真実
俺が荷物を持って部屋をでると
「あっ!待ってよキム兄!」
東子ちゃんはそれを追って部屋を出る。
部屋には南ちゃんと天音さんの二人だけが残った。
そして一呼吸置いて、南ちゃんは天音さんの方を向き、話し始める。
「さて天音さん。今度は貴女の番ですよ」
南ちゃんからの突然の言葉に天音さんは
「わたしの番、ですか?」
と頭に疑問符を浮かべるが、この後の南ちゃんからの発言により、その態度が一変する
「はい。貴女はまだ、全部を話していませんよね?」
南ちゃんの質問に対して、天音さんは動揺した。
「ど、どうして貴女は、そう思ったんですか?」
天音さんの問いに対して南ちゃんは軽く笑みを浮かべながら
「簡単よ。木村君が謹慎中の間に一体貴女に何があったのかを、詳しく私達に話してはくれなかったからね!それに、どうにも腑に落ちない点が幾つかあったし、もしかしたら貴女は木村君に、重大な秘密を隠しているんじゃないかと思ったのよ」
南ちゃんは淡々と自分の推理を話していく。
すると天音さんは観念したかのように
「はい、おっしゃる通りです。そこまでお分かりになっているなんて驚嘆しました。流石、滅多に人を褒めなかったキョー君が、貴女の事を天才と言っていただけの事はありますね。葵さんのお察しの通りです。わたしはあの時の事を全て話してはいません。隠していてごめんなさい」
と、天音さんは腰を深く折って謝罪をした。
すると南ちゃんが
「それは私にじゃ無くて、木村君に伝えるべきでしょ?!」
南ちゃんは、先程までとは打って変わった口調で天音さんに言う。
「おっしゃる通りです。でもわたしは、何があってもこの事をキョー君に伝える気はありません!」
天音さんは覚悟を決めた顔をして話す。
すると南ちゃんは、天音さんの覚悟に気づき質問をする。
「失礼を承知で聞くけど、どうしてだか理由を聞いても良いかしら?」
南ちゃんの質問に対して天音さんは少し考えてから
「はい、葵さんなら構いません。でも約束して下さい。絶対にキョー君には話さないって!」
「いいわよ。約束するわ!絶対に木村君には話さないわ!」
南ちゃんはこの前の大会の決勝の時と同じ、真剣な顔で約束をした。
南ちゃんを見て、信頼した天音さんは話し始める。
「ではお話しします。あの日、キョー君が先生達に連れてかれてから、わたしも先生から事情を聞かれました。わたしは自分の知っている事を全て話して解放された後、そのまま帰ろうと下駄箱に行くと門倉さんがわたしの事を待ち構えていました。わたしが怖くなって、その場で立ちすくんでいると門倉さんがわたしの肩を掴んで人気のない場所に連れて行ってこう言ったんです。
『ねぇ、天音さん。悪いんだけど木村と別れてくれない?貴女がいると木村が里奈に靡かないのよ』
当然わたしは、「嫌です」と言ったんですが、門倉さんはわたしの襟を掴んでさらにこう言ったんです。
『もし、あんたが別れないなら今度は木村の事をいじめてやるわよ!アイツ精神的は脆そうだし、すぐに根を上げるでしょうね』
それを聞いてわたしは思わず「お願いやめて!わたしがキョー君の前からいなくなるからキョー君には手を出さないで!」と、言ってしまったんです。
それでわたし両親に、いじめられたから転校したいって言って、転校してキョー君と関わらないようにしようとしたんですけど、転校するまでの間もわたしに対するいじめは続いて行って、段々わたしは疲弊していきました。それであの日、別れの日にキョー君に酷いことを言ってしまったんです」
話終わると、天音さんは止まってたはずの涙が再び流れ落ちていた。
その後の事を話しずらそうにしていた天音さんに変わり、南ちゃんが話し始める。
「そしてその後、木村君は誰かが流した噂のせいで孤立して、引きこもりになったと。やっぱりそうだったのね、話を聞く限り門倉って子は初めから2人を狙っていたわけね!」
南ちゃんは何かに納得したような顔をしている。
天音さんも、同じような顔をしていた。
「はい、わたしもキョー君の話を聞いて驚きました。まさか約束を破って、門倉さんがそんな事をしていたなんて」
天音さんは唇を噛み、両手に拳を握って悔しそうな顔をしている。
そんな天音さんを見て、南ちゃんは
「でもね天音さん。この件については貴女にも問題はあるわよ!」
と言って、天音さんに対して指摘する。
思わぬ言葉に天音さんは
「えっ??」
訳がわからなそうな天音に南ちゃんはお説教を始める。
「まず天音さんは、木村君にちゃんと相談するべきだったわね。そうすればこんな事にならずに済んだでしょうし、転校なんてしなくても良かった筈よ!それに、今回の場合はそのせいで木村君は孤立してしまった訳だから災厄ね!あと、貴女は電話やメールをしたって言っていたけど、直接木村君の家に行って話すとか、手紙を書くとかすればよかったと思うわよ」
南ちゃんからのお説教に対して、終始天音さんは頷く事しかできず、反論どころか一言も喋れなかった。
当たり前だ。
結果的に見て、天音さんが行った全ての行動が、裏目に出ていたのだから反論の余地すら無い。
天音さんは悔しさを滲み出しながら
「葵さんのおっしゃる通りです。わたしは自分で解決しようとして、キョー君にとって一生治らないかも知れない傷を付けてしまいました」
と、言いながら両手で顔を押さえる。
すると南ちゃんが
「さて、貴女はこの後どうするの?」
と聞くと、天音さんは寂しそうに
「キョー君はわたしに会いたくは無いでしょうし、これ以上キョー君に迷惑は掛けたくありませんので友達と合流して帰ります」
と言う。すると南ちゃんが懐から一枚の紙を出して天音さんに渡す。
「そう、なら落ち着いたらここにおいで。後これは私の携帯番号ね」
紙には葵さんの連絡先が書かれていた。
「はいありがとうございます。必ずお伺いします」
そう言って天音は帰っていった。
帰るのを確認した南ちゃんはため息をつきながら
「ふう、それにしても黒羽さんが思っていたよりもっと根深いわね!それに木村君が、たとえ真実を知ったとしても恐らく変わらないでしょうし・・・でもまぁこのままだと私と東子は振られていたからそこは感謝しときましょうか」
南ちゃんは誰もいなくなってしまった部屋で独り言を呟く。
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