抑えきれない感情
俺が心の中で巡る嫌な感情を必死に抑え込んでいると、俺に対して天音さんが大声を上げて
「そんな事ない!キョー君はいつもわたしを守ってくれた。あの時だってわたしのために謹慎になって、それにわたし、謹慎中に携帯が使えないって事を知らなくて、それでついあんな言葉を・・・」
天音さんは、止まっていた涙を再び流しながら話す。
俺はその姿を見てあの時の事を思い出す。
そして、抑えていた本音が出そうになった。
(やめてくれ、頼むからもう何も言わないでくれ!)
声に出そうになったけど、俺はなんとか飲み込んで、平気な素振りをして
「もう良いですよ、これ以上は何を話したって俺の罪が消える事は無いし、罰が許される事は無いですから!ささ、お帰りください。俺たちはこの後3人でアトラクション巡りを続行するんですから」
天音さんと話すのに耐えかねた俺は、立ち上がって準備をする。
すると天音さんがさらに涙を流しながら俺の方へと駆け寄り、俺の腕を掴みながら
「なんでそんな冷たいの?!前は楓ちゃんって言ってくれてたじゃない!わたしずっと謝りたかった。あの日、キョー君を傷つけた事を謝りたかったの!あの後すぐに何度かキョー君の家に行ったけど結局会えなかった。
近所の人に聞いたら、キョー君がずっと引きこもってるって聞いて、でも携帯は繋がらないしメールも送れなくて、大学生になってからもう一度行って見ても、今度は他県で一人暮らしをしてるって聞いて、もう会えないと思っていけど、会えるなんてわたし奇跡だと思ったの!」
天音さんの言葉に対して、ついに耐えきれなくなった俺は必死にしがみつく天音さんの腕を振り解き、怒声をあげる。
「うるさい!黙って聞いていれば調子のいい事ばかり言ってきて、なんなんだよ本当に!
もう勘弁してくれよ、今更謝ったってどうなるわけじゃ無いんだよ!!」
俺が思いの丈を伝えると、天音さんは俺の腕にしがみつき
「そんな事言わないで、お願いキョー君」
と言ってくる。
俺はそんな天音さんを何度も振り解くが、何回も俺の腕にしがみつく天音さんに対してついに
「そのキョー君ってのもやめてくれ!俺と天音さんは中3のあの時に終わったんだよ!あの日、君が俺に言った言葉は今でも俺の心に突き刺さってる。もうあの頃には戻れないんだよ!」
俺がそう言って衝動的に天音さんを叩こうとすると南ちゃんが俺の手を止めて
「いい加減にしなさい!」
と怒鳴りながら南ちゃんが叫んだ
「さっきから聞いていればうだうだと、それでも君は男かっ!男なら泣いている女の子くらい許してやるもんでしょうが!」
俺は南ちゃんが言っている言葉の意味がよく分からなかった。
なんでこの人は何も知らないくせに、俺にそんな事が言えるのか?
いくら南ちゃんだとしても俺は許せなかった。
そして俺は南ちゃんに対して強く怒鳴った。
「南ちゃんに何がわかるんだよ!あの時の俺の絶望がわかるかよ!1番大切な子に裏切られ、1人で孤独と耐えながら過ごしていた俺の、俺の何が分かるんだよ!」
すると南ちゃんは冷静な声で
「知らないわよそんなもの!別にいいじゃない、結果的に今こうしてまた会えて謝って貰ってるんだからそれで!」
と言ってきた。
対して俺は泣きながらその場で膝をついて
「俺は、俺はあの後から女性に対して心を開けなくなったんですよ。勇気を出して告白してくれた優しい先輩の気持ちを俺は無下にしたんですよ!その時の俺の気持ちが分かりますか?心を開いているつもりでいたのに、心の奥底では拒絶しているんですよ!本当ならもっといい方法があったかもしれないのに俺の心は1ミリも動かなかったんです。それどころか、告白の後から俺は彼女を避け始めるようになったんです。たとえ大丈夫だと分かっていたとしてもまた同じ事になるのが怖いから!」
俺は思いの丈を全てぶちまけた。
「それなら今ここで、」
すると南ちゃんはなにかを言いかけるが俺は話を続けた。
「今日だって!今日だって本当は2人の気持ちに対して断るつもりでいたんです。1年間、一緒にいても俺の心は閉じたままなんですよ。1度として2人と過ごして心が開いた事は無いんです。だからもう、俺のことはほっといてください。お願いしますから」
そう言って俺は、荷物を持って部屋を出て走った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
補足
いじめ事件により楓ちゃんは山梨に引っ越し、山梨の有名な私立の中高一貫校に転校しました。そこで楓ちゃんは何人もの男子達から告白をされますが誰一人として付き合う事はありませんでした。
何故ならば、楓ちゃんは自分から拒絶したのにも関わらず、ずっと京の事が忘れられずにいたからです。
それはまるで呪いのように楓ちゃんを蝕んでいき、楓ちゃんは自分の京に対する行いに対して、ひどく自責の念にかられていきます。
現在は神奈川の大学へと進学して法学部で弁護士になる為に、法律の勉強をしています。今日は友人たちと遊びに来ていた所、偶然にも京を発見し、声をかけました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます