ifSTORY 第一弾 氷室龍一篇 中編
氷室と和解をした後、俺は一人で大学内にあるカフェにて作戦を考えていた。
葵さんと氷室を仲良くさせて俺への関心を無くさせよう作戦、訳して
「
を考えたのは良いが、そう簡単にはいかないものでどうやってあの人を落とす事が出来るのかについて行き詰まる。
「うーん、さてどうしたものか?物で釣るのは無理だし、食事に誘うのも氷室の奴は何度も失敗しているからなぁ〜……あとは試合に勝ったらって、それは絶対に無理!!俺に勝てない氷室が葵さんに勝つなんてほぼ100%不可能に近いからなぁ〜」
俺が行き詰まっていると、後ろから数人の割と綺麗な女性達が声をかけて来た。
「ねぇあんた!ちょっと聞きたいことがあるんだけど、龍一に何したの??」
と、先頭に立つ金髪で鋭い目つきをした女性が質問して来た。
「えーと、誰?」
俺がそう尋ねるとリーダー格の女性は「あり得ないでしょ」と言いたげな表情を見せながら
「はっ??私らの事知らないのあんた?」
と、質問を質問で返してきた。
俺が(マナーのなってない女性だな)と思っていたら、後ろの方で傍観している女性に心当たりがあった。
(あ!!あの女性はたしかこの前、氷室達と一緒にいた……)
そこでようやく俺は理解したので声に出す。
「………あー!思い出した!たしか氷室にいつも纏わりついてる人達でしょ!思い出した、思い出した!それで、俺が氷室に何をしたって言われても心当たりがないんだけど?」
するとリーダー格の女性、たしか名前は六角さんだったと思う。
その六角さんがテーブルを何度も叩きながら声を荒らげる。
「そんな訳ないでしょ!!龍一があんたと話を付けてくるって言うから待ってたの!そしたらしばらくしてようやく戻って来たと思ったら肝心の龍一は帰ってこないし、探して見つけたと思ったら急に『もう付き纏うな』って言われるしで、私らみんな困ってるのよ!それで、あんたにどうゆう事なのかわざわざ私らが聞きに来たの!分かった?!」
自分達に何があったのかを説明する六角さんを他所に俺はミルクティーを飲みながら適当に相槌を打つ。
「へぇ〜そうなんですね。それはそれは大変でしたねぇ〜」
すると六角さんは俺の態度に不満があるようでって、当たり前なんだけど、いきなり大声で
「ちょっと!真面目に話を聞きなさいよこの陰キャが!!」
と言いながら俺の頼んでいた“季節のフルーツタルト”の皿を思いっきり払い除ける。
タルトはそのままテーブルから落ちてしまい、カフェ内に食器が割れる音が響き渡る。
ガチャン!!
パリン!!
その音に反応して、カフェに居た全ての客や店員が此方に注目する。
その視線には困惑や迷惑といったものから興味的なものまで多岐にわたるが、俺は特に気にする事もなく落ちたタルトを見続けた。
すると六角さんが更に
「ねぇ私の話ちゃんと聞いてるの?」
「はいはい、ちゃんと聞いてるよ。つーか、落ちたタルトどうすんだよ!!まだ一口しか食べて無かったのに!!」
「はぁ?あんたのタルトなんて知ったこっちゃ無いわよ!!そんな事より龍一に何したのか早く言いなさいよ!」
「五月蝿いなぁ……俺は別に何も言ってねーよ!むしろ俺じゃなくてお宅らに問題があったんじゃないの?知らんけど……」
と言って俺は立ち上がり帰ろうとする。
「ちょっ!ちょっと待ちなさいよ!まだ話は終わって無いわよ!あんたなんか私らに掛かればどうにでも出来るのよ!」
と、脅して来るが俺は
「だから?」
と言ってそのままカフェを後にする。
帰り際、六角さん達をチラ見すると凄い形相でこちらを睨んでいたが、俺は特に気にする事も無く帰った。
*******
翌日
