罪
次の日、久しぶりに楓ちゃんと登校した。
楓ちゃんはずっと嬉しそうに俺の腕に自分の腕を絡んで離さなかったので恥ずかしかったけど、それでも楓ちゃんの笑顔をみると別にいいかと思ってしまった。
下駄箱に到着して自分の上履きを履き、楓ちゃんを待っていると
「痛!」
と楓ちゃんが指を押さえながら立ちすくんでいた。
俺は楓ちゃんの方へといき、指をみると血が出ていたので、すぐに上履きを確認する。
すると・・・上履きの中に画鋲が敷き詰められていた。
「だ、大丈夫楓ちゃん!?」
「うん、ちょっと痛かっただけだよ」
「早く職員室に行こう。これは酷すぎるよ」
「うん」
俺と楓ちゃんは職員室に行き上履きの事を報告すると教室へと向かう。
すると楓ちゃんの机に人だかりができていたので、嫌な予感がした俺は急いで人混みをかき分けて机へ行く。
そこには、落書きだらけの机とバラバラに刻まれた楓ちゃんの教科書やノートが散乱していた。
「な!」
「ど、どうして・・・イヤー!!」
それを見た俺は唖然とし、楓ちゃんは泣きながら膝をついた。
楓ちゃんを抱きながら、俺はすぐに周りを見渡した。
父さんから教えてもらった犯人を見つける方法の一つに、野次馬の中で笑っていたりしているやつを探すと言うのを教えてもらっていた。
実際、放火犯などは火災よりも野次馬などの反応を見て楽しむために現場の近くにいる事が多いそうだ。
俺は周りを見渡して笑っている女子達を発見した。
その中に、昨日俺が振った門倉里奈がいた。
「かどくらー!お前かー!!!」
その瞬間、俺の理性は完全に消え、ただ楓ちゃんを、大好きな人を泣かせたやつに対する怒りが支配していた。
俺は門倉の元に向かい思いっきり胸ぐらを掴もうとすると騒ぎを聞きつけた教師が数人、俺を取り押さえた。
「はなせ、はなせよ!コイツが、コイツらが!楓ちゃんを!!!」
必死に抵抗する俺だが流石に大の大人、数人がかりで押さえられては動く事ができなかった。
俺はひたすら門倉を睨むが取り巻き達は怯えていても、当の本人は笑ってこちらを見ている。
結局、俺はそのまま職員室へと連行され数人の教師から事情を聞かれる。
俺は昨日のことを含めて、包み隠さず全てを話した。
その後連絡を受けた母さんが来て、俺はそのまま連れて行かれた。
家に戻ると父さんも帰ってきていて、出会って早々、いきなり顔を殴られ思いっきり後ろに倒れたが俺は父さんと目を逸らさなかった。
それに、父さんが俺を殴った理由も分かっている。俺が感情に身を任せて、先の事を考えていなかったらだ。
もし俺が門倉に対して暴力を振っていれば、警察沙汰となり、間違いなく俺の立場は悪くなる一方だった。そうなれば、いくら俺が弁明しても教室陣は聞く耳すら持たないだろう。それが分かっているから父さんは、俺を殴ったんだ。
父さんは倒れた俺を立たせると今回の事情について話すよう言ってきた。
父さんからは今まで感じた事のないような圧があった。きっと犯罪者を取り調べするときもこんな感じなのだろう。
俺は教師達に話したように全てを話した。
隣で聞いていた母さんは怒りを露わにしていたが、父さんは無表情のままただ一言
「よくやった。さすが俺の息子だ!」
と言って俺の頭に手を置いて褒めてくれた。
自然と涙がこぼれてくる。
何度も何度も、流れる涙を止める事ができず俺はしばらく泣いていた。
お昼過ぎに学校から連絡があった。
その内容を聞いて俺は絶望した。
まず俺には謹慎1週間、そして楓ちゃんの件に関しては結局、門倉の関与が立証されなかった為、有耶無耶になった。
「ふざけるな!」
俺は何度も床に拳を叩きながら泣いた。
そんな俺の拳を父さんが掴んで離さない。
そして、俺の顔を見て父さんが
「あとは俺に任せろ!」
と一言だけ言って自分の部屋へと向かった。
俺は自分の部屋に行き楓ちゃんにメールを送る。どうやら楓ちゃんの方も今日は早退したそうだ。
本来なら謹慎中はメールや電話は禁止だが、今日だけは母さんに頼んで許してもらう。
それから俺は、自分の部屋でずっと楓ちゃんの事ばかり考えていた。
そして1週間が立ち、俺は学校へと向かう。
携帯は充電が切れていて使えなかったので俺は家に置いてきた。
充電してから登校するよりも、楓ちゃんに会う方が大事だからだ。
学校に着くと、まず職員室に行き、担任から色々と注意を受けてから教室へと向かう。するとクラスメイトからの視線が気になった。
(まぁ、謹慎したやつに対してならこんなもんだよな)
と思いながら自分の席に向かい座る。そして楓ちゃんの机の方に視線を移すとそこにはあるはずの机がなくなっていた。
それだけじゃない!楓ちゃんのロッカーや、ネームプレートまで消えていたのだ。
俺は急いで職員室に行き、担任に確認する。
「すみません、楓ちゃん、天音さんはどうしたんですか?」
「なんだ、聞いてないのか?天音は昨日で転校したぞ!確か今日引っ越すと言っていたな」
その瞬間俺は下駄箱へと走り、靴を履き替えて楓ちゃんの家へと向かう。
楓ちゃんの家に着くと、目の前には車に乗り込もうとする楓ちゃんを見つけた。
俺は大声で
「楓ちゃん!」
と叫び走る。楓ちゃんの方も車に乗り込むのをやめ、俺の方へと歩いてくる。
そして
『パシ!!』
楓ちゃんがいきなり俺の頬を叩く。
「な・ん・で・?!」
混乱している俺を無視して楓ちゃんは泣きながら普段では考えられないような声色で
「嘘つき!わたしを守ってくれるって約束したのに!なんで守ってくれなかったの!」
「えっ?」
「キョーくんが来なくなってからも上履きを隠されたり、水をかけられた事もあったんだよ!!だからわたし、辛くて、辛くて、何度も電話やメールをしたのになんで返信してくれなかったの!
この裏切り者!!貴方のせいでわたしはいじめられたのよ!もう2度と顔も見たくない!今すぐわたしの前から消えてよ!」
「か、楓ちゃん・・・」
「サヨナラ」
楓ちゃんはそう言って、車に乗りどこかへと行ってしまった。
俺はその場に膝をつき泣いた。
これが俺の罪
この日、俺はずっと好きだった人を傷つけそして拒絶された。
だが地獄はまだ終わらなかった。
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補足
京にとって楓との約束は、どんな事よりも優先されるべき事であり、絶対に守るべき事と心の深くに刻み込まれていました。
しかしその約束を破ってしまった事により、京の支えであった楓がいなくなり、京の心は徐々に壊れていきます。
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