#8 イービル・オーメン

「夜兎さん、そっち行きましたよ!」


「了解です、マーナくん!」




ドゥン!ドゥン!


タタタタタン!タタタタタタタン!




うっそうと木々が茂る森林地帯に、まばらに銃声が響く。




あの後、おれと夜兎さんはマーカーを頼りに森の中を徘徊し、目に付く敵を片っ端から倒していた。




森林の中にはラプトル以外の生物も多数生息している。


その中でも、こちらに対して敵性反応を示すものだけを的確に排除していく。




ここに来るまでに既にバイオウルフを六匹、電磁オポッサムを八匹、さらに追加でダイアラプトルを三匹撃破したところだ。


つまり、あと一匹ラプトルを狩れば任務完了ということだ。




「夜兎さん、あと一匹です、がんばりましょう!」


「了解しました!ふふ、なんだか楽しくなってきましたね。」


夜兎さんがニヤリと笑い、狙撃銃をコッキングする。




残る一匹のラプトルは、木々の合間をジグザグに、すり抜けるように走り抜けていく。


森に茂る樹木を上手く盾にしているので、こちらの銃弾が上手く当たらないのだ。




「むぅ……、なかなか当たりませんね。」


夜兎さんがスコープを覗きながら、忌々しげに呟く。


「おれがグレネードで奴の脚を止めます!止まったところを撃ってください!」




おれは懐からグレネードを取り出し、ピンを抜いた。そして三つ数えると、奴の進行方向目掛けグレネードを放り投げる。




投擲された手榴弾は綺麗な弧を描いて飛び、ラプトルの進行方向前方の草むらにぽとりと落ちた。


そして、落下とほぼ同時に爆発!




ドカァァァァァァン‼︎‼︎


「ギシャァァァァァァァァ⁈」


目の前の爆発に驚いたラプトルが、たたらを踏んで立ち止まる!




その隙を逃さず、おれと夜兎さんはラプトル目掛け銃を撃ちまくる!


ドゥン!


タタタタタタ!


夜兎さんの放った銃弾がラプトルの後頭部を砕き、おれのバースト射撃が奴の身体を蜂の巣にする!




「ギシャ……ァ。」


ラプトルは苦悶の叫びを上げ、ドスンと地面に倒れ伏した。


そしてピクピクと痙攣した後、そのまま動かなくなった。




ピコン!


ラプトルの絶命と共に、クエストメニューの達成項目に一つ、チェックマークが付いた。




「これで五体目……。ようやく任務完了ですね。」


夜兎さんが額の汗を拭いながら、ふぅとため息をついた。


「いえ、まだですよ、夜兎さん。酒場に戻って討伐完了を報告しなければなりません。それで晴れて任務完了です。」


「あら、そうですね。ちょっとうっかりしてました。それじゃあ帰りましょうか?」


「そうですね、行きましょう。」




おれと夜兎さんは踵を返し、森の出口に向かって歩いて行った。


もう既にとっぷりと日が暮れ、夕陽が空を紅く染めあげている。


仄暗い森の中をゆっくり進みながら、道中雑談を交えつつお互いの功績を讃えあう。




異変が起こったのは、ちょうどおれたちが森の出口に差し掛かったころだった。


森の出口周辺に、何やら大勢の人が集まって、ガヤガヤと騒いでいる。




近寄って見てみると、みんなして空を仰いで何やら話し合っているらしい。


その中には、エレベーターで同席した初心者プレイヤーたちが何人かいた。


おそらく、おれたちと同じく任務を終わらせて、酒場に帰るところなのだろう。




おれは取り敢えず、一番近くにいるネコ頭の男に話しかけて事情を聞いてみた。


「何かあったんですか?」


おれがそう尋ねると、ネコ頭はこちらを向いて


「あれを見てごらんよ。」


と、空の一点を指さす。




彼が指さす方向を見ると、夕焼け空に何か光る玉のようなものが浮いている。


オレンジ色の光を放つそれは、時折激しく左右にブレながら、夕暮れ空を悠然と漂っているのだ。




「なんだあれ?」


おれはインベントリから双眼鏡を取り出して、空に浮く光球を見てみた。


夜兎さんも狙撃銃を構え、スコープで空を覗いている。




おれは空を不規則に動き回る光球になんとか焦点を合わせ、その姿をレンズの中に収める。




双眼鏡のレンズに写ったもの。


それは、オレンジ色に光り輝く、ヒトの形をした不定形の何かだった。










続く


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