俺が大学の門を通ると、数人のガラの悪い男達がいきなり囲んできた。中には以前、氷室と連んでいた奴もいたので、十中八九六角さんが絡んでいるんだろうと分かった。俺はその中でリーダーらしき男に話しかける
「一応聞いておくけど誰に頼まれた?」
すると、男達はニヤつきながら上機嫌に答える。
「くくく、さぁ誰だろうなぁ?ただ言える事は、お前をボコボコにすれば俺達がいい思いを出来るって事だけだな!」
「ふーん……それで、俺をボコボコにするのはお前らだけなのか?隠れている奴がいるなら出し惜しみしない方がいいぞ?」
俺が忠告すると男達は笑いながら
「ハハハハハ!!!お前みたいな陰キャ野郎一人を相手に、これ以上は必要ねーよ!」
と、馬鹿にしてくる。
俺は何処かで見ているであろう六角さん達を探しながらリーダーの男に最後警告をする。
「今すぐ消えれば見逃してやるからさっさと散れ!」
すると男達は先程までのニヤけた表情から怒りの表情に変わり襲いかかって来た。
「馬鹿にするのも大概にしやがれ!この陰キャ野郎!!!」
「はぁ……馬鹿しかいないのか」
ため息を吐きながら、俺が向かってくるリーダーの男の腕を掴もうとした瞬間、突然俺の後ろから右ストレートがリーダーの男の顔面にクリーンヒットした。
ドス!
「ぐわー!!」
リーダーの男はそのまま尻餅をつきながら自分を殴った男を見上げる。
「な、なんでテメーがそいつを庇うんだよ!氷室ー!!」
リーダーの男がそう叫ぶと氷室は鼻を鳴らした後、右拳を胸に当てながら一言
「ふん!愛の為だ!!」
と言って氷室は拳を構える。
どうやら俺の助太刀をしてくれる様だ。
正直、氷室が居なくてもこの程度の奴ら余裕で勝てるのだが、ここは有り難く手を貸してもらう事にする。
氷室が此方側に付いた事で、此方が優勢になると、囲んでいた男達は逃走を図ろうとする。すると、遠くから此方を見ていた六角さん達が現れて氷室に
「龍一!どうして龍一がそんな陰キャを助けてるの?!そいつは私らに酷いことをしたんだよ!ねぇ、どうして?!」
と、あくまで自分達は被害者であり、俺が悪いと言っているが、氷室は彼女達の嘘に気づいている様で全く耳を貸そうとさえしない。
それどころか、まるで汚物を見る様な目でハッキリと告げる。
「お前らが何を言おうが俺は木村を信じる。なんせ俺と木村は親友だからな!それに第一、俺はお前らの彼氏になった訳でもなければ友人になった訳でも無いぞ!むしろ、いつもいつも行き先々まで着いて来て正直うざい位だったわ!」
いつ親友になったんだよ!と言いたい所だが、ここで水を指すのはちょっと気がひけるのでとりあえず今は置いておくとして、氷室の言葉を聞いた六角さん達は唖然とした表情をしながら呆然と立ち尽くす。
チャンスと思った俺は、尻餅をついているリーダーの男に近づき話しかける。
「それで、お前らの依頼人はこの女達か?正直に話せば、これ以上痛い思いをしないで済むぞ?」
するとリーダーの男は何度も首を縦に振りながら
「ああ、そうだ。この女がお前をボコボコにすればいい思いをさせてくれるって言うから……」
と、簡単にゲロったので俺は手をヒラヒラさせながら
「ふーん、やっぱりそうか……さて、とりあえずお前らはもう消えていいぞ!」
と告げる。
すると
「う、うわー!!」
「「「逃げろー!!」」」
男達は慌てて逃げ出し、残ったのは俺と氷室、そして未だに呆然としている六角さん達のみとなった。
「さてと……それで氷室、この女達はどうする?」
俺は六角さん達に視線を向けながら氷室に質問する。
「どうするって?木村はどうするつもりなんだ?コイツらはありもしない事をでっち上げた上、数人で木村を襲わせたんだぞ?」
氷室は俺の質問に対して質問で返して来たが、俺はそんな事よりも氷室に対して1つ言いたいあことがある。
(昨日お前も複数で俺の事をリンチしようとしてたよな?!)
