困った時の黒羽様


翌朝


 いつもより早く起きた俺は、朝食の準備をしてから軽くシャワーを浴びる。ふと鏡を見ると、かなり顔色が悪いが特に倦怠感は無いのでその後、日和を起こしに行く。


 登校前に、日和には心配されたが問題ないと言って俺は大学へと向かった。


 いつも通りの、陰キャ姿の俺に関わる人物などいないので特に問題なく歩いていくと後ろから俺を呼ぶ声がする。


「センパーイ!センパーイ!」


凄い勢いで走ってくるそいつは俺の目の前で止まる。


「久しぶりですね先輩!顔色が悪いようですけど大丈夫ですか?」


「よお、黒羽。久しぶりって、この前会ったばかりじゃないか!それに体調の方は問題ないから安心しろ」


「ホントですか~?何か悩みがあるなら梓にドーンと任せて下さい!」


と言って自分の見事に平原の胸へと手を当てる。


「あっ!今先輩、失礼な事考えてませんでしたか?」


「そ、そんな事、ない、よ」


「片言になってますよ先輩!」


「悪かったよ黒羽。それじゃあ、お言葉に甘えて相談に乗って貰おうかな。講義が終わったら連絡するよ」


「分かりました。まってますね」


と言って黒羽は自分の講義へと向かった。


黒羽と別れた俺は講義室へと行き、いつもの席に座らず1番遠い後ろの席へと座る。


何故ならば・・・


しばらくして講師がやってくる。

いつもの様にキリッとした佇まいに黒髪をはためかせた南ちゃんだ。


(流石に昨日の今日で間近で会うのは無理だから)


 講義中はずっと黒板と資料の方を見て南ちゃんを見ない様にしているといつの間にか時間が過ぎ去り講義が終わった。


俺はRINEを開き黒羽にメールを送る。


【木村 講義が終わったから取り敢えず近くのカフェにでも行くか。】


【黒羽 了解です!因みに先輩の奢りですか?】


【木村 良いよ。相談に乗ってもらいたいしさ】


【黒羽 やったー!梓外にいるんで先に行ってますねー】


【木村 俺もすぐ行くよ】


俺は荷物を持って大学をでて徒歩7分の所にあるカフェへと急ぐ。


カフェに着くとすでに黒羽がいてこちらに手を振っている。


「悪い遅くなった!」


「大丈夫ですよ、梓も今来た所ですし。それより先輩は何食べます?」


「うーん、今日はパスタの気分なんだけどこの季節のグラタンも気になるんだよなー」


「あー分かります。梓もグラタンにしようとしてたんで!もし良かったら先輩、ワタシとシェアしませんか?」


「えっ!いいのか?」


「勿論ですよ!それじゃあ注文しますね!すいませーん!お願いしまーす!」

 

しばらくして俺には特製カルボナーラ、黒羽には季節のグラタンがやってきた。


「美味しそうですね先輩!」


「ああ、美味そうだ!」


「それじゃあ頂きまーす!」


「頂きます」


「うーん!おいし~い!このグラタン、中にアスパラと新じゃがいもが入っていて美味しです!」


「そうか、こっちもチーズとクリームが濃厚で美味いな!」


「ねぇ先輩、そっちも食べたいです」


「む、そうだったな、今取り皿を貰ってくるから」


「はい、ありがとうございます。でもできれば、その、食べさせて・・・いえ!なんでも無いです!」


「ん?ほらよって、なんか顔が赤いけどどうした?」


「ハァー、まぁ先輩じゃあしょうがないですよね。ありがとうございます先輩、それじゃあこっちのグラタンもどうぞ!」


「サンキュー!うん、こっちも美味いな」


「うーん、このカルボナーラも美味しいですね」


しばらくしてお互いが食後のコーヒーを頼んだ後


「それじゃあ先輩、何か相談があるんですよね?」


「相談と言うか、悩みと言うか」


「ほら、ほら、梓に言ってみてくださいよ!」


俺は南ちゃんたちの名前を出さずにある程度の事情を話した。


「うーん、それは先輩が悪いですね!」


「やっぱりそう思う?」


「ええ、どう見ても先輩が悪いです。特に、最後有耶無耶にして逃げた所が!」


「別に逃げた訳じゃ無いんだよ、ただどうすればいいか分からなかっただけで・・・」


「それが悪いんですよ先輩!そこではっきりと答えを出せとは言いませんが、ちゃんと話さないから面倒になるんです!特にこの妹はやばいですよ!」


「やばいって何が?」


「梓の予想では、この妹も先輩のことが好きです!しかも、この姉妹はお互いの気持ちを知っていて、どちらも譲るつもりがありません!おそらく今度は妹の方が何かしてきますよ!」


「マジで!?どこのsister warだよ!」


「なんで英語・・まぁいいや、で、先輩はどっちの子を選ぶんですか?」


「いや、前にも言ったけど、俺は別にそうゆう感情は無いんだよ!」


「それなら振っちゃえば良いんじゃ無いですか?」


「それが一番良いのは分かってるんだが、それで今の関係が壊れるのが多分怖いんだよ」


「ねぇ先輩、以前にも聞きましたが、本当になにがあったんですか?」


「すまない、それを黒羽には言えないんだ。分かってくれ・・・」


「いえ、大丈夫です。でもいつか、教えて下さいね」


「そ・そうだな・・うん、約束するよ」


「約束ですよ、先輩。それじゃあ梓は時間なので失礼しますね」


「そうか、ありがとな!」


「いえいえ、また何かあったら教えて下さいね先輩!」


「その時はまた頼む」


「あっ!最後に一言いいですか?」


「なんだ?」


「ちゃんと答えを出さないと、先輩だけじゃなくて他の2人も苦しむことになりますからね!」


「ああ、分かったよありがとう」


「それじゃあ!」


黒羽は荷物を持って先に店を出る。俺はその様子を見た後、もう一杯コーヒーを飲んでから店を出た。


店を出た時に、近くにあったショーウィンドウに映る俺の顔は朝に比べて晴れやかな顔をしていた。

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