動き出した影
突然の緑川さん来訪を無事(多分)を乗り切った俺は、日和と柊さんたちのいるダイニングへと戻る。すると、デザートのケーキを食べ終えた柊さんが
「遅かったな木村?何か問題でもあったのか?」
と、心配して来たので俺は
「いえ、ちょっと予想外の人が訪ねて来ただけですから特に問題ありませんよ!」
と言って椅子に座る。
すると今度は日和が、持っていた紙袋について聞いてくる。
「ねぇキョー兄、その紙袋はどうしたの?」
「ああこれ?実はさっき訪ねて来たのが緑川さんだったんだけど、この間のお礼ですって言ってくれたんだよ」
俺が日和の質問に答えると、日和は紙袋をよく見ながら不機嫌そうに
「へぇ〜そうなんだ。芽依ちゃんがねぇ〜…ちなみにキョー兄、その紙袋の中身は確認したの?」
「ん?いいや、まだ見てないよ!」
「そう……ねぇキョー兄、その芽依ちゃんからのお礼なんだけど、選挙が終わってから開けてもらってもいいかな?」
「まぁ、別に構わないけど……一応、理由を聞いてもいいか?」
俺が理由を聞くと、日和は「言いたく無い」と言う表情をしながら
「選挙が終わったら話すから、絶対に開けないでね!それじゃあ私は明日、葵先輩と出掛けるから帰るねキョー兄!お休みなさい」
とそう言って日和は自分の部屋へと戻っていった。俺は日和を見送ると、残っている柊さんと二人で食後のコーヒーを飲みながら世間話をする。
時刻が午後10時を過ぎ、明日は朝から仕事があると言う事で柊さんも帰った。
俺は帰ろうとする柊さんに今日のお礼を言う
「ありがとうございました柊さん。このお礼はいつか必ずしますので」
すると柊さんは笑みを浮かべながら
「気にするな木村!俺の方こそ今日は楽しかったぜ!また機会が有れば呼んでくれ!どこに居ても飛んでくるからさ!」
と言って右手の親指を立てる。
「あはは、ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」
俺がお辞儀をすると、柊さんはドアノブに手をかけドアを開けようとした時
「あっ!!そうだった!……なぁ木村」
と、何かを思い出したのか、俺に話しかけて来たので俺は
「なんですか柊さん?何か忘れ物ですか?」
と聞く。すると柊さんは憐憫な表情をしながら俺に
「日和ちゃんにしろ、葵ちゃんにしろ、真白さんにしろ、変に誤魔化さずにちゃんとハッキリさせてやれよ!じゃあなぁ!」
と言って、柊さんは帰っていった。
俺は柊さんが帰った後、片付けや皿洗いを終わらせると、ソファに寝っ転がりながら柊さんが去り際に言った言葉を思い出していた。
「はぁ、やっぱり柊さんも気づいちゃったかぁ、そりゃ気づくよなぁ……はぁ……」
俺は何度も溜め息を吐きながら疲れのせいかそのまま深い眠りについた。
翌日
俺が大学で講義を受けていると、東子ちゃんからメールで支持率が緑川さんと並んだと言う連絡が入って来た。
俺は次の動画をどうするか東子ちゃんと日和にメールを入れると講義に戻った。
その日の夕方
大学が終わり、買い物をしていると日和から電話が来たのですぐにでる。
「もしもし、どうした日和?もしかして動画の事か?それなら帰ってからでも【違うのキョー兄!!!】」
俺が話していると、途中で日和が珍しく声を荒らげながら
【キョー兄助けて!!芽依ちゃんが!、芽依ちゃんが!】
と、緑川さんの名前を何度も呼びながら混乱している日和に対して俺は落ち着くように指示する。
「落ち着け日和。まずは何があったのかをゆっくりでいいから話してみてくれ!」
すると日和は落ち着きを取り戻し、一体何が起こっているよかを話しだす。
【う、うん………あのね、芽依ちゃんの友達で石見さんって言う子がいるんだけど、一緒に下校している時に、芽依ちゃんが柄の悪い人達に攫われて私達に助けを求めて来たの!】
と聞いた瞬間、俺は心の中で
(そんな漫画みたいな事ってある??!)
そう叫んだ後、もしかしたらその石見さんって子の勘違いかも知れないので、一応確認してみる。
「それは本当か日和?!ちゃんと緑川さんには連絡をしたのか?」
【うん、ちゃんとしたよ!でも何度掛けても出なかったの!】
「そうか……警察には連絡したのか?」
【それが、実はねキョー兄、誘拐犯が石見さんに“警察に連絡したら芽依ちゃんの命は無い”って言ったらしいから連絡はしてないの……だから私達じゃどうしようもなくて……お願いキョー兄、助けて!芽依ちゃんを助けてキョー兄!!」
震える声で助けを求める日和に
「分かった。俺に任せろ」
と言って俺は、日和に色々と指示をした後、ある人に連絡をした。
**************
一方、時は日和や京達が動画を撮っている頃まで遡る。
音羽大学附属高校にある一室にて、生徒会長候補の1人である影浦隣寺とその推薦人である黒磯奈緒がこれからについて相談していた。
「それで、貴方はどうしてそんなに余裕なのよ隣寺君!このままじゃああの2人に惜敗どころか惨敗よ!」
そう言って黒磯は机をバンバンと叩く。
側から見ればよろしく無い行動だが、これはしょうがないと言わざる追えない。なにせ現在影浦の支持率は僅か1割と絶望的だ!その上、会議であれだけ啖呵を切った以上、このままだと黒磯の面子は丸潰れである!さらに当初の目的であった葵東子への復讐が出来ない。これは黒磯にとって由々しき事態にだった!
それなのにも関わらず、当の影浦はのほほんとしてまるでやる気を感じられない上、相談中にも関わらずスマホを弄りながらあくびをしている。
黒磯はそんな影浦に対して強い口調で
「ねぇ聞いているの隣寺君!!」
と、怒鳴る。すると影浦は面倒くさそうな表情をしながら話す。
「問題無いっすよ奈緒さん!こっちの準備はもう終わってますからね!あとは明日……ふふふ、最後に笑うのは俺ですよ葵東子!ふはははははははは」
「・・・・・」
不気味に笑う影浦を見て黒磯は顔を顰める。
影浦が一体これから何をするつもりなのか黒磯は知らない。だが、黒磯は影浦が今まで行って来た所業を知っている。と言うよりも、実際に見たと言った方が正しいか。
黒磯は、前生徒会の時に当時の会長から影浦の調査を命じられていた。そして、影浦が同級生に対してのイジメを促し、転校にまで追いやった事を調べ上げた。だが黒磯はその事実を前会長には伝えなかった。何故なら黒磯は、影浦を使って東子に復讐しようと考えたからだ。だがその選択が黒磯にとって最悪の選択だったと言う事を、影浦の不気味な笑みを見てようやく黒磯は気づいたのだった。
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