決勝戦
もうじき決勝戦が始まる。
試合は男女とも同時に始まるのでどちらを観る?と聞かれたら迷わず南ちゃんの方だと言うだろう。実際、他のみんなも南ちゃんの方を観るそうだ。
アナウンスが流れ、選手が入場してくる。
男子は師範とオリンピックの候補にも選ばれた選手。女子は南ちゃんと去年の国体で優勝した選手が相手だ。
いよいよ決勝が始まろうとしている。
横に座っている東子ちゃんも緊張しているのか顔をこわばらせている。
静寂が会場を包む中、審判の合図が響く。
「はじめっ!!」
試合開始と同時に南ちゃんは相手との距離を詰めていく。
そのまま相手の袖を掴み南ちゃん十八番の〔葵流 水円〕をかけようとする。
南ちゃんが技をかけ切る瞬間「決まった!」と思わず言葉が出でしまった。
誰もが南ちゃんの勝利を確信した瞬間それは起こった。
パッン!
「・・・・えっ?」
俺はもちろん東子ちゃんも目の前のに起こった現象についていけずにいた。
そこには辛うじて倒れまいと、膝をついた南ちゃんがいた。
衝撃的だった。
相手の選手は南ちゃんの水円に対して返し技を使ったのだ。それも俺でも考えたこの無いようなやり方で・・・
審判の「待て」の合図で開始位置に戻る南ちゃんの顔を見ると、動揺しているのがすぐにわかった。
試合が再開されると今度は相手が攻めてくる。
防戦一方の南ちゃんはついに指導をくらってしまった。このままだと時間切れで負けになってしまう。
残り時間は後20秒。
焦る南ちゃんに俺は会場中に響く声で応援する。
「がんばれー!!南ちゃーん!!」
☆☆☆☆☆☆☆
いよいよ決勝が始まる。
これに勝てば木村君とデートができる。
私は昨日からそれしか考えられずにいたけど試合が始まるとそちらに集中した。
初戦の相手は思っていたよりも弱かったと思ってしまった。
と言うより大会にほとんど出たこの無い私が周囲との実力を比べる相手が師範である父やいつも試合をする木村君位しかいないのでほとんど参考にならなかったようだ。
なら、木村君って結構強いんじゃない?と考えたが、私に一度も勝てない彼が全国レベルなわけないよね。と勝手に納得した。
その後、準決勝までは正直余裕で勝てた。
と言っても多少危ない場面もあったが、今日は凄く集中出来ていると自分でも分かる。
いつもはどこかで集中力が切れてしまう場面があるけど今日に限っては全く感じられない。
それどころか今までで一番調子がいい。
これも木村君の応援のおかげかもしれないなんて思ってしまう。
ついに、決勝戦が始まる。
相手は今まで戦ってきた中で間違いなく最強の相手だとわかる。
私は先手必勝とばかりに距離を詰めて水円を掛ける。今日、誰もこの技を破れた者はいない。私は勝利を確信した瞬間だった。
何故か私は膝をついていた。
なぜなのか自分でも分からなかったけど、とにかく私の技は返されたのだ。
私は動揺してしまった。
頭の中が真っ白になり耳鳴りがひどくうるさい。心臓の鼓動が早くなり集中力が切れかける。
それでも辛うじて相手の技を捌く位はできたがそれでも指導を喰らってしまった。
残り時間は後20秒。このままでは負けてしまう。
(嫌だ!嫌だ!嫌だ!負けたく無い!)
私は焦りながら必死に技をかけようとするが相手はそれをうまく躱す。もうダメだと思った時、聞き覚えのある声が響いた。
「がんばれー!!南ちゃーん!!」
聞いた瞬間私の視界が晴れ、落ち着きを取り戻すことができた。
残り時間は後10秒、最後の攻撃に全てをかけた。
距離を取っている相手に葵流の足運びの一つ〔葵流 花風〕を使い間合いを詰める。そして相手の両襟を持ち葵流奥義の一つで私ができる唯一の必殺技〔葵流奥義 落陽〕を使う。
ドッン!!
どうなったのかは分からない。落陽は技をかけるとお互いが倒れるよな形になるため、どうなったかは視ないと分からないのだ。
私は急いで立ち上がるすると審判の手は私の方に向けていた。
そして・・・
「それまで!勝者葵南!」
ワァァァーー!!!!
その瞬間、私の優勝が決まった。
「やった!!!」
私は思わず試合場で何度もジャンプをしてしまった。すると父さんがやってきて私に「おめでとう」と言ってくれた。
そう言えば父さんの試合はいつ終わったの?
と思ってしまったが気にしない、気にしない
私はそれより観客席にいる1人の男性に向けて手を振り、そして拳を上げる。
ありがとう木村君
世界で1番・・・・大好きな人
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます