i f STORY 第二弾 葵南篇 前編


100話突破記念第二弾は


【もしも葵南が京と高校の同級生だったら】


                です!!


今回は、京と南ちゃんが高校3年生という設定で書いています。

この話は断章を読んでから読むと、さらに分かりやすくなると思いますので、良かったら見て頂けると嬉しいです。


それではどうぞ!

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本気で恋をすると言う事は、自分の最も深く柔らかい部分をさらけ出す事だと俺は思う。

そうしなければ自分がどれだけ相手の事を好きなのか分からないし、相手も俺がどれだけ好きなのかを理解してくれると思うから。


ただし、最も柔らかい部分をさらけ出すと言う事はつまり、ふとした事で傷つき、深い傷痕を付ける事になると言うことを俺は知っている。


そう、あの日あの時、心の底から愛していたあの子が俺に告げたあの言葉が、俺の心の奥にある柔らかい部分に治ることのない傷痕を付けたあの日から……



*******




心に深い傷を負い一種の自暴自棄に陥っていたあの事件以降、中学では不登校だった俺は両親や周りの人達のお陰でなんとか高校へと進学し、それから2年が経った。


高校進学を機に誓った2つの誓いにより、陰キャの格好をしている俺は、予想通りクラスの人達と上手く馴染めず、人間関係はかなり酷い事になったが、それでも順風満帆とは行かなくてもそれなりに楽しい高校生活を送っていた。


あの日、俺の罰に気づくまでは……


俺が罰に気づいたのは進学してから1年が経ったくらいの時、俺が通っている合気道の道場で親しく(?)なった前園さんからの突然の告白による物だった。当時、あの事件から既に2年程の時間が流れていたので自分としてもある程度区切りを付けたと思い込んでいたのだが、どうやらあの言葉は俺の心の深くまで傷痕を残していた様で、前園さんの告白をトリガーにその日から女性に対して恐怖心や懐疑心などが酷く顕著になっていった。

具体的には女性から話しかけられたり、触れられたりすると、拒絶してしまったり、逃げ出したりしてしまうと言った症状が挙げられる。そのせいで、元々溝のあったクラスの女子達からさらに避けられる様になったり、陽キャ男子達から絡まれたりする事もしばしば増えた。


お陰で唯一の話し相手だったオタク仲間達も、巻き添えを恐れてか俺に近づかなくなって行き、3年に上がる前に俺はクラスで孤立する事になった。


人は自分の為なら平気で他人を見捨てる。


昔、漫画だかアニメだか小説だかにあったセリフだが、俺はこのセリフを本当に的を得ていると思う。だが俺は、別に離れていったオタク仲間達を責めたりはしない。


何故ならこれは社会の縮図だからだ。

社会に出れば平気で部下を見捨てる上司や手柄を横取りする同期がいると、俺は父さんの知り合いや部下の人から教えてもらった。刑事である父さんの知り合いには色々な人がいて、様々な事を教えてくれる。

例えば、この前捕まえた犯人は自分の汚職を部下に押し付けて逃げようとしたり、出来の良い同期に嫉妬して殺人をした奴もいるそうだ。


そんな事に比べれば、現状なんてクソみたいなものだろ?別に誰かが捕まった訳でも無ければ、死んだ訳でもない。ただ俺が、俺一人が孤独でいれば良いだけなんだから……



そして、クラスで孤立したまま俺は高校3年に進級した。

新しいクラスには、去年と同じクラスメイトも数人混じっているので、新学期初日には必然的に俺の情報がクラス中に広まるので、当然俺に話しかける者は居ないし、俺としてもその状況に感謝すらしていたりする。

このまま何事も無く最後の1年を過ごすことが出来そうだと思っていた俺に話しかけて来た女子がいた。


「はじめまして木村君。これから1年間、よろしくね!」


と言って来たのは、初めて同じクラスになった「葵 南」さんだ。

葵さんは長い黒髪を後ろに纏めたポニーテールが特徴のスラっとした綺麗な女子で、勉強は勿論、運動も出来るのでクラスどころか学校中でも人気の生徒だ。特に、所属している合気道部では部長を務めており、大会でも全国2連覇中の猛者だと噂で聞いた事がある。


そんな、学校カースト天辺の葵さんが学校カースト最底辺の俺に話かけてくると予想していなかった俺は黙り込んでしまった。


「………」


すると葵さんは頬を膨らませながら


「ちょっとー、無視しないでよー!」


と言いながら俺の肩を叩いてきた。

俺は反射的に


「やめて下さい!!」

 

と言ってその手を払うと立ち上がり、出口へと走り出した。これ以上俺のようなぼっち陰キャと関わってしまえば、葵さんの評判を下げる事になるだろうし、なにより俺が持たないからだ。


「あっ!!ちょっと待っ!」


呼び止めようとする葵さんを無視して俺はそのまま教室から逃げると、いつも休み時間を過ごしている図書室へと逃げ込んだ。

まだ始業式が始まっていないので開いているか不安だったが、幸い図書室は開いていたのでそのまま中へと入る。


「あら?おはよう木村君。今日は随分と早いのね?この時間だとまだ始業式が始まったくらいじゃないの?」


と質問してくるのはこの図書室の司書兼古文教師である新井先生だ。新井先生は眼鏡をかけた黒髪ショートの女性で、たしか今年で26歳くらいになるにも関わらず、色恋話が一切無い。(本人にその話をするとめちゃくちゃ怒る)



「おはよう御座います新井先生。そう言う新井先生も良いんですかここに居て?」


俺がそう聞き返すと新井先生は微笑みながら


「ふふふ、ええ問題無いわよ木村君。古文の教師って言っても私は非常勤だし、寧ろこっちが本業みたいなものだから!」


「相変わらずの本の虫ですねって、俺も人の事言えた義理ではないですが」


なんせ高校に入ってからほぼ毎日、昼休みはこの図書室で過ごしている。放課後は道場へと向かうので寄ることはほとんどないが、昼休みに関しては基本的に図書室で本を読んでいるか図書委員でも無いのに、なぜか本の整理や事務的な事まで手伝わされる事もしばしば……まぁその代わり、新刊を取り寄せて貰ったりしているからお互いギブアンドテイクの関係だ。




「あら、私は木村君みたいに本を読む生徒は好きよ」


と、新井先生が揶揄ってきたので俺は


「そうですか。自分も先生みたいに本を読む人は好きですよ」


と言って返すと、何故か新井先生は両手で頬を挟みながら


「えっ?!それってつまり、私の事が好きって事?……ダメよ木村君!私と貴方はあくまで教師と生徒なのよ!そんな恋愛小説みたいな事はフィクションだから許されるものであって……でも木村君がどうしてもって言うのなら卒業したら……」


やたらとテンションを上げ、顔を赤くした新井先生に対して俺は呆れながら


「また始まったよ新井先生の妄想……はぁ、これさえ無ければ尊敬できる先生なんだけどなぁー。こうなったらしばらくは元に戻らないからほっとくか……」


と言って俺は、ぶつぶつと喋り続ける新井先生を無視してラノベの棚から俺ガ○ルを取ると、窓際の目立たない席へと座り本を読む。

ちなみに、この図書室にあるラノベの殆どは、俺が新井先生に頼んで取り寄せて貰った物なので、ラインナップはかなり充実している。


(ハルヒを初め、俺○イルやイン○ックスにレール○ンなんかの大作はひと通りあるから、今度はよう実かこの○ばを頼もうっと!)


俺は次に頼む本を何にするか考えながら、俺ガイ○を読み始めた。


キーンコーン!!


カーンコーン!!


チャイムが鳴り響く中、俺が静かな時間を満喫していると心なしか体育館の方から騒がしい音が聞こえて来た。


どうやら始業式が始まったみたいだ。


(まぁ、今更行くのも怠いし、何より目立つのはもっと嫌だし今日はこのままでいいか)


例え急いで体育館に行っても、どうせ怒られるのが目に見えているので、俺はそのまま図書室で本を読み続ける事にした。



〜30分後〜


区切りのいい所まで読み終わったので俺は、クラスの連中が戻って来る前にひと足先に教室へと戻る事にした。


「それじゃあ新井先生、自分はこの辺で失礼しますね」


俺が挨拶すると新井先生はニッコリと笑みを浮かべながら


「またね木村君。この前言ってた新刊は来週の木曜日に入ってくるから間違えない様にね!」


「分かりました。本当、いつもありがとうございます」


そう言って俺は図書室を出て教室へと戻る。


「ふぁ〜あ!ねみーけど、今日は後1時間で終わりだから我慢、我慢」


俺は欠伸をしながら廊下を歩いていく。


教室の前に到着すると、どうせ誰も居ないと思っていた俺はろくに確認もせずに教室のドアを開ける。


すると、窓際の俺の席に座りながらスマホをいじる黒髪ポニーテールの美少女がいた。

美少女は俺が来たのを確認すると、不満げな表情をしながら


「あっ!やっと来た!!もーう、始業式も出ないで一体何処に行ってたの木村君!!」


予想外の事に俺は一瞬だけ思考が停止した。


「……えっ?!な、なんで居るんですか?!まだ始業式は終わって無いはずなんですけど葵さん?」


俺の質問に対して葵さんは


「いや〜、面倒くさくて途中で気分が悪いって言って戻って来ちゃった!」


と言いながら舌を出す。


「面倒くさくてって……それで、なんでの席に座っているんですか?たしか葵さんの席は廊下側だったと思いますけど?」


俺が質問すると葵さんは蠱惑的な笑みを浮かべて


「それはね、私が木村君の事を知りたいからだよ」


と答える。


「答えになって居ませんよ葵さん。僕の質問は、どうして葵さんが自分の席では無く僕の席に座っているのかを聞いているんです」


俺は葵さんの席をコンコンと叩きながら聞く。すると葵さんは立ち上がり


「もーう!木村君は少し頭が硬いよ!もっと柔らかくして行こうよ!」


と言いながら俺の側まで来ると上目遣いで


「ね!!」


と言って、俺の事を見つめる。


健全な高校生男子だったら間違いなく落ちているだろうが、残念ながら俺には通用しないんだよなぁ〜。


「はぁ……そうやってはぐらかさないでくださいよ葵さん」


「えーー、私は別にはぐらかしてるつもりは無いよ」


「そうですか……無自覚とはなかなかタチが悪いですね。でも気をつけないと周りから反感を買いますよ。まぁ、僕には関係無いですけど」


と言って俺は、自分の席へと戻ると帰り支度をする。これ以上葵さんと話していても意味が無いし、それに万が一誰かに見られてあらぬ誤解を招きたく無いからである。


今日渡されたプリントなんかをカバンに詰め込んでいると葵さんが


「えっ?!ちょっと木村君何やってるの?」


と聞いてきたので俺は


「うん?見て分かりませんか?帰り支度ですけど何か問題でも?」


と言ってカバンを持ち上げながら数回叩く。


「ええー?!帰るって……いいの?この後ホームルームがあるんだよ?!」


「別に僕が居なくても大して問題無いでしょうし、それにクラスの皆さんも僕が居ない方がいいでしょうから!」


そう言って俺は作り笑みを浮かべる。


すると葵さんが

 

「それじゃあさ、私も木村君と一緒にサボっちゃおうかなぁ〜!あっ、そうだ!ねぇ木村君、これから遊びに行こうよ!」


と、衝撃的な事を言って来た。

俺は慌てて


「いやいやいや!!流石に葵さんがサボっちゃダメでしょう?!」


「なんで木村君は良いのに私はダメなの?」


「なんでって言われても、そりゃあ僕見たいな問題児がサボるのと、葵さん見たいな優等生がサボるんじゃあ周りからの印象が違うからだよ!!」


俺が説明すると、葵さんは不機嫌そうな表情をしながら


「そんな周りからの評価なんて別に気にしないし、それに私の事を木村君にとやかく言われる筋合い無いと思うんだけど?」


「たとえ百歩譲ってサボるのは良いとしても、僕と関わるのはダメです!!」


「えーーなんでよ?!」


「僕の様な問題児陰キャと一緒にいる所を誰かに見られでもしたら、葵さんに変な噂が立ってしまうかも知れませんし、何より葵さんの評判を下げる事になってしまいます!!」


「さっきも言ったけどそんなの私は気にしないわよ!!それに、もしそうなったら私がそいつを見つけ出して泣いて詫びを入れるまでぶん投げてやるから安心して頂戴!ね!ね!ね!」


「………」


なんとも物騒な事を言う葵さんのプレッシャーに負けた俺は両手を上げて目を瞑りながら


「……分かりました。ですが今回だけですよ」


「やったー!!ちょっと待っててね!!」


葵さんは机の中に入っているプリントをカバンに放り込むと俺の手を引きながら


「それじゃあ木村君!行きましょうか!」


と言って下駄箱のある昇降口の方へと向かう。そんな一連の流れに俺は


「なんだかラノベみたいな展開だなぁ……不安だ」


と、ラノベの様に何かのトラブルに巻き込まれるかも知れないと不安に駆られるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


と言う訳でifSTORY第二弾が始まりました!! パチパチパチパチ!!


本編では京とは6歳差の南ちゃんではありますが、今回はなんと京と同い年と言う事で本編とはまた違った南ちゃんが見られるので、どうぞ最後までお楽しみください。












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