氷室龍一の軌跡
氷室龍一と言う男
今回は氷室龍一の過去編です!
俺の名前は「氷室龍一」20歳
日本一のアイドルグループ[RIZIN]で、不動のセンターを勤めている。
最近ではソロ活動を始めてさらに人気になる事ができた。よくソロ活動は博打なんて言うこともあるが俺の場合は運が良かったとしか言えないだろう。
なんせ、ソロデビュー曲が当時動画サイトで人気が出始めた「助さん」と言うシンガーソングライターの新曲の中でも特に人気のある[signal]を提供してもらい大ヒット記録することができた。
当時「助さん」はいくつもの楽曲提供や作曲依頼などをすべて断り続けて、その素性を一切謎に包まれていた為、正直ダメ元の依頼だった。
俺も最初は断られ続け、何度もお願いしてようやく「直接会って話がしたい」とメールがきて俺は直ぐに会いに行った。
正直に言うとファーストコンタクトは最悪だった。
なんせ待ち合わせの場所(カラオケ)に行くとそこにいた「助さん」の姿がいわゆる陰キャと呼ばれる人間の格好だったのだ!
目元まで伸びた髪に、丸眼鏡とマスクそして帽子を被り服装はちぐはぐで全くオシャレでは無かった。
俺は恐る恐るその男に話しかける
「あのーすみませんが「助さん」ですか?」
すると男が頷く
「それで直接会って話しがしたいと聞いたんだけど」
「ええ、貴方に私のきょ、曲を渡す価値があるか確認したくて」
(何こいつ、俺のことを見定めようって事か?調子に乗りやがって!)
「えーと、それじゃあ最初の質問ですが貴方が音楽をやる理由を教えてください」
「・・・・・」
俺はすぐに答えることが出来なかった。
何故なら俺がアイドルをやっているの理由がただ単純に親の言う通りにしているだけだからだ。
俺の両親は2人ともアーティストで俺はいわゆる二世タレントと言うやつだ!
ガキの頃からお前は将来アイドルになれとか歌手になれと言われ続け、親の敷いたレールを歩いて来た。
まぁ、元々歌は好きだったので今の現状が嫌と言うわけではない。
そんな俺の両親を紹介しよう!
俺の父親の名前は「氷室康二」
元人気ヴィジュアル系バンドのボーカルを務め当時の日本音楽業界を席巻した。解散した現在はソロアーティストとし日本だけでなくアメリカでも人気で今はアメリカに別邸を買ってそこに暮らしている。
母親の名は「氷室優子」
元大人気アイドルで当時日本人なら誰も知っていると言われる程の人気があり、コンサートの観客動員数で日本最多記録を持っているらしく、今でも偶にテレビなんかで特集が組まれることもあるぐらいだ。今は親父と一緒にアメリカに住んでいる。
なぁ!こんな親に育てられたらどう考えても歌手を目指すだろ普通!
困った俺は、質問に嘘を混ぜて答えた。
「それは子供頃から両親の歌を聞いて来たから自然とかな」
俺が答えると男は俺の顔をじっくり見ながら
「うーん、出来れば本音を聞きたいんだけど良いかな?」
「!!」
(こいつ俺が嘘を混ぜたこと分かったのか?それとも俺のこと知ってやがるのか)
「もう一度、次は別の質問をします。もし、今度嘘を言ったらこの話は無かったことにさせて頂きますので」
「え!ちょっと待って・」
「それでは質問です。貴方が歌を歌う時、どんな事を考えていますか?」
「・・・・」
俺は何も言えなかった。何故ならさっきの質問のように理由があるわけでは良い。
俺は歌を歌う時に何を考えているのかなんて分からなかったからだ。
5分ほど考えていると男が立ち上がって
「もういいでしょう。貴方のことは分かりました。正直人気アイドルならと思ったんですがね、期待外れですよ」
男がそう言って帰ろうとする。すると俺はテーブルを思いっきり叩きながら
「うるせー!てめーに何がわかんだよ!俺だって自分がどうすればいいかなんてわかんねーんだよ!」
そう言うと俺は、立ち上がり男の胸ぐらを掴んでいた。
しばらく硬直状態が続くと、男は口を開いて
「ならばなんで貴方は歌うんですか?!親の命令だからですか?それともそれしか道が無かったからですか?!」
「!!!!」
男の話を聞いて俺は掴んでいた胸ぐらを離して座る。この男はさっきまでの会話で俺の心情を全て暴いたのだもう俺からは何も言えなかった。
すると男は対面に座り話し出す
「俺は別に貴方の事を否定している訳では無いんですよ。でも何も目標が無い、歌に心を、感情を乗せることができない人間に俺の歌は歌って欲しく無い!それに今のままだと貴方はもうじき潰れてしまうでしょうしね」
「なんでそんな事がお前に分かるんだよ?」
「これはオフレコの話だけど今まで数人、貴方と同じように面接をしているんですよ。まぁ、皆ことごとく上っ面だけの解答や嘘や誤魔化しばかりで正直うんざりしていたんですよ。貴方には期待してたんですけどね、本当に残念ですよ」
男の話を聞いて俺は自分が恥ずかしくなった!
