。

彼女とは家が近所であったこともあり幼稚園から中学校卒業までの間かなりの

時間を一緒に過ごしてきた。

言うまでもなく恋愛関係ではなかったが非常に楽しい時間を彼女とは過ごしていた。

ワンルーム一間の部屋に帰りひとりになると先ほどまでの同様が嘘のように落ち着いていた。

彼女の事を鮮明に思い出すように。


それが、自身を苦しめることにもなる。


彼女との時間は常に明るく満たされていた。

彼女の周りには常に人がいて友達も多かった。

俺も中学まではそこそこ明るかったがすべては彼女のお陰だった。

彼女のその明るさを幼い頃から受けていた俺は今の自分からは想像出来ないほど

明るかった。


いつだったか、なんで俺と一緒にいるのか聞いたことがあった。

彼女は屈託のない笑顔で「政志君にはいつも元気をもらっているから」と

少し恥ずかしそうに答えてくれたのを今でも覚えている。


なぜ、逃げ出してしまったのか今となっては後悔しているが

いまの俺に彼女と明るくす事は出来るだろうか。

きっと、いや絶対出来ないだろう。

俺はもうあの頃からは変わってしまったから。



政志君は足早に去っていった。

まさか、偶然の再会だった。

ここに引っ越してきてから、会社以外の人に会うことはあまりなかった。

友人がいないわけでは決してないけど、早々幼馴染に会社帰りのコンビニで

しかも10年ぶりに再会するのは珍しいのではないだろうか。


「私何か悪いこと言ったかな」


心の中でつぶやく。


内心、声を掛けるのは非常に勇気が必要だった。

まさか、自分でも顔を覗き込んでまで声を掛けるとは思っていいなかった。

正直、無意識に近いかもしれない。

それでも彼との再会は非常にうれしかった、いつかまら会いたいと思っていたから。余計に。

久しぶりにあった彼は私がしている彼とは違っていた。

いい意味ではなく、悪い意味で。

私の知っている彼は、常に前向きで失敗しても次どうするかを考えられる人だった。

私と違って前向きだった彼に私は引かれていた。

中学まで一緒だったけど一度も...

でも、再会した彼はどことなく自身が無く暗い印象だった。

暗いのが悪いわけじゃないけど。私の印象とはだいぶ違っていたから

かなり驚いた。


本当はもう少し話したかったから思い切って誘おうと思っとき。


「政志君...」


そのあとの言葉を言う前に彼は足早に去っていった。

私との再会はそれほど嫌なものだったのかな。

私は無意識のうちに彼の名前をもう一度叫んでいた。


「「ちょっと、政志君...」」



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