選挙戦略


私の言葉を聞いて、困惑した表情のまま固まった葵先輩がようやく口を開いた。


「な、なんで木村さんはそう思ったの?」


「それは……それはキョー兄がそうだからだと思います。詳しくは言えませんが、キョー兄は以前とある事件で心が荒んでしまって、しばらくの間酷い状態だったそうです。今でこそ立ち直っていますが、偶にその頃の話をする時のキョー兄の表情が、葵先輩と同じように表ではバレないように取り繕っているけど、裏では辛いけど必死に隠そうとしているんですよ。そんなキョー兄と葵先輩のお二人が重なって見えてしまって……」


私が理由を話すと葵先輩は俯きながら小声で


「そっか、キム兄も私と同じなんだ。そっか、そうなんだ……」


と、聞こえないくらいの音量で独り言を呟いていた。私はそんな先輩に話かける勇気が無かったので、そのまま無視をしながら歩き続けた。


その後、翌日からの選挙活動の打ち合わせを済ませて今日は解散になった。


*******

翌日


選挙日まで後8日になり、いよいよ選挙活動が始まる。

事前の打ち合わせ通り、私と葵先輩は朝の登校に合わせて挨拶運動、いわゆる「朝立ち」と葵先輩お手製のポスター貼りなどからSNSを使った選挙活動などを行っていった。


やっぱりと言うべきなのか、流石と言うべきなのか分からないが葵先輩の人気は凄まじく、朝立ちの時には主に1.2年生から絶大な人気を博していた。

葵先輩のおかげで近くで同じように朝立ちをしていた芽依ちゃんや影浦君よりも目立つ事が出来たので、かなりのアドバンテージを獲得したと言えるだろう。


次に私たちが力を入れたのはSNS関係にかんしてだ!昨今、スマホの普及と共に情報の確保が簡単に出来るようになった事で、情報が広まるのが早い上、より沢山の人に知ってもらう事が出来るからだ。


「と言う訳で、これから木村さんにはSNSに使う為の写真を撮りたいと思いまーす!パチパチパチパチ!!」


何故かテンションの高い葵先輩に対して、私は今の状況について聞いた。


「あのー葵先輩。写真を撮るのは分かりましたが、なんでそんなにテンションが高いんですか?」


私の質問に対して葵先輩は真面目な顔で


「そんなの決まってるじゃない!木村さんが可愛いからよ!!」


と言ってきたので、私はさらに質問をする。


「そうですか。では、なんで服が制服では無くてドレス何ですか?!」


そう、写真を撮ることに関しては問題ないが、何故か葵先輩が渡して来た服がどこからどう見てもドレスなのだ!それも、キョー兄が録画していたアニメに出ていたキャラと似ていたので私は疑問に思った。


すると葵先輩は


「そりゃあ、金髪でドレスって言えばヴァイオレットちゃんでしょ!!私大好きなんだよねぇ〜!!!」


「それってたしか、両手を無くした軍人の女性が自動手記人形の仕事を通して感情を知って行くって話ですよね?一時期、キョー兄が凄くハマって見ていましたよ!」


私がうろ覚えの記憶を頼りに話していると、葵先輩は目の色を変えながら私の手をとって


「そう!!そうなのよ!!!エヴァガはやっぱり、段々とヴァイオレットちゃんが感情を知って行くのがいいのよね!それに、依頼人の人にも様々な過去があって、それがまたいいんだよねぇ〜。特に、7話の湖の上を歩くシーンはとんでもなく綺麗で、流石京アニさんだなーって思ったわ!!でも、なんと言ってもアニメ10話に関しては本当に泣けるわ!!もう涙が止まらないのよ!!!」


と、永遠に話を続ける葵先輩の手を振り払いながら私は


「分かりましたから、そのへんにして早く写真を撮ってしまいましょう!!」


と言うと、葵先輩は我に返り


「はっ!ごめんなさい木村さん!私としたことが、つい柄にもなくはしゃいでしまったわ!」


「まさか葵先輩がアニメ好きだったなんて本当にびっくりです!」


「別にアニメ好きって訳では無いけど、エヴァガに関してはキム兄に勧められて見たらいつの間にか自分でも怖いくらいハマってたのよね!」


と、葵先輩は不思議そうな顔をしながら話す。


「そうだったんですか。でも、その気持ち分かります!実は私も、キョー兄の持っている漫画を読んだらハマってしまって、漫画とアニメを全部見ちゃいましたもん!」


「へぇー、木村さんもそうだったのね!こうしてお互いの好きな物を知って行くと、なんだか私達って趣味が合うみたいね!」


葵先輩は笑いながらそう言うので、私もつられて笑いながら


「そうですね!でも、趣味が合うって事はもしかしたら同じ人を好きになっちゃうかも知れませんね」


と、私は葵先輩に対して鎌をかけてみる。


(芽依ちゃんと葵先輩の会話で、お互いがキョー兄の事を好きなのは分かっているけど、やっぱり本人の口から直接聞きたいしね!)


私が内心そう思っていると、葵先輩は平然とした様子で


「そうかも知れないわね。もしそうなった時は、お互いに悔いの残らないようにしましょうね」


と行って、右手を出して握手を求めて来たので、私はその手を取り


「はい、その時はよろしくお願いしますね葵先輩」


と笑顔で伝える。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


その後、無事に写真を撮り終えた私は選挙用のSNSアカウントを立ち上げ、積極的に更新を続けた。すると、立ち上げてからたった2日でフォローが全校生徒のおよそ7割に及び、新聞部による候補者支持率の方も私が全体の5割、影浦君が3割、芽依ちゃんが2割で、このまま何事も無く行けば、当選確実と葵先輩に言われた。


けれど、物事と言う物はそう上手くはいかない物で、その事を選挙5日目の時に私は思い知らされた。




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