地獄と救い
楓ちゃんに拒絶された翌日、俺が学校へと行くと、昨日と教室の空気がおかしい事に気づいた。
昨日のように問題を起こした俺の事を物珍しく見る視線では無く、まるで俺の事を異物の様な視線で見てくるクラスメイトたち、そして部活でも後輩達からも同じ視線を向けられた。
仲の良かった奴らはもちろん、したってくれていた後輩達でさえ、俺の事を避けている。
俺は何故そうなったのかを1番信頼していた副部長に聞いた。すると、とんでもない事がわかった。
なんでも俺が謹慎している間に、学校中にとある噂が流れたそうだ。
その噂とは、俺が楓ちゃんに対して『彼女の様に振る舞えと強制させた』や『振られた逆恨みで門倉に暴力を振ろうとした』などだ。
これらの噂は、3年生から流れたものだそうで俺は誰が流したがすぐにわかった。
当然俺は弁明をしようとしたが、すでに噂は学校中に流れていてもう取り返しがつかなかった。
なんとか弁明をしようとしていく中で、次第に俺は疲弊していった。
そしてついに、学校へ行きたくなくなり部屋に閉じこもる様なった。
この時、俺にとって楓ちゃんがどれだけ大切な存在なのかを改めて認識した。
楓ちゃんは、俺にとって唯一の支えであり、俺が道を間違えないようにしてくれていた道標のような人だったのだ。
そんな大切な人を失い、俺の心は壊れた。
1ヶ月ほど引きこもり生活をしていると、母さんがとある事を教えてくれた。
それは俺が引きこもった後、父さんが学校に乗り込んで今回の件の再調査をするよう話したそうだ。
母さん曰く、話し合いと言うよりも父さんが一方的に話したらしい。
だが、この件を終わらせたい学校側が中々再調査をしないそうだ。
後からわかった事だが、門倉の親はPTA会長を務めているらしく、楓ちゃんの件も門倉の親にびびった教師陣が有耶無耶にした様だ。
それを聞いて俺は泣いていた。
何も出来ない無力な自分の不甲斐なさと、父さんが俺の為にそこまでしてくれていた事に対して素直に嬉しいと思ったからだ。
泣き終わると俺は、鍵のかかった扉のノブに手を置き開けようとするが、結局俺はこの扉を開ける事ができず、部屋の隅でひたすら
「ごめんなさい」
と、呟きながら泣いていた。
そんな生活が半年経った。
風の噂で、柔道部は予選1回戦で敗北したそうだが、俺にとってはもうどうでも良かった。
母さんが学校からそろそろ登校しないと卒業出来ないと連絡があったらしいがどうでもいい。
楓ちゃんが俺の前から消えてから、何もやる気が起きず俺はただ無気力に生きていた。
そんなある日、そろそろ生きる事に疲れてきた頃、突然の騒音と衝撃の後に部屋の扉が壊れた。
俺は壊れた扉の方を見ると、扉の後ろにはいつもより怒っている父さんがいた。
父さんの後ろには母さんがいるが、扉を壊すための道具が見当たらなかった。
よく見ると父さんの両手から血が流れている。
(えっ!?素手で壊したの?!)
俺が唖然としていると突然、父さんが俺の胸ぐらを掴んできて、俺を引き摺りながら車に乗せる。
俺は抵抗しようとするも、父さんの圧に負けて何も出来なかった。
しばらくすると車が止まり、俺は恐る恐る外を見る。
するとそこはどうやら道場の様だった。
「降りろ」
と、父さんからそう言われて言われるがまま
車から降りる。
すると父さんが
「こい!」
と胸ぐらを掴みまたしても引っ張られる。
中に入るとそこには道着を着た小学生から大人まで20人くらいの人がいた。
「ちょっと、父さんこれはどうゆこと!俺はもう」
「ふん!柔道はやらないか?それなら違う事をすればいいだろう!」
「なんで、そんな」
「今のお前のようなやつを俺は山ほど見て来た!そんな奴らは人生の目標が無いという理由ですぐに自分を見失い、道を踏み外す!だから俺は、自分の息子がそんなふうになってほしくは無いんだ!」
「そんなの、そんなの父さんの自己満足だろ!俺には関係ないじゃんか!」
「ああそうだ!だがな、俺は息子の事を1番に思わないような親になるくらいなら、俺はお前に嫌われてもいい!」
父さんはそう言って胸を張る。
俺は感情が赴くまま、父さんの両肩を掴みながら
「なら父さん!これから俺はどうしたら良いんだよ!?」
俺が聞くと、父さんは俺の頭に手を置いて
「ならば、お前の中に溜まった言葉を全て吐き出してみろ!そうすれば少しは楽になる筈だ!」
俺は父さんの言葉を聞いて、自分の胸に溜まっていた気持ちを吐き出した。
「と、父さん。お、俺は約束を守れなかった。楓ちゃんを守るって約束したのに、俺は、俺は何のために今まで柔道をやってきたのか分からなくなっていって、これから俺はどうしたらいいの?ねえ、父さん!」
俺が泣きながら父さんに縋っていると、父さんは俺の肩に手を置いて
「そうか。ならば、新しい事に挑戦してみろ!」
「新しい事?」
「ああ、ここの道場は俺も昔通っていた合気道の道場で、お前よりも強い人が大勢いる!
お前の無くなった目標の代わりになると思ったから連れてきたんだ」
「・・・ありがとう父さん。俺の為に」
「気にするな、さっきも言ったが俺はお前の為なら何だってするぞ!」
「うん、俺、もう一度頑張るよ父さん」
「それならまずは師範に挨拶だな!ここの師範は俺より怖いぞ!」
「頑張ります」
俺はその後、父さんより怖い師範に挨拶をして家に戻った。
出迎えてくれた母さんがいきなり、俺に抱きつきながら泣いていたが俺はずっと「ごめん」と言って謝ってばかりだった。
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正樹(京のお父さん)は忙しい仕事の傍、自分の人脈をフルに使って情報を集めて、後は証言だけだったのだがその前に教師陣たちが調査を打ち切ってしまった為、結局あと一歩のところで証拠を揃えることが出来ませんでした。
それから正樹は、一課の刑事でありながらも、イジメによる事件に対しては徹底的に捜査をする様になりました。
何故ならば、被害者の子が自分の息子のようになってほしく無いと言う、強い思いがあったからです。
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