i f STORY 第二弾 葵南篇 後編 前半

無断で始業式をバックレた日から数日が経った。あの後、担任が家に電話していた様で父さんや母さんからもの凄く怒られたが、葵さんと一緒にいた事はナイショにした。


だって話したら絶対に面倒なことになるから!!


結局、次の日学校に行くと担任から反省文を書かされたり中庭の掃除をさせられたりと散々な目にあった。(何故か葵さんにはなんにもペナルティー無し!!意味わかんねー!!?)


それからも何故か葵さんはやたらと俺に絡んでくる。挨拶はもちろん、昼食の時や移動教室の時まで絡んでくるので正直勘弁して欲しい。


まぁそれでもなるべく目立たない様にしているので、クラスメイトどころか全校生徒を探しても俺と葵さんの関係を知らない。


ちなみに、俺と葵さんは始業式の日以外にも何度か一緒に出かけたりしている。

もちろん俺は何度も断ったのだが、それでも葵さんはめげずに何度も誘って来て、しまいには始業式の日の事をバラすと脅されました。(葵さんって腹黒だと思う……)



〜しばらく経ったある日〜


朝、教室へに入ると普段は俺の事なんて見向きもしないクラスメイト達が一斉に注目する。その視線には俺に対しての興味や値踏み、中には嫉妬の様な視線も含まれている。俺が自分の机に座ると、所々から小声でヒソヒソと話している声が聞こえてきた。


「ねぇ、アイツでしょ………って」


「そうそう、……………だよねぇ〜」


聞き耳を立てていた女子達の会話から


(……どう言う事だ?いつもは、こんな視線………まさか!?)


俺は慌てて立ち上がると、急いでの元へ向かった。



この高校に俺が友人と呼べる学生は居ない。だが、知り合い以上友人未満の学生がたった1人だけ居る。と言っても、そいつが一方的に言っているだけで、出来れば知り合いにすらなりたく無かったが、使える奴なので不本意ながら今でも度々頼み事をしたりする。



「この時間ならアイツは多分屋上にいるはずだ!!」


俺は廊下を全速力で走りながらアイツの居るであろう場所へと向かう。

基本的にアイツも俺と同じぼっちなので人気の無い場所を好むので居場所を推理しやすい。


屋上へと続く階段を登り切った俺は、一度深呼吸をして息を整えてから扉を開ける。するとそこには、もうじき夏なのにも関わらずニット帽を被り、ノートパソコンをいじっている黒髪ショートボブの学生がいた。


この学生の名は「月村来波」

中性的な顔と身長が150センチしかないせいでよく女子に間違わられるが正真正銘の男だ!

ちなみに俺はコイツの事を最初、ヒ○ヨシと呼んでいた。


「やっぱりここに居たか月村」


俺が名前を呼ぶと、月村はノーパソを閉じて笑みを浮かべ


「久しぶりだねキーム!ボクに会いに来るなんて珍しいねぇ」


「ふん!何が珍しいだよ!お前の事だからどうせ俺が会いに来た理由くらい分かってるんだろ?」


「ふふふ、もちろんだよキーム!君が知りたいのはコレでしょ」


と言って月村は自分のスマホを見せてきた。


そのスマホには【学校のアイドルと根暗陰キャがデート!】と言うハッシュタグのついた俺と葵さんが2人でゲーセンにいる所が撮られた写真が載せられていた。


「いや〜キームもなかなかやるよねぇ〜。あの葵南と2人っきりでデートなんてさぁ。彼女、今まで男子からの誘いは問答無用で断るって有名なのに一体どうやったんだい?」


俺はそう言って茶化してくる月村の事を睨みながら


「勘違いするなよ月村。俺が誘ったんじゃなくて葵さんの方から誘って来たんだよ!それと、これ以上茶化してくるなら前にも言った様にお前のそのノーパソをぶっ壊すからな」


「あはは、冗談だよ冗談!ボクだってキームが誘ったなんて思ってないから安心してよ」


「……ならいい」


「で、わざわざキームがボクに会いに来たって事は火消しの手伝いかな?それとも報復かな?」


月村はノーパソを弄りながら真面目な表情で聞いて来た。


「いや、お前には火消しと情報の出所を調べて欲しい」


「へぇー」


ここで月村について話しておこう。月村来波はうちの高校で1番頭が良く、さらに情報収集や潜入調査が得意な為、そこで手に入れた情報を売ったり、様々な依頼を受けたりといわゆる便利屋の様な奴だ。ちなみに、何故俺が月村と知り合いなのかと言うと、去年の夏に気まぐれで出場した合気道の大会で撮られた写真がツ○ッターに出回ってしまい、月村に頼んで拡散を防いで貰ったのだ。