俺は自分が他の人よりも優れていると思っていた。恵まれた容姿に、才能、そして有名人の両親。どれをとっても他よりも優秀だと。でも蓋を開けてみれば俺も、俺が下に見ていた奴らと一緒だと思い知らされる。
「それなら俺は、俺はどうしたらいいんだよ!?」
自然と涙を流しながら聞く。すると男は
「貴方の、氷室龍一の本音を話してみて下さい。今思っていること、感じでいること、そして今まで思ったことなんでもいいです!嬉しかったことや悲しかったこと愚痴でも何でも」
「あ、あ、お、俺は、俺は本当はアイドルになんてなりたくは無かった!友達と遊んで普通の生活を普通の人生を送りたかった!でも親が勝手にオーディションを受けさせて、合格してそのまま俺の意思は無視で進んでいって、ただ漠然と歌い続けてきて、それで日本一のアイドルグループとか言われてもう戻れなくて・・・うう・・・」
涙が止まらなくなり、人前でこんなに泣いたのは久しぶりだった!
初めて、[RIZIN]が紅白決まった時もCDがミリオンセラーになった時もあんまり感情が揺れなかった!でも今は違った!今まで溜まりに溜まっていた感情が吐きでてくる。
すると男が俺の肩を掴んで
「なら貴方は今までで、一度も歌って楽しかったことはなかったんですか?苦しかったこと悲しかったことは無かったんですか?!」
「そ、それは・・・あっ!」
記憶を思い出すと思い当たる事があった。
始めてグループでテレビに出た日、デビュー曲を歌った時だ!あの時は俺を含めメンバー全員がどこかぎこちなく緊張して満足のいくパフォーマンスが出来なかった。でも何故か悔しさよりも嬉しかったと覚えている。
「どうやら思い当たる節がある様ですねその感情を忘れない事です。貴方が歌う俺の歌で半端な事は許さないですからね!」
「え?今俺の歌って、えっ!どうゆう事?」
「だから貴方に歌を提供してあげるって言ってるんですよ!」
「なんで?俺は結局答えられなかったのに」
「そんなの、その涙を見れば充分だよ!だからその涙に誓ってくれますか?絶対に最高の歌を歌うって!」
「はい!俺の全てをかけて必ず最高の歌にして見せる!」
「それならこれを渡しておくから」
男は茶封筒を渡してくる。俺はそれを受け取り中を確認する。
「これは[signal]の楽譜に、こっちは音源まである」
「君はきっといい歌を歌ってくれると信じているかね!」
「あのその君ってやめてくれる。出来ればさ下の名前にしてくれないか?」
「はぁー、わかったよそれならリューって呼ぶよ!」
「ありがとう、それでお前はなんて言うんだ?」
「ああ、俺の名前は「木村京」だ!よろしくな。でも俺が「助さん」って事は秘密だから取り敢えずキョーとでも呼んでくれ」
「分かったよキョー!これからよろしく頼む・・・あと連絡先交換しない?」
「別にいいよー」
こうして俺は恐らく生涯ただ1人の大親友と連絡先を交換した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます