第8話 フォンントゥに武器が召喚ディキるんディスカァ!?

「ではっ! 最初の任務に向けて、まずは目標に昇天して頂くための道具を召喚しましょう!」


「聞こえの良い言葉を選んでるのがバレバレだっつーの! 素直に『殺害のための凶器を出す』って言えよ!」


「ひぅっ! め、女神にそんな恥ずかしい事を言わせるんですかぁ……? でも確かに、サトルさんってそういう言わせるプレイが好きそうな、汚れた魂してますよね……」


「正論言ったらクソほど酷い事言い返されたよ! 別にヨゴレ魂なんか持ってないわ! もういい! やってやるわぁぁ!」



 汚物を見るような目で若干距離をとる女神。

 背中の羽根をわざとらしくパタパタさせながら続けた。



「えぇと、やり方は既にサトルさんの魂に記憶されていると思いますが、いたって簡単です! まずは召喚したいものを強く頭に思い描きます!」


「はいはい……今回は何か指定でもあるのか?」


「人間を殺害できそうなものならなんでもいいですよっ。おっと、忘れてはいないと思いますが『サトルさんが触ったことのあるもの』しか召喚できません! でも、そうですねぇ……今回はオーソドックスに、『大型トラック』を思い浮かべてみてくださーい!」


「大型トラックを、オーソドックスな凶器って言うなぁぁぁあ!」


「えぇぇ!? 大型トラックは定番中の定番ですよ!? ……というかサトルさんが事故に巻き込まれて転生したときも、死因は大型トラックに轢かれたからじゃないですかぁ」



 『やだなーもー』とでも言いたげな女神。

 しかし思い返すと……た、確かにそうだ。

 僕が異世界へ転生する事になったのは交通事故に巻き込まれたからだが、その時も僕の身体を潰したのは白い大型トラックだった。

 えっ?

 ちょ、ちょっと待てよ?

 まさかとは思うが、あの大型トラックも今の僕みたいに誰かが仕組んだものなのか……?



「ね、ねぇ……これも一応聞いておきたいんだけど、僕が死んだ時の大型トラックも、誰かが差し向けたものなの……?」


「あ、いえ。サトルさんの場合はホントに偶然死んじゃったんですよね。あの時、私は上司から『異世界に送る魂:1個納品』っていう任務クエストを受けてたので、目の前で運よく死にたての魂があったので拾いましたっ!」


「おぉい! 天界コラァ! 人の魂を採集任務クエストのオブジェみたいに扱うんじゃねえぇ! ……って言うか、僕が死んだあと亜空間で転生の説明を受けたとき、お前は『あなたは選ばれました……』とか、それっぽい事言ってたよなぁ!? 偶然拾ったってことは、別にあの世界を救う転生者は僕じゃなくても良かったって事か!?」


「はぁ、アレを真に受けてたんですかぁ……? まぁサトルさんは社交辞令も解らない年齢で死んじゃったからしょうがないですかねー……」


「ハイまるで僕が悪い流れー! ごめんなさいねぇぇ! こちとら大学行く直前の18歳で死んだもんですからぁぁ!!」



 僕は誓った。

 「ごめんなさい」の言えない大人にならないように頑張ろう、と。

 少なくとも目の前に浮いているこの女神は、人間相手に頭を下げようなどという考えは持ち合わせていないようだ。



「ちなみにですが、大型トラックは本当にオーソドックスな殺害アイテムですっ! 某大手の転生者記録では、『トラック』で検索すると実に3300人を超える人間を殺害して異世界送りに────────」


「そ、そんなに殺してるのぉぉ!? どいつもこいつも、大型トラックで異世界転生しすぎじゃないか!?」


「えぇ~? ソレをサトルさんが言いますぅ~? プークスクス」


「その笑い方は僕にとって異世界のトラウマだから、今後絶対にやるな。いいな?」



 僕はド真顔で返す。

 僕が火魔法を使えないときに向けられた嘲笑そっくりだ。

 この女神のことだから、十中八九ワザとマネしてやってるんだろう。



「はいはい、じゃあしっかりとイメージしたあとに、呪文を唱えて召喚しますよ!」


「えっ!? 『凶器召喚』って呪文が必要なの!?」


「あ、いえ、無くても全然使えますよ。でもそっちのほうが雰囲気出るかなって。異世界でもサトルさんは呪文を唱える魔術師さんたちをウットリしながら見てた、って現場の天使から報告を聞いてましたし〜」


「う、うるせええええ! クソ天使どもめ、そういうところばっかり報告してるんじゃねえよ! 男の子はみんな呪文が好きなんだよっ! バス●ードとかヴァル●リープロ●ァイルとか呪文を覚えまくったわバーーカ!!」


