ifSTORY 第一弾 氷室龍一篇 後編


翌日


朝7時半


俺はいつもより早めに大学へと向かう。

理由はと言うと、昨日見事に葵さんに振られた氷室を慰めるためにだ。別にそこまでやる必要はないんだが、一応俺と氷室は友人と言う事になっているのでアフターケアー位はしてやろうと思ったからだ。



大学に到達した俺は、途中で買ったミルクティーを飲みながら門の側で氷室が来るのを待つ。


(ふぁぁぁ〜……めっちゃくちゃねみ〜けど我慢、我慢)


俺は何度もあくびをしながら眠いのを必死に耐える。

実は昨日、作戦がバレて葵さんに折檻された後、講義が終わると同時にそのまま車に乗せられて道場に強制連行された挙句、葵さんと地獄の乱取り(10分×5セット)をする羽目になったのだ!!それも、最初から最後まで葵さんに投げられては立ち上がり、投げられては立ち上がりのまさにサンドバック状態だった。途中、何度かいい線まではいったのだが、その全てを葵さんは悉く回避して反撃してきた。


そのお陰で今日、俺の体は全身筋肉痛だ!!


その上、睡眠も全然足りて無いので正直かなりキツイ。(ちなみに終わったのは夜の10時で、帰って来たのは夜の11時。眠りについたのは深夜2時頃)


そんな中、振られた氷室の為に早起きした俺はなんていい奴なんだろう!!と、言いたい気も無くは無いが、大勢の前で振られた氷室の事を考えるとそんなのは些細な事だと思う。なお、もし俺が氷室と同じように大勢の前で振られたら間違いなく大学を辞めて関東の秘境群馬の山奥に逃げるね!間違いなく!!



*******



俺が門の側で氷室を待ってからおよそ1時間程が経った時、遠くから聞き覚えのある男の声が聞こえて来た。


「それでさ、今日そのまま遊びに行かね?」


「えー!どうしようかなぁ〜?」



(やっと来たかあの馬鹿!……なんか一緒に女の声がしなかった?)


俺は慌てて声のする方へと視線を向ける。

するとそこには、昨日、葵さんに振られた氷室が今まで見た事のない女性と一緒に歩いていたのだ!!


俺は急いで氷室の側によると首根っこを掴みながら


「ちょっと来い氷室!!俺とOHANASHIしようぜ!!」


と、女性に聞こえないように耳元で囁く。

すると氷室は驚いた表情をしながら


「えっ?!ちょっ、ちょっ待てよ木村?!」


と言って俺の腕を振り解こうとするが、俺は更に腕に力を込めながらドスの聞いた声で


「いいから来い!!」


と言いながら俺は氷室を人気ない所まで連れて行くと、壁に寄りかかる氷室に向かって


ドン!


と、すぐ横の壁に掌底を喰らわせる。

あっ!安心してくれ、幾ら氷室がイケメンでも流石にぶつける様な事はしないから……多分。


俺は壁ドンで氷室が逃げられない様に威圧しながら質問する。


「どうゆう事だ氷室?誰だあの女性は?!」


すると氷室は


「うん?ああ、あの人は2年栄養科の塩尻さんだよ!!ほら、大学のパンフに載ってる」


と言って大学のホームページが開かれているスマホを見せて来た。

たしかにさっきの女性が載っている。それも結構デカく載っていた。


けれど今はそんな事よりも


「いや知らねーし!つーかそんな事よりお前、葵さんの事は諦めたのかよ?!昨日まであんなにゾッコンだったのに?」


俺がそう聞くと、氷室は頭を掻きながら答える。


「まぁ、幾ら俺でもあれだけストレートに振られたら諦めもつくさ」


淡々と話す氷室だが、その顔はどこか切ない表情を覗かせていた。



「……そうか。お前が割り切っているなら俺から、これ以上とやかく言うつもりは無いけど、それでどうして塩尻さんと一緒にいるんだよ!?それもあんなに仲良さそうに話していたけどもしかして付き合ってるのか?」


「別にまだ付き合っては居ないぞ」


「はぁ?あんなに仲良さそうに喋りながら腕を絡んで歩いていたにか?」


「流石に昨日の今日でそれは無理だわ!まぁその内付き合おうと思ってはいるけどな!」


と言いながら笑う氷室を見て、俺は氷室に聞こえない程度の小声で


「うわぁ〜リア充死ねばいいのに……」


と呟く。

すると氷室が俺の肩に手を乗せながら


「そう言う訳だから葵さんは木村に任せた!!お前なら絶対に大丈夫だ!俺が保証する!!」


「な、何言ってんだよ氷室!!俺は別に葵さんの事がす、好きじゃねーから!!」


俺は氷室の腕を払いながら否定する。

けれど氷室は笑いながら


「あはは!!分かった分かった!本当、素直じゃねーな木村は!!」


「うるせーバカ!!いいから早く彼女んとこに戻りやがれ!!」


「だからまだ彼女じゃねーよ全く。それじゃあな木村!!」


と言って氷室は塩尻さんの元に戻っていった。


「ああ、またな!」


俺は氷室が見えなくなると、別のルートから講義棟へと向かった。


葵さんの件も終わり、アフターケアに関してはどうやら必要無さそうなので、俺としてはもうこれ以上氷室と関わるつもりは無いと思ったからだ。


俺は講義棟へと向かう途中


「これでようやく、俺の平穏な陰キャ生活が戻ってくるぜ!」


と言いながら上機嫌でスキップをしていた。



*******


それから時は流れて、今は3月中旬


まず初めに、俺の平穏な陰キャ生活についてだが、結論からいって失敗した。


平穏な生活を送るつもりでいた俺を氷室の奴が色々と巻き込んで来たのだ!!


具体的に言うと、まず無理矢理氷室と同じサークルに参加させられそうになり、陰キャな俺の事を馬鹿にした先輩に氷室がキレて大乱闘に発展したりして苦労した……


他にも、夏休みにいきなり海に連れて行かれてナンパに付き合わされたり、海で溺れていた女性を助けたりと平穏とは程遠い夏休みを送る羽目になった。


おまけに学園祭の時には、俺が「助さん」だと知らない筈なのに氷室がバンドに誘ってきて結局一緒にバンドを組む事になり大変だった。なんせ氷室を含めた他のメンバー全員が殆ど楽器を弾く事が出来ず、俺が教える羽目になるわ、氷室の奴が無駄に歌が上手いせいでめっちゃ難しい曲を弾く羽目になるわで本当にぶん殴ってやろうかと思ったわ!!


しかもよりによって、学園祭当日にドラムの奴が事故で腕を骨折したせいでベース担当の俺がドラムを弾く羽目になり、目立ちたく無かった俺は、某有名バンドの様な狼ではなく、豚のマスクを被る事になった。

まぁお陰で、正体はバレずにすんだから良かったけど。(ちなみに、豚のマスクを被っていたから氷室達から「ポルコ」と言うあだ名がついた。だれが飛べない豚だ!!)



そして極め付けは、年末にあった忘年会での一件だ!!

忘年会と言っても大学の忘年会では無くて、葵道場の忘年会だ!!俺が葵道場に通っている事を知った氷室が、いつの間にか自分も葵道場に入門していたのだ!お陰で、氷室の奴も葵道場の忘年会に参加しで大変だった。

何が大変だったて、酒癖の悪い葵さんと酔うと絡み上戸になる新庄さんによって無理矢理酒を飲まされた氷室が暴走して俺にウザ絡みをして来たので一発張り手を喰らわせたり、俺が秘密にしている事を暴露しそうになったから絞め落としたりと本当に大変だった。




けれど、そんな騒々しい日々を過ごしたお陰で、俺と氷室の間に友情の様なものが出来上がったのは言うまでも無い。まぁ、俺としては不本意ではあるんだけどね。


それでもこれだけは言える。


多分この友情に関しては、これから先、どれだけの時間が経ったとしても続いて行くと…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


はい、と言う訳でi f ストーリー第一弾はこれにて終わりとなります。

終始、氷室の小物感が抜けませんでしたが、それでも最終的には京と親友になれるのは氷室らしいですね。

さて、お次のi fストーリーは南ちゃん篇になりますのでどうぞお楽しみ〜

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