i f STORY 第二弾 葵南篇 後編 後半



葵さんを護る為の計画を完遂した後、月村からの連絡を待っている間、特にやる事ない俺は街外れをぷらぷらと徘徊していた。


今回、俺が月村に依頼したの火消しと元凶の特定だ。火消しの方は俺の行動と相まって無事に完了したが、未だに元凶の方は片付いていないので油断は出来ない。

なんせ元凶はあれだけ警戒していた俺と葵さんの事を出し抜いてしっかり写真を撮っていたのだから。


まぁ何となく目星はついているんだけど……


俺は誰もいない公園で連絡が来るのを今か今かと待っていると突然スマホが鳴った。


ピロリン!!


俺はメールを開くと月村から


【調査完了したよ〜!詳しく話したいから13時にここ集合でよろー!!】


と書かれたメールが送られてきた。


俺は【了解】と送り返すと集合場所へと向かった。


月村が指定した場所は学校から歩いておよそ20分程離れた場所にある寂れた公園だった。

これといって目立った遊具も無く、人通りもほとんど無いのでこう言った話をするのにはおあつらえ向きな場所だ。


約束の時間まで後5分となり、俺がスマホを見ながら月村が来るのを待っていると人の気配がしたので確認すると、思わずため息をついてしまった。


「はぁ……とりあえず月村よ、なんでお前と一緒に葵さんがいるのが説明してくれないか?」


そう、月村と一緒に明らかに不機嫌なオーラを全身から出している葵さんがいたのだ。


俺の質問に対して月村は


「ふふふ。キーム、その理由は君が1番分かっているんじゃないかな?少なくてもボクはそう思っていたんだけど、買い被りだったのかな?」


と、ムカつく表情で言ってきた。


「うるせーよ!聞いただけだわ!どうせお前が葵さんに言ったんだろ、『これから会いに行くけど、君はどうする?』みたいな感じで」


「お察しの通りだよキーム。けど一つ訂正すると、彼女は自力でボクを見つけ出して依頼してきたんだよ『木村君を探して欲しい』ってね!だからボクは少しだけ力を貸しただけさ」


「あっそ!」


月村の言葉を俺は軽く流したが内心では


(どうしよう、すげー殴りてー!!でもだめだ。ここで殴ると後が面倒になる、我慢、我慢……)


俺は必死に自分の欲望を抑えながら今度は葵さんに訪ねる。


「ねぇ葵さん。俺は言いましたよね?もう二度と俺に関わらないでくれと!それなのにどうしているんですか?」


すると葵さんは俺に近づくと右手を大きく振りかぶり


パチン!!


俺の左頬に強烈な平手打ちを食らわせた後、思いっきり胸ぐらを掴みながら怒鳴る。


「ふざけないで木村君!!貴方こそ、なんであんな事したのよ!?なんで私の事を庇う様な発言をしたの??あれじゃあ傷つくのは木村君だけじゃない!!」

 

と、何度も掴んでいる服を引っ張りながら聞いてくる。俺はそんな葵さんに弁明する。


「……ああする以外に葵さんを助ける方法が無かったんですよ」


すると葵さんは涙を流しながら大声で叫ぶ。


「何で、何で木村君が勝手に決めるのよ!!私がいつそんな事をお願いしたの?!!元はと言えば私から木村君を遊びに誘った事が原因なのに、なんで木村君だけが傷つがなくちゃいけないのよ!!」


「………」


「私は、私は木村君と一緒なら傷ついても良かった……木村君となら周りからどれだけ陰口を叩かれようが、どれだけ後ろ指を指されようが構わなかった!!だって…だって私は、私は貴方の事が、大好きだから……それなのに、それなのになんで貴方は私を置いていこうとするのよ?!そんなに私の事が嫌いなの?信じられないの?迷惑なの?ねえ答えてよ木村君!!」


「それは……」


俺はその質問に対して上手く答える事ができなかった。何故ならば、これは俺の個人的な事情であって葵さんは何も悪く無いから。


(そう、葵さんは何にも悪く無い。悪く無いんだ、だからそんな顔するのはやめてくれよ……)


俺は心の中で後悔した。

俺を見る葵さんの表情は、楓ちゃんが俺と言い争いなった時、最後に見せた表情と酷似していたからだ。


俺があの時の事を思い出していると、俺の中に居る“悔悟かいごの俺”が話しかけてきた。


【まったくお前はどうしょうもない奴だな。もう同じ失敗はしないって誓ったのに、お前はまた女の子を泣かせる気か?恥を知れ!】


悔悟の俺は心の中で俺の事を叱責した後


【いいか俺よ、確かにお前はもう誰とも関わらないと誓ったが、それは女の子を泣かしてまで守らなければいけない誓いなのか?お前がこの誓いを立てたのは、もう2度と女の子を泣かせたく無いからでは無かったのか?!】


怒鳴ってくる悔悟の俺に対して俺は逆ギレをした。


(うるさい!!お前に何が分かるんだよ!いつまでもあの時の事を引きずっているお前に俺の気持ちが分かるのかよ?!お前がいるから俺はいつまで経っても……前に進めないんじゃないか……)


そう言って俺は悔悟の俺の前で泣き崩れた。俺自身、これが八つ当たりだと分かってはいるのだが、それでも今回はこうするしか無かったんだ。


こうしなければ俺は、


(葵さんの事を諦められないから)


そう、俺は何度も一緒に遊んでいるうちに葵さんに対して恋愛感情とまでは言えないがそれに近い感情を抱いていた。

だがその感情を認めてしまえば、間違いなく俺の罪と罰が許さない。そうなればもう今までの様な関係で居られなくなると分かっていた俺は必死に心の奥に押し込めていた。そして、もしチャンスが有ればこの感情を消し去りたいとも思っていた矢先、俺と葵さんの関係がバレると言う事件が起こった。


これはチャンスだと思った。

これに乗じて、葵さんを助けると同時に葵さんへ抱いているこの感情を捨て去ろうと考えたのだ。


泣き崩れている俺に悔悟の俺は


【だからそれが甘えだと言っているんだよ俺よ!!そんな体たらくだからいつまで経ってもこの罪と罰を乗り越える事が出来無いと何故分からない!!何故逃げようとする!!】


(じゃあ、じゃあ俺は一体どうしたら良かったんだよ!!?)


【ふん!その答えをお前は、すでに分かっているはずだぞ。なんせお前は俺なのだから】


(答え…か…。ふふ、そうだな。ありがとう悔悟の俺、お陰で一歩だけど前に進めそうだよ)


【そうか……なら最後に一言だけ、もっと自分に正直になれよ俺!】


(ああ、俺はもう逃げないよ)


どこか晴れやかな表情をしながら悔悟の俺は消えていった。俺は消えた悔悟の俺に


(ありがとうな悔悟の俺!)


と、感謝の言葉を呟いた。





心の世界から戻ってきた俺は、目の前で泣いている葵さんの事を抱きしめた。


「えっ?!ちょっ木村君??ど、どうしたのいきなり??」


突然の事に驚く葵さんを他所に


「ごめん葵さん。俺さ、自分だけが傷付けば全部丸く収まると思ってたんだ……でも、こんな俺の為に泣いてくれる人が居るんだって知って、自分がどれだけ馬鹿だったのかようやく気づく事が出来たよ、ありがとう葵さん」


俺は葵さんへ感謝の言葉を伝える。

すると葵さんは頬を赤く染め


「お礼を言うのは私の方だよ!!月村君から聞いたよ、木村君が私の為に色々としてくれたって、それに朝の事も私の為にわざと皆の前で騒ぎを起こしたんだよね。改めて、私の為にありがとう木村君」


と言って俺の胸に顔を埋めてきた。

俺は少し照れながら葵さんに


「ねぇ葵さん。さっき葵さんはこんな俺の事をす、好きって言ってたけど、あれって本当?

自分で言うのもなんだけど、俺って根暗で陰キャなボッチって言う三拍子揃った男だよ?それに激恋愛恐怖症で女子と上手く話せないんだけど、それでも俺の事が好きなの?」


と質問をする。


やべぇ、改めて自分で再確認するとなんだか泣きそうになってきた。


すると葵さんは


「そんなの関係無いよ!……例え木村君が根暗陰キャコミュ症でちょっと手が触れただけで驚く様なビビり君だったとしても、私はそんな木村君の事が好きになったの!!」


どこか恥ずかしそうにしながらも気持ちを伝えてくれたけど、良く考えて見ると葵さん、俺の事をディスってるよね?(俺、涙目)


「本当に、本当にいいの?俺には葵さんに隠している秘密が沢山あるし、それに何より、俺が葵さんの事を好きじゃ無かったらどうするの?」


「えっ?!そうなの?私てっきり、木村君は私の事が好きなのかと思ってたんだけど?……私の事、嫌いなの木村君?」


上目遣いで聞いてくる葵さんに


「えー……まぁ、好きか嫌いかで言えば、好きかな……うん、この感情を表すなら好きって事なんだと思う」


俺は頷きながら隠さず答えた。 


何故なら俺はもう逃げないと決めたから



「ふふ、やっぱり私達、相思相愛だね!」


と、葵さんはまるで太陽の様な笑顔で言ってきた。


「うん、そうだね………ねぇ葵さん。改めて俺の方から言わせて欲しい事があるんだけど、聞いて欲しいんだ!」


「なに?」


俺は一度大きく深呼吸をした後、葵さんの両肩を掴み真っ直ぐ目を見つめながら


「俺は葵さんの事が好きだ!だから、俺の1番大切な人になって下さい!!」


と、告白をした。

すると葵さんは再び両目から大粒の涙を流しながら掠れる声で答える。


「はい、よろしくお願いします木村君!!」


そう言い終わると、葵さんは勢いよく俺に抱きついてきた。


こうして俺は自らの罪と罰を乗り越えて葵さんとお付き合いをする事になった。




〜半年後〜


俺と葵さんが付き合う事になってから半年が過ぎた。最初は、俺が起こした騒ぎのせいで周りからのアタリが大分きつかったが、葵さんからのアドバイスで髪を切って伊達眼鏡をやめたら何故か女子たちからの高感度が爆上がりした。


本当に女子って現金な人たちだと思う。


まぁ、俺には葵さんが居るから特に気にしていないのだが、今度は葵さんの方がなんだか不機嫌になる事が多くなってしまった。

どうやら俺が女子達からチヤホヤされた事に嫉妬していた様だ。


なにそれ可愛い!!ちょー可愛い!!


俺の彼女めっちゃ可愛いんだけどと、叫びたくなる気持ちを抑えて葵さんを宥めるのは本当に大変だった。


あっ!それと、ここでは葵さんと呼んでいるが、2人の時は南と呼んでいる。

今までの俺からしたらとんでもない進歩だ!



まぁそんな感じで俺は今、南と楽しい学園生活を送っている。

こんな幸せな生活をあの子と送る事が出来ないのが悔やまれるが、今は精一杯恋人である南の事を幸せにしようと俺は誓った。


 END


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


これにて特別企画が終了となります。

次回より本編に戻りますのでよろしくお願いします。

尚、第三弾に関しては夏頃に投稿したいと思います。

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