「はいはい、つべこべ言わずあとに続いて詠唱してくださいっ! 行きますよぉ、せーのぉ!」



 僕はカッと目を見開き、女神の言葉に続く。



「『俺は貴様をぶっころす!』、はいっ!」


「『オレハクサムヲムッコロス!』ゥゥ!」


「はいダメー! あーあーサトルさん、活舌が悪すぎますぅ。そんなんじゃ20年経ってもニヤニヤ大百科とかプクチビ大百科とかでネタにされ続けちゃいますよー?」


「ヴェェェェェィ! うるせぇ余計なお世話だぁぁ! それに、こんな物騒でガラの悪い言葉を召喚呪文にしてるんじゃねえー!」


「ゑー? 『何としてでも殺すという強い意思が現れている』って、呪文公募の選考委員では好評だったんですけどねぇ」


「もっと独自性の強さとか、キャラがしっかり立つセリフなのかを考えて選考しろよぉぉ!」




 大音声だいおんじょうで抗議する僕だったが、ふと街角に設置された時計が目に入る。

 い、いかん。

 こんなアホなレクチャーを受けている間に、かなり時間が経過している。

 さっき女神が言っていた、今回の標的とハチ合わせになる時間までもうあと少ししかない。

 それは同じく女神も気づいたようだ。



「あーもー! もうこんな時間! サトルさん、そんな気合いを入れて叫ぶから活舌が死ぬんです。もっとこう、いつも通り陰キャな感じでボソボソ呟いても発動しますから……!」


「お前は! いちいち! 人の心を削って行くんじゃねえよ!」


「はいっ! せーのぉ!」


「お、『俺は貴様をぶっころす』ゥゥ……ニチャァ」



 僕はいつも通り陰キャな感じでボソボソ呟いた。



 すると、目の前の空間がぐにゃりと歪んだかと思えば、風景の中から解け出てくるかのような様子で真っ白い大型トラックが目の前に現れた。

 突如出現したにも関わらず、はじめからそこにあったかのような佇まいで、微動だにせず道路に置かれている。

 正面中央には見慣れた国内メーカーのエンブレムが入っているが、どんな形なのかを口に出してはいけない気がするので割愛する。




「おぉー! 立派な大型トラックですねぇ! しかもこれは、現地時間で10年前にサトルさんを轢き殺したタイプと同型ですね!」


「知らねえよ……よく考えたら僕が触ったことのある大型トラックってこれしか無かったから、同じタイプになったんだろ……?」


「なぁるほどー。あ、もうご存知かと思いますけど……いま使用した『凶器召喚』の加護は、サトルさんが『触れた当時のまま』の姿で何度でも召喚できます。仮にキーの刺さっていないトラックに触れていた場合はエンジンがかけられませんし、弾丸の入っていない銃に触れても呼び出せるのは弾切れの銃だけです。ご注意くださいね!!」


「へいへい……このトラックは僕を轢き殺した時はしっかり法定速度オーバーで走ってたからね……。だからキーも付いてるし、こいつを運転する事ができる、って訳ね」



 ちゃんと使える状態で触っておかないと役に立たない反面、銃なんかは弾が装填された状態のものを触っておけば、後で何度でも召喚できるようだ。

 一長一短があるのは仕方ない。

 これから何人殺害することになってしまうのかも解らないが、その都度凶器をいちいち準備する手間が省けるのは助かる。


 ……なんて、ここまで考えてから気付いた。

 僕は何て物騒な事を平然と考えているのか。

 これではまるでシリアルキラーじゃないか。

 僕がやっている事の一部を切り取るだけの見方をすれば、ただの殺人者だ。


 僕は、女神が死んだ人間の魂を異世界に送り届ける事を知っている。

 身を以て経験してきたのだから、これに関しては女神の言葉にウソはない。

 だが、異世界を助けるためとは言え、今ここで生きている人たちを本当に殺してもいいものなのだろうか……。

 大型トラックを前に黙ってしまった僕を見て、すぐ後ろで浮いていた女神は顔を覗き込んできた。



「……サトルさん、もしかして何か難しい事を考えてます?」


「……いや、何でもない。どうしても聞きたくなったら、その時に相談するよ」


「いいですよ、有料ですけど」


「そこはもうちょっと可愛らしく『はいっ』って言ええええええ!!」



 ツッコミを入れた瞬間、先程見ていた街中の時計にあわせて鐘の音が聞こえてきた。

 繁華街から未成年者を締め出して、家に帰らせるためのチャイムだ。



「さぁっ! 準備は整いました! サトルさん、乗ってくださいっ!」


「あ、あのさ……今更だけど僕、大型トラックなんて運転した事ないぞ!? まともにまっすぐ運転できるかどうか……!」


「えぇ、フラフラの運転でもいいですよ。いかにも暴走トラックっぽくて良いじゃないですか」



 妙に納得してしまった僕は、心底後悔した。

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