その一件から俺が合気道を習っている事を知った月村に、護衛として何度か仕事を手伝って欲しいと頼まれる様になり今の関係になった。



俺が依頼すると月村は


「いいのかい?今なら友人割引で安くしとくよ?」


と、提案して来たが俺は


「悪いな月村、この件に関しては俺が自分で何とかしなきゃいけないんだ」


「ふーん……まぁボクはどちらでも構わないけど、お節介ながらこれだけは言わせてもらうよ」


「なんだよ月村?」


「キームはまず自分の過去とちゃんと向き合った方がいいよ。例えそれがキームの心を深く傷つけている事だとしてもね!」


「………」


実は月村は俺の過去の事を知っている。と言うより、俺が月村に依頼した時に月村の奴が詳しく調べたそうだ。お陰で月村の頼みを断れなかったりする。



俺が黙っていると月村はさらに


「ああ後、キームがやろうとしている事をちゃんと彼女にも話しておいた方が良いと思うよ」


と、忠告をしてきた。


「へぇ、月村は俺が何をしようとしているのか気づいたのか?」


「そりゃあボクとキームはそれなりに長い付き合いだし、既に学校中に広がった状況で彼女の名声を落とさない為の方法なんて限られているしね」


どこか寂しそうな表情で話す月村に俺は


「そんな顔するなよ月村。俺は嫌われるのには慣れてるから。それにいつかこうなる事は目に見えていたしさ」


と言いながら笑顔を浮かべた。



「そう……まぁ頑張ってねキーム。ボクの方はちゃんとやっておくから」


「ありがとうな月村。それじゃあ頼んだ!」


俺はそう言って教室へと戻っていった。



少しして、京が居なくなった後の屋上で月村はノーパソを弄りながら呟く。


「全く、君は本当に損な性格をしているよ……ボクとしては、君にはもっと幸せになって貰いたいんだよ。だって……」


と呟いた後、月村は京と撮った写真を見ながら


「だって君は、ボクに青春友情と言う物をくれたんだから」


と言いながら、上を向いて目を閉じた。




◆◇◆◇◆◇◆



教室に戻った俺は、朝練から戻ってくるタイミングを狙って下駄箱で葵さんを待つ。

別に教室でも構わなかったのだが、これから俺がする事をなるべく多くの人に目撃してもらう為には下駄箱の方が丁度良かったからだ。


俺が待っていると、どこかいつもより気落ちしている葵さんがやって来た。どうやら葵さんも知っている様だ。


(そりゃあそうだよな、俺と違って葵さんは情報源になる友人が多いだろうし当たり前か)


俺は下駄箱で靴を履き替えている葵さんに近づくと少し怒気を孕んだ大声で怒鳴る。


「葵さん!!俺、言いましたよね?をバラされたくなかったら俺の言う通りにしろって!!」


俺の声を聞いて周りにいた生徒達が集まり出した。中には教室から顔を覗かしている生徒やスマホを持っている奴もいる。

葵さんに至っては何が何だか分からない表情をしている。


「大体、いつもいつも近場を選ぶ時点で気付くべきだったんだよ!!あーあ!お前のせいで俺の今までの苦労が全部水の泡だよ!!どうしてくれるんだよお前?!」


俺は地団駄を踏みながら髪を無造作に掻き分ける。


「え????」


困惑する葵さんを他所に俺は最後に


「言い訳も無いのかよ?!あーもいいよお前!!をバラされたくなかったら金輪際、俺と関わるんじゃねーぞ!」


ドン!!


今までで1番の大声で言うと、俺は不機嫌そうな表情を作りながら下駄箱を蹴り教室へと戻る。

状況を飲み込めていない葵さんはその場に呆然と立ったままだ。


周りからの視線を感じながらも俺は、自分の荷物を持って下駄箱とは反対側から用意していた靴に履き替えて外に出ると、そのまま学校を後にする。流石にあの状況でのうのうと授業を受ける気にはなれない。


俺はぶらぶらと歩きながら、計画が上手くいった事に喜ぶ。


今頃高校では、『葵さんと俺が付き合っている』と言う話題から『俺が葵さんを脅迫していた』と言う話題に変わっている筈だ。

これで俺みたいな陰キャのせいで葵さんの株を落とす事は無い。


「ふふふ、我ながら上手く出来た……出来た筈なのに……何だろうこの気持ちは?」


俺は胸をの辺りを押さえながら、言い表せないこの感情について考えていた。



*******


〜南side〜



私がいつもの様に朝練に行くと、いきなり部活の後輩がスマホを見せながら


「葵先輩!!葵先輩が陰キャと付き合ってっるって本当ですか?!」


と聞いてきた。

驚いた私は慌ててスマホを見ると、私と木村君がふたりでゲームセンターで遊んでいる時の写真が写っていた。


「えっ?!ねぇこの写真どうしたの?」


「えーと、昨日の夜にツ○ッターで回ってきました」


「……そ、そう。ありがとう」


私は混乱した。今までも何度か木村君と遊んだ事はあるけど、木村君のお願いで誰にもバレない様に注意を払っていたし、学校を休んだり早退したりしたのにも関わらずまさかバレてしまうなんて、木村君に会った時にどんな顔をすれば良いのか分からなかった。


(どうしよう。このままじゃ私のせいで木村君が皆から……)


私は今にも泣きそうな気持ちを抑え込みながら朝練を始めた。



結局、朝練に身が入らず憂鬱な気持ちで教室へと向かっていると、予想通り周りから色々な視線を感じた。


許されるなら今すぐにでも帰りたい衝動を抑えながら下駄箱で靴を取り替えていると、私の目の前にやってきて


「葵さん!!俺、言いましたよね?をバラされたくなかったら俺の言う通りにしろって!!」


と、今までの彼からは考えられない様な大声で怒鳴ってきた。


(えっ?!どう言う事木村君???なに秘密って?私そんなの知らない……何でそんな嘘つくの?)


状況を飲み込めず、木村君の話について行けない私はただ黙って木村君の話を聞いていることしか出来なかった。


私が黙っていると木村君は更に


「大体、いつもいつも近場を選ぶ時点で気付くべきだったんだよ!!あーあ!お前のせいで俺の今までの苦労が全部水の泡だよ!!どうしてくれるんだよお前?!」


と言って地団駄を踏みながら髪を掻き分けた。


(あっ!これ本音だ……)


話の感じから木村君の本音だと気づいた私は、木村君に反論しようと考えていたら


「言い訳も無いのかよ?!あーもいいよお前!!をバラされたくなかったら金輪際、俺と関わるんじゃねーぞ!」


と言って木村君は勢いよく下駄箱を蹴った後、そのまま何処かへ行ってしまった。


木村君が居なくなった後、呆然としていた私に友人やクラスメイト達が近づいてきて


「大丈夫南?怪我してない?」


「南ちゃん大丈夫?」


「ほら、一緒に教室に行こう」


と、私を心配してくれる声が聞こえてきた。

教室についた私は自分の席に座り、周りを見回すと皆が私の事を見ていた。ただその視線には気の毒や同情と言った感情がこもっているのが分かったが、私はそんな事よりも


(何で木村君はあんな事を……)


木村君がどうしてあの様な行動をしたのかについて考えていると、周りから耳を疑う様な話が聞こえてきた。


「なんだ、葵さんと陰キャが付き合ってるわけじゃ無かったんじゃん!!」


「だな!そもそも葵さんがあんな陰キャと付き合うわけ無いんだよな!」


「つーかあの陰キャまじでヤバくない?」


「うんうん。いきなり怒鳴ってたし、下駄箱を蹴ってたし!やばいよねぇ〜」


「マジあの陰キャ居なくならないかなぁ〜」


「と言うかアイツ、葵さんの事を脅迫してたんでしょ?普通に犯罪じゃね?」



と、木村君の事を貶す言葉がひっきりなしに聞こえてきた。


(ああ、そう言う事だったんだ……)


そして私はようやく気づいた。


【木村君は自分が悪者になる事で私の事を守ってくれたんだと……】


でもそれはつまり……もう木村君とは一緒に遊ぶ事はおろか、たわいのない話しをする事も出来ないと言う事だった。


(そんなの、そんなの嫌だよ木村君……)


いつの間にか、私の両目から大粒の雫が幾つも溢れ落ちていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


補足1

月村来波にとって学校とは、ただ時間だけを浪費する不毛な場所でしたが、京と出会い、一緒にいるうちに学校と言うものが楽しいと感じる様になっていきました。

実はここだけの話、最初は京の事をただの肉の壁と思っていた来波でしたが、次第に京の事が大切になっていき、口では友人と言っておりますが本音は特別な存在です。(特別と言ってもその感情は恋愛感情では無く、家族の様な関係です。)



補足2

実は、京は自分が悪役ヒールになる事で南を助けると言う方法以外に思いつかなかった訳では無いのですが、他の方法では少なからず南にも被害が及ぶ可能性があったので、自分が100%ヘイトを受ける事で南を護る選択をしました。なんとも損な性格ですね。

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