昔の東子と今の東子
興奮状態の黒磯先輩は、一度深く深呼吸してから、葵先輩との因縁を話し始めた。
「あれは忘れもしない2年前の入学式。私は退屈そうにしてた隣の席の貴女に対して親切に声をかけたにも関わらず貴女はそれを無視よ!それも、一度もこちらを見る事なく無視よ!!信じられる?」
そう言って、私達に対して聞いてきた黒磯先輩はさらに
「その後、ぼっちだった貴女に私が『仲良くしましょうね』と手を差し伸べたら、貴女はあろう事か私に対して『別に、馴れ合いがしたくてこの高校に入学した訳じゃ無いから金輪際、私に関わってこないで頂戴』って冷たい目と声で言って来たのよ!!」
黒磯先輩は怒りながら葵先輩に対して、右手の人差し指を指しながら言う。
「「「「「「…………」」」」」」
それを聞いた葵先輩以外の私達は絶句し、当の葵先輩はと言うと
「・・・・・ごめんなさい黒磯さん」
申し訳無さそうな顔をしながら謝った後、さらに話を続ける
「確かに、貴女の言う通り当時の私は周囲に対して冷たい態度を取っていたわ、それにあの頃の私は話しかけてくる人達がただひたすら煩わしくて、相手の事を考えずに酷い事を言っていたのも事実よ………でもね、私はその事を謝るつもりは毛頭無いわ」
葵先輩はきっぱりと言い切る。
それを聞いた私達一同は思わず
「「「「「えっ?!!」」」」」
と驚き、黒磯先輩は
「はっ?」
と、頭の上に疑問符を浮かべていた。
やがて、葵先輩の話を理解した黒磯先輩はみるみる顔を赤くしていき
「どうゆう事よ?!意味が分から無いんだけど?!最初は謝ってたじゃないのよ!!」
廊下まで聞こえる程の声量で怒鳴る憤怒の表情の黒磯先輩に対して冷め切った様な表情をしている葵先輩が質問に答えた。
「勘違いしないで頂戴。さっき謝ったのは、私の言葉が今でも貴女の事を傷つけているから謝っただけで、当時の事を謝る気が無いって意味よ!」
「なんで謝る気が無いのよ!」
「当たり前でしょ。だって、当時の事を謝るって事はそれまで私が生きてきた人生を自ら間違ってましたって認める事になる訳でしょ。でも、私は私の人生が間違っていたとは思わないし、否定する気も無いわよ。それに、例え当時の私がどんなに最悪な人間だったとしても、それだって私なんだからと、胸を張って言ってやるわよ!!」
葵先輩は胸を張りながら堂々とした態度で言い放つ!!
「「「「「「・・・・」」」」」」
私達が黙って聞いていると、葵先輩が先程とは打って変わって
「まぁ本音を言えば、私の事を他人にとやかく言われたく無いってのもあるけど、何よりもそんなどうしようもない私の事を肯定してくれたあの人に申し訳無いからね」
と言って、顔を赤くしながら笑みを見せる葵先輩に対して、黒磯先輩はと言うと……
「ふーん、そう。それが貴女の答えなのね!そっちがそのつもりなら私の方も考えがあるわ!」
黒磯先輩は葵先輩を睨みながら告げる。
すると葵先輩は腕を組みながら
「ふふふ、貴女程度が私にどうするつもりなのかしら?参考がてらに教えてくれないかしら?」
と、高圧的な態度で挑発をする。
すると黒磯先輩は
「貴女のその余裕がいつまで続くか見ものね!せいぜい、そうやって玉座に踏ん反り返っていればいいわ!貴女が私に負けた時の顔を見るのが今から楽しみね!」
と言って笑みを浮かべる黒磯先輩に対して、葵先輩はいつもと変わらない表情で話す。
「そう。それじゃあ期待しない程度に待ってるわね!」
そう言って二人は数秒睨みあった後
「「・・・・ふん!!」」
「帰るわよ隣人君!!」
「行くわよ木村さん!」
と、お互いに鼻を鳴らしながら、それぞれ別のドアから会議室を出て行く。
私と影浦君は一瞬呆けた後
「えっ?!ちょっと、待って下さいよ奈緒さん!!」
「はい!今行きます!」
すぐに自分の推薦人の後を追って、会議室を後にした。
*******
会議室を出だ後、私は葵先輩に質問をする。
「あのう、葵先輩!一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何かしら?私で答えられる事ならいいけど?」
「去年までの葵先輩がそ、その……冷たくて酷い性格の人って、本当なんですか?」
私の失礼な質問に対して葵先輩は笑みを浮かべながらそう
「ふふふ。そうよ、黒磯さんが言ってた通り、1年の頃は本当に酷いものだったわ!今でこそ、こうして木村さんや芽依ちゃん達と普通に話しているけど、当時の私は誰かと話すって行為に嫌悪すら覚えていた位だったしね。本当、我ながらそんなんでよく生徒会長選挙に勝てたと思うわ!」
そう言って葵先輩は両手を組みながら首を何度か縦に振る。
「今の葵先輩を見ると、全く考えられないですね」
私がそう言うと葵先輩が
「もしかして幻滅した?」
と聞いてきたので、私は首を横に振りながら
「そんな事ありません!たしかに私は、当時の葵先輩の事を直接見た訳ではありませんし、ましては黒磯先輩のように被害にあった訳ではありませんから今の葵先輩しか知りませんしが、それでも私は葵先輩の事を尊敬します!」
私がそう言うと葵先輩は少し微笑みながら
「そう。……ちなみに、理由を聞いても良いかしら?」
と聞いて来たので、私は葵先輩の過去を聞いている時、ずっと思っていた事を言う。
「だって、昔の事を話す葵先輩の表情がどこか、辛そうでしたから……」
「?!!」
私が理由を話すと葵先輩は驚いた表情をした後、どこか腑に落ちた表情をしながら口を開く
「流石はキム兄の従妹ね。なるべく表情には出さないようにしていたけど、まさかバレちゃうなんて恐れ入ったわ」
「それではやっぱり……」
「ええ、木村さんの言った通りよ。口ではあんなに偉そうな事を言っても、やっぱり私は昔の自分の事が嫌いなんでしょうね。本当、情けないでしょ?」
と、葵先輩は取り繕った笑みを浮かべていた。どう見ても痩せ我慢している葵先輩を見て、私はある人の事を思い出して重ねていた。
「えーと、私が思うにですけど、葵先輩は多分昔の自分の事が嫌いなのでは無くて、昔の自分に戻るのが怖いのでは無いですか?」
「えっ?!!」
私の話を聞いて、葵先輩は困惑した表情をしていた。
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