と、俺は心の中で叫んだ。
俺が心の中で叫んでいると、正気に戻った六角さんが氷室に話しかける。
「本当に私らの事見捨てるの?私らいつも一緒に居たじゃん!ねぇお願いだから捨てないでよ!もうこの陰キャには関わらないからさぁ、また一緒に遊ぼうよ龍一……」
と、泣きそうな表情で氷室に訴えかける六角さんに氷室は睨みながら冷たい声で
「まず前提が間違ってるんだよ。いいか、俺はお前らの事をずっと“うざい女”としか思ってなかったし、いちいち彼女ずらしてるのを見て何様だよと思っていたから!」
「「「「「な?!」」」」」
「ついでに言えば、俺はお前らみたいにいつまでも付き纏う女々しい女は大っ嫌いなんだよ!これに懲りたら、もう二度と俺達に近づくんじゃねーぞ!!行こうぜ木村!」
そう言って氷室は俺の背中を押しながら大学へと歩いていく。そして、氷室から拒絶の言葉を告げられた六角さん達が俺達に関わる事は二度と無かった。
*******
自称氷室の女達との一件を終わらせた俺と氷室は、講義の後一緒に昼飯を食いながら告白作戦を話し合う。
「それで木村。葵さんを落とす何かいい案は浮かんだか?」
と、真剣な顔で聞いてくる氷室に俺は両手をぷらぷらさせながら答える。
「いや〜幾つか考えてみたけど、どれも勝率は1割くらいかなぁ〜」
「そうかぁ……ちなみにどんな案があるんだ?」
「やっぱり最初に思いついたのは葵さんと勝負して勝つ!……なんだけど、これに関しては俺に勝てない氷室じゃあ葵さんに勝つどころか触る事さえ出来ないだろうからこの案は無しとして、後は葵さんの好きな物をプレゼントする案なんだけど……」
俺が言い淀んでいると氷室が急かす。
「なんだよ、焦らさないで早く言えよ〜!」
「実は俺も葵さんの好きな物を知らない!!なのでこの案も無し!!」
俺がそう言うと、氷室は漫画見たいにズッコケながら
「知らんのかい!!」
と、ツッコミを入れて来た。
うん、氷室は基本ボケ担当だけどツッコミも割といからタイプだ!
「そう言う氷室は何かいい案があるのかよ!?」
俺がそう聞くと、氷室は胸を張りながら
「無い!!だから木村、考えてくれ!!」
と言い切った。
俺はそんな氷室に呆れながら提案する。
「じゃあもういっその事、今すぐ告白して来れば?」
すると氷室は思い付いた様に立ち上がると大声で
「それだ!!悪い木村、ちょっと行ってくる!!」
と言って走り去っていった氷室を見ながら俺は小声で
「?????馬鹿なの……あいつ??」
呟くと、急いで後を追った。
このまま氷室が告白して振られれば、間違いなく俺の計画は崩れてしまう。それどころか、俺が関わっているとバレれば下手したら葵さんから説教と言う名のお仕置きが待っているだろう。
(拙い!、ひじょーに拙い!!早く氷室を止めねーと俺が葵さんに殺される!!)
俺は全力で走りながら氷室を探すが全く見つからない。
困った俺は、氷室を探すのを諦めて葵さんの元に向かった。葵さんはいつも講義が終わると直ぐに自分の研究室に居るので俺はそちらに向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「はぁ、はぁ、はぁ…」
俺が全速力で研究室に向かっていると、講義棟の入り口付近が学生達でごった返していた。
(スッゲー嫌な予感がするんだけど……)
俺は恐る恐る近づくと、聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「葵さん!!」
俺が慌てて人混みを掻き分け先頭に出ると、目の前に氷室と葵さんがいた。
「どうしたの氷室君?急に大声なんて出して?」
困惑している葵さんに向かって氷室は右手を差し出して
「好きです!!俺と付き合って下さい!!」
と、講義棟に響く程の大声で告白した。
「「「「「おおー!!」」」」」
「すげ〜」
「勇者だ」
聞いていた野次馬達が関心した声を上げる中、葵さんは困った表情をしながら告げる。
「ありがとう氷室君。君の気持ちは嬉しいんだけど、実は付き合っている人がいるの。だから君の気持ちには応えられないの……ごめんね」
と言って葵さんは研究室へと向かって行った。
「…………」
振られた氷室は、魂が抜けた抜け殻の様にその場に立ち尽くしている。
野次馬達もどう接したらいいのか分からず静まり返ってしまった。
そんな中俺は葵さんの研究室へと向かう。
どうしても葵さんに聞きたい事があったからだ。
俺が研究室の前に着くと、中から葵さんの声と物がぶつかる音が聞こえて来た。
(葵さんに何かあったんじゃあ?!)
と思った俺は慌てて研究室へと入る。
すると、
「もー!!何であんな所でいきなり告白とかしてくるのよアイツは!!本当に勘弁して欲しいわ!!」
と、文句を言いながら机を叩く見るからに不機嫌そうな葵さんがいた。
「え、えーと、大丈夫ですか葵さん?」
俺は恐る恐る、だるまさんが転んだの様にゆっくりと近づきながら話しかける。
すると、俺に気づいた葵さんが大声で叫ぶ。
「ちょっと!!何勝手に人の部屋に入って来てるのよ!!私は今不機嫌だから……って、なんだ木村君か……ならいいや」
最初めちゃくちゃ叫んでいたのにも関わらず、俺と分かると叫ぶのをやめた。
「それで、木村君は何でここに居るのかな?見ての通り、今の私は凄く不機嫌なんだけど?と言うか、木村君さっき見てたよね?」
「いやぁ、ちょっと気になった事がありまして……」
「気になった事?何かしら?」
「えーと、葵さんがさっき言った『付き合っている人』って嘘ですよね?少なくても俺は、今まで葵さんから男性のだの字も聞いた事が無いんですけど?」
そう、葵さんは勿論、妹の東子ちゃんやご両親とも良く話すのだが、葵さんに恋人どころか、男性の影すら無いらしいので、葵さんが嘘を付いているのは直ぐに分かったのだが、理由が分からなかった。
俺が質問すると、葵さんはコーヒーを飲みながら答える。
「あーその事ね。あれは…ほら、ストレートにタイプじゃ無いって言うよりもそう言った方が向こうも傷付かないじゃない。それに私、自分よりも弱い男と付き合うつもり無いし……」
と言ってため息を吐く葵さんに俺は言いたい。
(貴女に勝てる男なんて格闘家ぐらいですよ)と……
理解した俺はもう一つ気になった事を聞いた。
「理由は分かりました。ちなみに、例えば氷室が強かったら葵さんは付き合いますか?」
すると葵さんは笑いながら
「無いわね!彼みたいなチャラついた男は私のタイプじゃないし」
と、断言した。
哀れなり、氷室……
俺は心の中で氷室に合掌しているといきなり
「ところで、何で木村君はそんな事を聞いて来たのかな?」
と、葵さんが俺の肩を掴みながら聞いて来た。
(あっ!やべ)
俺の危険アラートが鳴ったのですぐに離脱しようとするが、肩を掴まれているので逃げる事が出来なかった。
「いやぁ、そのぉ、ねぇ……」
俺がなんとか誤魔化そうとすると葵さんが笑いながら(目が笑っていない)
「答えられないなら私が答えようか?どうせ彼と私とくっ付けて逃げようとしたんでしょ?違う?」
正解である。
「そ、そんな事は、無いよ……」
俺が目線を逸らしながら言うと葵さんはドスのきいた声で
「こっち向けよ木村君」
と言いながら俺を睨んできた。
「あっ、はい!」
俺はすぐに葵さんの方を向いた。逆らえば殺されると思ったからだ。
「さてそれじゃあ、悪い子にはお仕置きをしなくちゃねぇ〜」
そう言って指に力を入れていく葵さんに俺は
「お手柔らかに」
と呟くと、ゆっくりと目を瞑った。
◆それから先はご想像にお任せします◆
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
長くなりましたが、次で龍一篇は終わりとなりますのでよろしくお願いします。
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