緊急会議




突然の緑川さんの来訪により、俺の中では現在、緊急会議が開かれている。


議題は「なぜ緑川さんが来たのか?」と「どうやって緑川さんと二人を会わせないようするか?」の二つだ!!


真面目な俺 「それではこれより緊急会議を始めるが、誰かいい案はないか?」


と、ガベル(裁判官がカンカンするやつ)を持った真面目な俺が言うと、眼鏡をかけた客観的な俺が


客観的な俺 「やはり最優先にするべきなのは緑川さんと二人を会わせないようにする事でしょうから、来訪の理由を聞いた後、適当な理由を言って帰ってもらうのはどうだ?」


と、提案する。すると今度は、ピシッとしたスーツを着た慎重な俺


慎重な俺 「いや待て!それだともし日和や東子ちゃんの口からバレたら後々面倒にならないか?」


と言うと、今度は頭の後ろで腕を組み、ラフな格好をしたポジティブな俺が


ポジティブな俺 「まぁ、そん時はそん時でいいんじゃないか?とりあえず今のこの状況を乗り越える方が先決だろうし」


と、かなりポジティブと言うべきなのか、行き当たりばったりな提案をする。

すると、ポジティブな俺の隣で布団を被っているネガティブな俺が手を上げながら話す。


ネガティブな俺 「お、俺は反対です。それだと、バレた時に緑川さんと日和に決定的な溝が出来てしまう恐れがあると思うし、そのせいで日和がもし俺達みたいに引き篭もったら……どうしよう?」


ネガティブな俺が、まるでこの世の終わりだと言いたげな表情で話し終わると、日和の顔がプリントされた服を着て、その上から「日和LOVE」と刺繍された法被を来たシスコンの俺が力強くテーブルを叩きながら叫ぶ。


シスコンな俺 「なんだと!!それだけはダメだ!!日和の笑顔は俺達にとってオアシス!いや、もはや生きる糧と言っても過言では無いのだ!皆の衆!何かいい案はないか??」


「じゃあ先程までのやり取りは一体何だったんだ」と他の俺達が思っていると、シスコンな俺の横に座る強気な俺が


強気な俺 「ばーか!何を聞いてやがったんだお前は?!今その話をしてるんだろうが!いいか、こう言う場合はもう腹を括って二人と緑川さんを会わせようぜ!!もし危険な雰囲気になったとしても俺達がなんとかすればいいわけだしさ!な、俺達もそう思うだろ?!」


強気な俺の発言に対して、数人の俺が「うーん」と考え込み、他の俺は腕を組み「うんうん」と頷く。このまま、強気な俺の考えた方法で決定になりかけた瞬間


「待て!!」


と、一人の俺が手を上げた。その俺は何故か右目に眼帯を着け、ジョ○のようなポーズをとっている。


そう!この俺こそ、複数ある俺の中でも一番ヤバイ俺、厨二病な俺だ!


厨二病な俺 「良いか同志諸君!!ここで我らが緑川さんを無下に扱えば、日和や東子ちゃんから我らへの印象も悪くなるだろう。それに、たとえ緑川さんが居なくても、どのみち日和に問い詰められて知られてしまうのは目に見えている訳だし、ここは隠さずに話すべきだ!!そしていっその事、我らが三人の仲を取り持ってやると言うのはどうだ?そうすれば三人からの印象も良くなるし、問題も解決する一石二鳥の作戦だ!それに、先延ばしにすれば必ず酷い目に合うぞ!良いか、撃って良いのは、撃たれる覚悟のある奴だけなのだよ!!分かったかね、同志諸君!!?」


と言って、厨二病な俺は右手で顔を覆い、左眼だけを見せる。


どこのル○ーシュだよコイツは?!


最後、ちょっと何言ってるのか意味が分からなかったが、要約すると俺が三人を仲直りさせてあげようと言う訳だ。我ながらなんとも傲慢な俺だと思う。


その後、他の俺が幾つかの案を出してから全員で相談する。


そして相談の結果、最終的に厨二病な俺以外、満場一致で一番最初の客観的な俺の案に可決されたのだった。



*******


時間にしておよそ3秒ほどの緊急会議を終えたタイミングで、緑川さんが軽くお辞儀をしながら


「こんばんわ木村さん。突然お邪魔してすいません」


と、この挨拶をして来たので、俺は緊急会議の決定通り、緑川さんに来訪の理由を質問をする。


「こんばんわ緑川さん。もう暗くなる時間だけど、いったいどうしたのかな?」


「えーと、その……」


俺の質問に対して緑川さんは手に持っている紙袋を俺に渡すと、顔どころか耳まで赤くさせながら答える。


「あの!こ、この前、御夕飯をご馳走になったのでそのお礼です!もし良かったら使って下さい!」


「えっ?!そんな、お礼なんて別にいいのに……でも、ありがとう緑川さん」


俺がお礼を言うと、緑川さんは俯きながら小声で


「いえ!そんな大したものでも無いですし……あのっ!木村さん私……」


緑川さんが話していると、ダイニングの扉が開き


「ごめんキム兄。私そろそろ南姉さんとの待ち合わせの時間だから帰るね!って、芽依ちゃん?!」


と、帰り支度を済ませた東子ちゃんがやって来た。


「げっ!!」


「えっ?!東子先輩?」


俺は思わず変な声を出してしまった。

何というタイミングの悪さなんでしょう。

俺は右手で顔を覆いながら二人を見る。すると、東子ちゃんと緑川さんはお互い睨み合いながらしばらく沈黙した後、まず東子ちゃんが口を開く。


「こんばんわ芽依ちゃん。どうしてこんな時間にキム兄のマンションに来たのかな?それも真っ暗な夜に一人で来るなんて、あまりに不用心だよは思わなかったの?それとも、他に人がいると拙い事情でもあるのかしら?」


まずは東子ちゃんの先制パンチが炸裂!!対して緑川さんは


「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ東子先輩。私はただ、木村さんにこの間のご馳走になったお礼をしに来ただけですよ」


と、笑みを浮かべながら話している緑川さんの目は全然笑っていない。すると東子ちゃんは俺の持っている紙袋を見た後


「ふーん。お礼って言うのは本当見たいね。でもだからと言って何で今日なのかしら?別の日でも良かったんじゃ無いの芽依ちゃん?もしかしてお礼以外にも理由があるんじゃないのかしら?」


と言って東子ちゃんは緑川さんに追求する。

対して緑川さんは俺の方を見つめながら口を開いた。


「その通りです東子先輩。お礼と言うのはただの建前で、本当は木村さんに会いたかっただけなんです」


「えっ?!」


「やっぱりね。そんな事だろうと思ったわ!中間発表でリードしているからって、もう勝った気でいるなんて随分と余裕なのね!」


と、煽ってくる東子ちゃんに対して緑川さん

は笑みを浮かべながら


「ええ、東子先輩たちのお陰様で毎日有意義に過ごせていますよ。ありがとうございますね!」


と言って煽り返した瞬間、周りの空気が重くなり、二人の後ろに龍と虎が見えて来た。そう、まるでスタンドのように……


しばらくの睨み合いの後、緑川さんが溜め息を吐いた後


「はぁ、これ以上の歪み合いは無意味ですね。すいません木村さん、今日の所はここで失礼します。それでは」


と言って緑川さんは帰って行った。

随分とあっさり帰った緑川さんを見て、東子ちゃんは拍子抜けした様な表情になっていたが、南ちゃんからのメールを見て青褪めた表情に変わった後、急いで帰って行った。



こうして、緑川さんの突然の来訪をどうにか無事に(多分)乗り切る事が出来たのだった

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