i f STORY 第ニ弾 葵南篇 中編


誰にも見つからない様に学校から抜け出した俺と葵さんは最寄駅の方へと歩いていく。


楽しそうにスキップしながら進んで行く葵さんの後ろを、俺がなるべく目立たない様に下を向きながら距離をとって歩いてるいと


「ちょっと〜木村君!なんでそんなに後ろを歩いているのよー?」


葵さんの質問に俺は


「なるべく目立ちたく無いので距離を取っています」


と、感情のこもってない声で答える。

実際、すれ違う人の2人に1人は葵さんの事をチラッと見てるし、中にはヒソヒソと声をかけようと相談している者もいるので、ここで俺が隣を歩いていたりなんかしたら間違い無く目立つと断言できる。


俺が理由を答えると葵さんは不満そうな表情をしながら


「えぇー、そんな離れてたら木村君と喋る事が出来ないじゃん!!せっかく話しながら仲良くなろうと思ってたのに〜」


葵さんの表情が悔しそうな表情に変わったの見て俺はため息を吐きながら


「はぁ……いいですか、僕は遊びに行く事は了承しましたが、別に葵さんと仲良くするつもりはありませんよ」


と言って断言する。

すると葵さんは頬を膨らませながら


「もーう!そんな冷たいと私、泣いちゃうぞ!」


そう言って泣き真似をする葵さんを見て俺は素直に思った。


(はい可愛い!!……ダメだ、ダメだ、ダメだ!誓っただろうが馬鹿!!……でもやっぱり可愛い……)


俺が心の中で考えていると葵さんが肩を叩きながら


「ねぇ木村君、ちょっと聞いてるの?」


と、聞いて来た。

俺は直ぐに考えるのをやめて


「はっ!すいません葵さん。大丈夫です、聞いてますよ」


と返答すると、葵さんは俺を見ながら


「本当かなぁ〜?……まぁいいや、ほら行こう!」


「ちょっ!葵さん、待って……」


「待たないよーだ!!」


と言って葵さんは俺の手を引っ張りながら駅の方へと歩いていく。


〜5分後〜


周りからの稀有な視線を受けながらようやく最寄駅に到着した俺と葵さんは、併設されている商業施設へと入って行く。


ここの商業施設は、数年前に改装したばかりなので内装が綺麗な上、衣量販店からレストラン街に映画館など結構な数なテナントが入っているので普段ここに来る時は混んでいるのだが、今は平日の昼間と言う事もあり大して混んでいないので、本当に良かったと心から思った。


俺が内心安堵していると葵さんが笑顔で


「いつもは混んでいるけど、今日は人が少なくてラッキーだね木村君!」


「まぁ今は、平日の真っ昼間ですからね。それで、葵さんはどちらに行きたいのですか?」


「うーん、いつもなら本屋とか雑貨屋に行く所なんだけど、木村君はいつもどうしてるの?」 


葵さんの質問に対して


「僕ですか?僕はいつもゲーセンに寄ったり映画を見たり本屋に行ったり、あとはレストラン街やフードコートで食事をする位ですかね」


俺は基本的に服や靴などに興味が無いので、自然とそっち方面に金を使う事が多い。


俺がそう答えると葵さんが一番聞いては行けない質問をして来た。


「へぇー、木村君も映画を見たりするんだね。ちなみに誰と行くの?」


「・・・・」


俺は黙りながらゆっくりと視線を逸らす。

すると葵さんは申し訳なさそうな表情をしながら


「もしかして………もしかして1人?」


と、聞いて来た。

俺は恐る恐る首を縦にふりながら


「……はい」


静かに肯定すると、葵さんは気まずそうに


「……なんだかごめんね木村君」


と、謝って来た葵さんはどこか不憫な者を見る目をしていた。


ええそうですよ!!どうせ俺は友人の1人も居ないぼっちですよーだ!


俺は恥ずかしさのあまり叫びたくなる衝動を必死に堪えながら


「慣れてますから大丈夫ですよ葵さん。それよりお腹も空いて来ましたし、少し早いですがお昼にしませんか?」


と、強がりを言いながら話題を変える。


「そ、そうだね。それじゃあレストラン街へ……それともフードコートに行く?」


どうやら葵さんは、俺がわざと話題を変えた事を察してくれたようだ。


「それではフードコートに行きませんか。あそこならお互いに好きなものが食べられますし」


「オッケー!じゃあ行こっか!」


「はい」


俺と葵さんはエスカレーターに乗ってフードコートのある2階へと行く。


それから俺と葵さんはお互いに食べたいもの買うのに一度別れた後、某有名うどんでうどんと天ぷらを買った後、事前に待ち合わせをしていたテーブルで合流した。


葵さんは俺の持っているお盆を見ながら


「おっ!木村君はうどんなんだね」


と言って意外そうな表情を浮かべていた。


「ええ、そう言う葵さんはステーキですか?それもご飯大盛りですよねそれ?」


「うん。やっぱりお肉食べたいし、それに私、ご飯を沢山食べないとすぐにお腹が空いちゃうから!」


「失礼かも知れないですが、なんだか腹ペコキャラ見たいですね」


「もー!年頃の乙女に向かってそんな事言うなんて木村君は少しデリカシーを覚えた方が良いと思うよ」


「自分から乙女なんて言う女子は学校をサボったりなんかしませんよ。それに葵さんはどちらかと言えば乙女というよりもお転婆と言った方がしっくり来ますよ」


噂では、葵さんに振られた男子や妬んだ女子からの嫌がらせなどをOHANASHIと言う名の暴力で解決した事があるらしい……怖!!



「ふふ、そうね。確かに木村君の言う通り、かも知れないわね。よく父や妹から私は落ち着きが無いとか言われる事も多いし」


何故か落ち込んでしまった葵さんに俺は


「まぁ、そう言う所が葵さんの魅力なんだと思いますよ。それに、僕見たいな根暗陰キャと違って葵さんはみんなの太陽みたいな人ですから!」


と言って励まそうとしたのだが逆に葵さんは


「……なんだか木村君って大人だよね」


と、どこか寂しそうに呟いた。  


あかん!この流れはあかんぞ!


持ち前の危機感知能力(笑)が働いた俺は、なんとかこの流れを変えようと


「??どう言う意味ですか?もしかして僕ってそんなに老けて見えますか?」


「はぁ??」


俺は冗談を言って場を和ませようとしたが見事に失敗した。


「いやそう言う意味じゃなくてね、ほら私って美人だし、頭も良いし運動も出来る完璧美人だから、私の事を良く思って無い人もいるんだよね」


「自分で言いますかそれ?」


俺がツッコむと葵さんは口を尖らせながら


「だって本当の事だし……」


と言って不満そうな表情を浮かべてきた。


「……それで、なんで僕が大人なんですか?」


俺が質問すると葵さんは


「だって木村君。周りから陰口言われたり、笑われたりちょっかい出されたりしても変に反抗したりせず無視してるじゃん」


まるで俺の事をよく知っているかの様な口振りで話す。


あれ?俺と葵さんって、今日初めて話したよね??


なんだか追求すると面倒くさそうなので、流す事にした俺は


「まぁ、それが一番穏便にすみますからね」


と言って返答すると葵さんは


「そこだよ、そこ!」


と、俺を指差しながら言ってきた。


つーか、人の事指差すなよ!!


「???」


俺がはてなマークを浮かべていると


「私もさ、やっぱり陰口を言われたりちょっかい出されたりする事もあるんだよねぇ。まぁ殆どは無視してるんだけど、中には我慢できない事もあってさぁ、つい手が出ちゃう事もしばしばあるんだよねぇ……」


「ああ、何度か噂で聞いた事ありますね。たしか噂では、絡んできた部活の先輩を数人ボコボコにしたとか、他校の生徒を再起不能に追いやったとか色々ありましたね。まぁ、全て噂ですから僕は信じて居ませんし、何より興味もありませんでしたから調べる事もしませんでしたし」


カーストトップの葵さんに関する噂は毎週の様に流れるので、友人の居ないボッチの俺でも耳にする事が多い。と言っても、殆どが曖昧な噂や非現実的な噂ばっかなので信じては居ない。


俺が興味が無いと言うと、葵さんは先程までの寂しそうな表情から打って変わって


「あはは、なんか木村君って本当にへん…じゃなかったドライだよね!そんな噂があれば普通なら気になると思うんだけど?」


と、可愛らしい笑みをうかべながら聞いて来た。


「全然、全く、これっぽっちも興味もありませんね。それよりも今、僕の事を“変”って言おうとしませんでしたか?!」


「さ、さぁ、なんの事かな木村君?ほら!そんな事より、お互い食べ終わったしゲームセンターに行こうよ!」


と、話を逸らそうとする葵さんに対して俺はため息をつく。


「はぁ、露骨に話題を逸らさなくてもこれ以上なにも言う気はありませんよ。それより、本当にゲーセンで良いんですか?この時間なら映画でも良いですけど?」


俺の提案に対して葵さんは


「うーん、映画も良いけど、私としてはあんまり行かないゲームセンターに行きたいんだけどだめかなぁ?」


そう言って上目遣いでお願いしてくる葵さんに一体誰が拒否出来るだろうか?


「葵さんがそう言うなら僕は構いませんよ」


俺が賛成すると葵さんは勢いよく立ち上がり


「やったー!そうと決まれば早く行こうよ木村君!」


と言ってはしゃぐ葵さんに俺は


「分かりましたから落ち着いてください。じゃないともう帰りますよ。それでも良いんですか?」


と脅しをかける。すると葵さんは


「分かったわよもう……意地悪…」


と、小さな声で呟くのだった。



*******


ここで最近のゲーセン事情について説明しよう。最近のゲーセンではクレーンゲームなどに設定金額に達成した場合、確実にゲットする事が出来る確定機能などがついているのだが、それは言い換えればその金額に達さなければ技術が無ければゲットする事が殆ど出来ないと言う事でもある。

そして俺は兎も角、なんと葵さんはゲーセンで遊んだ事が殆ど無いらしく、欲しいぬいぐるみを見つけ見事に散財した。



「もーう!!なんで3千円もかけてるのに取れないのよ!?壊れてるんじゃ無いのこれ?」


最初は余裕で取ると息巻いていた葵さんだったが、今はぬいぐるみを文句を言いながら恨めしそうに見ている。どうやらかなり欲しかった様だ。俺はそんな葵さんに声をかける。


「そんなに欲しいなら僕が取りましょうか?」


すると葵さんは


「えっ?!木村君、これ、取れるの?」


と、疑った表情をしている。

俺はそんな葵さんに


「ええまぁ、これならなんとか取れると思いますよ」


軽い口調で答える。


「そ、それならお願いしてもいい?」


「ええ」


俺は100円玉をゲーム機に入れると3番の爪をぬいぐるみの足の辺りに目がけて狙いを定める。


「えーえ!そんな所じゃ持ち上がらないよ!」


俺の狙いに気づかない葵さんが声を上げる。


「ふふふ、まぁ見ててよ葵さん」


俺はそう言うとボタンを押す。


(もしこれで失敗したら恥ずいな……)


と、内心思いながら再度ボタンを押してアームを止める。今はアームの高さがボタンで調節できるので狙いやすい。


アームが止まり、爪が閉じると案の定ぬいぐるみは持ち上がらなかった。


「あーあ、やっぱりダメじゃん」


と、落胆の声を上げる葵さんだが、アームの爪の先に引っかかっているタグを見て表情を変える。


「凄っ!!爪にタグが引っかかって持ち上げてるー!!」


「ふふふ、これこそタグがけと呼ばれる技術だよ葵さん!それよりほら、どうぞ葵さん!」


俺はそう言って、取れたぬいぐるみを葵さんに渡す。すると葵さんは笑顔で喜びながら


「ありがとう木村君!!」


「ちょっ!!?」


いきなり俺に抱きついて来た。

動揺していた俺だが、葵さんのそれなりに大きな胸が押し当てられ我に変えると、慌てて引き離す。


「全く勘弁して下さいよ葵さん!いきなり抱きつかれたら照れてしまうじゃ無いですか」

 

俺がそう言うと、葵さんは俯きながら


「ふーん、ちゃんも照れてくれるだね。そっか、そっかそっか……」


と、誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。


◆◇◆◇◆◇◆◇



ぬいぐるみを取った後、俺は葵さんに無理矢理プリクラを取らされる羽目になったが、互いに初めてだったので落書きはしないシンプルなプリクラとなったので胸を撫で下ろした。




その後、某有名カフェにてフラ○チーノを飲みながら周りを見ると、帰りがけの学生が増えてきた辺りで俺は葵さんに


「ぼちぼち良い時間なので、僕はそろそろ帰りますね」


と言う。すると葵さんは


「えーなんでー?まだそんなに遅く無いし別にいいじゃない!?」


と、頬を膨らませながら不満を言ってきたので俺は丁寧に


「すいません葵さん。僕はこれから外せない予定があるので」


と言って断る。


「そっかぁ、それじゃあしょうがないね。今日はありがとう木村君。お陰で凄く楽しかったわ!」


「それはよかったですよ」


「……ねぇ木村君。また誘っても良いかな?」


「そうですねぇ……暇でしたらいいですよ」


「そう……それじゃあ木村君、また明日ね」


「ええまた明日」


と言って俺は葵さんと別れ、電車に乗って自宅へと帰った。


帰る途中、俺はずっと今日の事が誰かに見られてないか心配したが、今も葵さんといる時も駅や電車に同じ制服を着た学生が居なかったので大丈夫だろうと安堵していた。


していたのだが……


だが俺は油断していた


いや、忘れていたと言うべきか……


       壁に耳あり障子に目ありだと








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