とある街の小さな時計職人(オルロジェ)。

兎禾

とある街の、小さな時計職人(オルロジェ)。

 私の見てる世界は本物ですか?


 私の中にある想いは本物ですか?


 私の真実ほんとは、本物ですか?


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 止まったままの、懐中時計。


 私はそれを受け取って。


 いつも通り、ネジを外して分解する。


 ──私はとある街の、小さな時計職人オルロジェ


 欠けた歯車を入れ替えて、油を差して、重ねた指で巻くゼンマイ。


 音を立てずに動き出した時計の針は。


 ただ前へと、前へと進む。


 ──右回り。


 追いかけて、追いついたら、また追い越して。


 同じ場所を通ってグルグルと。


 その場所に、一度しかない瞬間ときを、何度も重ねて。


 時計の針は、形のない『時間』を今に描いて、懐中時計の中に閉じ込める。


 ──ここにない『音』。


 …………


 ……タク。


 ……チクタク。


 チクタク、チクタク。


 耳をすませば、私の中で広がる、見えない世界。


 ゆっくりと、音が流れ続けるこの場所で。


 視線を逸らした、数秒間……


 視線を戻した先で、時計の針は一瞬止まって見えた。


 ──そう、きっとそれが真実。


 私の目では追えない間隔で、確かに時計の針は一瞬止まってる。


 だけどそれを私は認識出来なくて。


 だから私の頭は予測して、そうであるだろうと、動いていると、あるべき答えを、私に言う。


 だから私はそうであると頷いて。


 あるべき答えを、心に描いて、理解する。


 それはきっと、これから先も変わらずに──


 辿り着くことの出来ない、真実ほんとの世界がそこにはあるの……


 そんな私の心は、いつでも『何か』に『何か』を重ねてる。


 誰時たれときに、心は希望を抱いて。


 黄昏時に、心は憂いをいだく。


 流れる世界で、映る景色はもう無垢なままとはいかないけれど……


 いつもどこか歪んで届く景色は、心に想いを重ねた私の世界。


 偽りだらけのほんとの世界が、ここにはあるの。


 ──それならね。


 私の頭が追いつく前の、ほんの一瞬。


 左の胸と頭の丁度、中間辺り。


 目に映って頭に届くまでの時間の中に、私の知らない、真実ほんとは詰まってる。


 ──それはまるで不思議の国の住人みたいに。


 私はいつも世界を彷徨って、真実ほんとを探す一人の少女。


 動き続ける時間の中で。


 変わり続ける私の中で。


 目に映る全てが歪んだ世界で。


 私の真実ほんと本当ほんとに本物ですか?


 何が正しいかもわからなくなったこんな世界で。


 例えばそれを言葉に変えるなら。


 そう、この世界の全てはきっともう、私の夢で出来ている──


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 私の見てる世界は本物ですか?


 私の中にある想いは本物ですか?


 私の真実ほんとは、本物ですか?


 私はとある街の、小さな時計職人オルロジェ


 そこにいる、本当の『キミ』に会いたいな。

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とある街の小さな時計職人(オルロジェ)。 兎禾 @uka-san

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