断章 罪と罰
追憶
物心ついた時から俺には父さんとの思い出は無かった。
父さんは刑事で、ほとんど家には帰って来ず、母さんと一緒に食事をする事が多かった。
「ごめんね京、いつもお父さんがいなくて」
「ううん、お母さんがいてくれるから平気だよ」
それでも母さんがいたからまだ寂しくは無かった。けれど母さんが料理研究家として成功していき、仕事で家を開ける事が多くなってお手伝いさんを雇う様になり、俺はいつもひとりでご飯を食べたり、遊んだりしていた。
最初こそは耐えていたけど次第に俺はそれに耐えられなくなりある日、母さんと喧嘩をした。
「どうしてお父さんもお母さんも僕をひとりにするの?・・・寂しいよ。お願いだから僕をひとりにしないでよ!」
当時4歳だった俺は思いの丈を全て母さんにぶつけると初めて大泣きをした。
俺が寂しいと気づいた母さんは、俺を近所の保育園に預ける様になった。
保育園には俺と同じように両親とも仕事でひとりぼっちの同い年くらいの子供達がいて、自然と仲が良くなっていき、なんでも器用にこなせた俺は一躍人気者になった。
そんな中、俺は1人の女の子と特に仲良くなった。その子は最初、ひとりぼっちで遊んでいたのでほっとけなかった俺は声をかけた。
「ねぇ、一緒にあそぼ!」
すると、その子は
「いいの?君は人気者なのに、私はひとりぼっちだよ、大丈夫?」
と言ってきた。当時の俺はその子のことがなんだかほっとけなかったので、何度も声をかけた。そしてついに・・・
「本当に、私と遊んでくれるの?」
「もちろんだよ、僕は京って言うんだ。よろしくね」
「私は楓って言うの。よろしくねキョーくん」
俺と楓ちゃんは握手をして、一緒に遊んだ。
そのあと、楓ちゃんから色々と話を聞いた。楓ちゃんの本名は「天音楓」ちゃんと言って、うちの近所に住んでいる同い年の女の子で、俺と同じようにひとりぼっちだった。
俺は楓ちゃんと良く遊ぶようになった。
でも人気物だった俺を盗られたと勘違いした他の子から楓ちゃんがいじめられ、俺はそいつらと闘った。
けど、相手は3人、こっちは1人と、多勢に無勢だけあって俺はボコボコにされながら必死に楓ちゃんを守った。
泣きじゃくる楓ちゃんに気づいた先生が止めに入ってくれたお陰で幸い大怪我にはならなかったけど、それでも俺は悔しかった。
悔しくて泣きそうになる俺に楓ちゃんが
「ごめんなさいキョーくん、ごめんなさい、ごめんなさい」
と泣きながらひたすら謝り続けていた。
俺は泣きじゃくる楓ちゃんの頭に手を置いて
「よかった!楓ちゃんに怪我がなくて」
と精一杯の痩せ我慢をしながら笑顔でそう言って泣き止ませる。泣き止んだ楓ちゃんが小指を出して
「ねぇキョーくんお願い、もうわたしのために怪我をしないって約束して・・・」
そう言ってきた楓ちゃんに俺は小指を出して
「約束するよ。でも俺は何度でも楓ちゃんの事を守るからね」
と2人で指切りをした。
その夜、帰ってきていた父さんに
「お父さん、俺強くなりたいんだ!だから、だから俺を強くして下さいお願いします」
と言ってお願いをした。
すると父さんは
「なんで強くなりたいんだ?」
と返してきたので俺は
「楓ちゃんを、大切な人を守れるようになりたい、いや、なる為に!」
と胸を張って答えた。すると父さんが
「そうか、なら明日、父さんの試合を見に来い!きっとお前に取っていい経験になるだろうからな!」
と笑いながら言った。
翌日
俺は母さんに連れられて、体育館にやってきた。
中では柔道の試合が至る所でやっていて、会場中が、とても賑やかだった。
そんな中、父さんの試合の番になると今まで1番の歓声が上がった。後から聞いた話だと、父さんはこの時、3連覇中で今回も優勝間違いなしと言われていたらしい。
「はじめ!」
ドン!
「そこまで、勝者木村!」
父さんは、相手選手を一方的に倒した。
それはまさに、大人と子供くらいの差があったと思う。
俺はそんな父さんに憧れた。
いや、正確には父さんの強さに憧れた。
そして、父さんの試合を見て俺は柔道に対して興味をもった。
柔道を習えば、父さんのように強くなれる。
そうすれば、楓ちゃんを守ることができるとそう思ったからだ。
帰ってから父さんに柔道をやりたいと言うと、道場に連れていってくれた。
それから俺は柔道にいっそうのめり込み、出場する大会では優勝や準優勝などを取れるようなった。
それと同時に、母さんがピアノをごり押してきたのでピアノも並行して習うようになった。
今思えば、柔道やってるのに、指が大切なピアノをやって良かったのか?と思う。
そして、保育園で楓ちゃんと遊んでいると、またしても奴らは、楓ちゃんをいじめるようになったので、俺はそいつらとまた喧嘩をした。
いくら相手の方が人数が多くても、俺に勝てるわけもなくすぐに決着はつき、そいつらは泣きながら逃げていった。
それを見て楓ちゃんは
「ありがとうキョーくん、でもわたしのせいでキョーくんがおこられかも」
と不安そうな顔をしながら言うので俺は
「大丈夫だよ楓ちゃん。それに楓ちゃんを守るって約束したでしょ」
と頭を撫でながら言う。すると
「うん、キョーくん大好き!」
と楓ちゃんは笑顔で、俺に抱きつきながらそう言った。
俺は楓ちゃんの笑顔を見て、柔道を習ってよかったと思ったのと、これからも楓ちゃんを守れるようにもっと強くなろうと、こころに硬く誓った。
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補足
京が見に行った大会は警察の大会なのだが、実はそこに葵道場に通う選手が出場していたので、師範と南ちゃんが会場に応援に来ていましたが、残念ながら京とは会いませんでした。
補足2
京に誘われた楓は最初、京の事が嫌いでした。自分は上手く周りと仲良く出来ないのに、京の周りには沢山の子が集まる。それだけで楓は京に対してひどく劣等感を持っていましたが、京の明るい笑顔と裏表のない性格から京の事が気になるようになりました。
そして京と遊ぶようになり、しだいに自分には京だけがいればいいと、そう思うようになっていきました。
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