#9 フライング・ヒューマノイド

 「あれは……人間か?」


おれは双眼鏡のレンズに写る異常な物体を目にして、思わずそう呟いた。




 それの見た目は、一見するとオレンジ色に光る人間のように見える。


しかし、その輪郭は朧げで頼りなく、四肢は針金のように細長い。


その腕や脚はまるで関節が無いかのように、風に揺られてグニャグニャと蠢いている。


まるで、風に揺られる凧のようだ。




 「なんなのかしら、あれ?」


おれの隣に立つ夜兎さんがスコープから目を離し、


困惑した声をあげた。


どうやら彼女も、空に浮かぶ異常物体に戸惑っているようだ。




 「何かのイベントかしら?」




 「バグキャラじゃね?」




 「このゲームって空飛べるんだな。」




 「おかしいな?あんなに高いところを、こんなに長い時間飛べるはずないんだけど。」




 「撃ってみようぜ!」




 「やめとけよ。」




 周囲のプレイヤーたちの話し声が耳に入ってくる。


この事態はどうやら自分だけではなく、他のプレイヤーたちにも預かり知らぬことらしい。




 おれは再び双眼鏡で、頭上のヒト型物体を観察した。


(むっ?なんだあれは?)


レンズに写るヒト型に変化があった。


ヒト型が、その腕に光る球のような物体を持っているのだ。




 ヒト型はブルブルと身体を大きく痙攣させた。


そして身体を大きく捻り、そのまま勢いよく手に持った光球をこちらに向けて投げつけてきたのだ!




 ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン‼︎


蜂の羽音のような音を発しながら、オレンジ色に光る球体が、光の尾を引きながらこちらに向かって落ちてくる。




 「おい、なんか投げてきたぞ!」




 「逃げろ!」




 プレイヤーたちの叫び声が響く。


そこにいた者は皆、慌てて走り去ろうとしていた。


おれも夜兎さんの手を引いて、慌ててその場から離れた。




 ヒュルルルルル……ドスン !!




 背後から鈍く、重い音が聞こえる。


思わず後ろを振り向くと、さっきまで俺たちがいた場所に、オレンジ色に光る大きな球体が鎮座していた。








続く


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