黒羽梓は知りたい


俺と黒羽は、公園のベンチに座りながら缶のコーヒーを飲んでいた。

少しの静寂の後、黒羽が口を開く。


「ねぇ先輩」


「なんだ?」


「先輩、昔何かありましたか?」


「・・・なんでそう思ったんだ?」


「梓が連れて行かれそうになった時に、普段では考えられないような怒り方をしてましたし、さっきも変な事を言ってましたから」


「そうだな、あれは俺も流石にやり過ぎたと思ってるよ。でも後悔はしてない、もしあの時黒羽に何かあったら悔やんでも悔やみ切れないしな」


俺が真面目に話していると


「それってつまり、梓の事が大切だって事ですよね!もしかして梓の事が好きなんですか先輩!もちろん梓も満更ではないですからね!」


と黒羽は笑いながら茶化してくる。


「まったく、そう言う事を無闇に言うんじゃないぞ!俺じゃ無かったら勘違いする奴だっているだろうしな!」


「そんな事、梓だって分かってますよ!流石に・・・先輩以外にはそんな事言いませんよ」


黒羽は下を向きながら小声で喋っている


「えっ?悪い、最後の所聞こえなかったからもう一度言ってくれ」


「なんでもありません!」


と大声をあげる。


「そ、そうか。別にそんなに怒鳴らなくてもいいじゃねーかよ!」


「鈍感な先輩がいけないんですよ!はぁ、ホントに一体今まで何人の女の子をたらし込んできたのか・・・まぁ、梓もその一人なんですけどね」


「おーい、さっきからなに、ゴニョゴニョ言ってるんだ黒羽?」


「あっ!気にしないで下さい。ガールズトークですから!」


「いや、ガールズトークってお前しかいないだろ?」


「先輩、そんな事いちいち気にしていたら女の子の相手は務まりませんよ!」


黒羽は、呆れた様子でこちらを見てくる。


「はいはい。それで結局の所、黒羽は何が言いたいんだ?」


俺がそう聞くと、黒羽は真面目な顔をしてから


「それじゃあ先輩、真面目にお聞きしますけど、先輩はどうしていつも、梓と距離をとるんですか?」


と黒羽は聞いてきたので俺は答えた。


「別に距離をとってないと思うぞ!今だって、こうして並んで座ってるじゃんかよ!」


俺がベンチを叩きながら言うと、黒羽はため息混じりに反論してくる。


「はぁ、そうゆう、物理的な距離じゃ無くて、心の距離って言うかそんな感じの事ですよ!」


「なぁ黒羽、参考までに聞くが、何でそう思ったんだ?」


「えーだって先輩、梓がこれだけ踏み込んでいるのに、梓の事をちゃんと見てくれて無いんですもん!と言うよりも、見ないようにしているって感じですかね?」


黒羽は、先程よりも軽い口調で話すと俺はしばらく沈黙してから口を開く。


「・・・流石だな、伊達に自分で美女と言ってるだけはあるな。はぁ、俺の負けだよ」


「うふふ、この名探偵梓には隠し事は通用しませんって事ですよ!先輩」


黒羽は俺に向けて人差し指を指す。


うん、どこかの小さな探偵みたいだ。


「こら!人に向かって指を指すな!」


俺が注意をすると、黒羽はあっさりと指を下ろす。


「それで、何で先輩は距離をとっているんですか?」


「ああ、悪いがその理由を黒羽に言う事は出来ないが、そうだなヒントはくれてやるよ」


「えー、ちょっと不満ですが、仕方ありませんね!それでヒントって何ですか?」


「俺には昔、好きだった女の子がいたんだよ。でもその子は俺の・・・いやここまでにしようか」


「そこまで言ったら、最後まで教えてくださいよー!」


「ふん、あとは自分で考えなさい!」


「分かりました」


「それじゃあ、そろそろ俺は帰るから、黒羽も気をつけて帰れよ!」


「はい、先輩も気をつけて帰って下さいね!」



「ああ、それじゃあまたな!」


俺は黒羽に軽く手を振ってから、駅の方へ向かう。



マンションに帰ると、疲れていた俺はそのままベットにダイブして、今日の事を振り返る。


「はぁ、まさか黒羽のやつに気づかれるとは思わなかったけど、なんとか誤魔化せた、かな?今度からは気をつけるか。

あー!やっべ、日和にご飯作っとくの忘れてた!日和、絶対怒ってるよなぁ・・

そうだ!明日のご飯は、日和の大好きなチキン南蛮を作ってやろう!そうと決まれば、早く寝よ」


俺はそのまま眠りについたのだが、夢の中で日和がご飯を食べられず、めちゃくちゃ怒ってきた夢を見て、目が覚めた。


結局その夢は正夢になったのだが、それはまた別のお話・・・

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