試合開始


少し長めです。



 暴走している東子ちゃんを他所に、他の人たちと世間話をしていると、開会を告げるアナウンスが流れた。


 そして、しばらくして開会式が始まった。まずは大会委員長の話があり、その後ルール説明がされる。


 この大会は打撃と蹴り、急所攻撃の禁止以外はOKのルールとなっていて選手のほとんどが柔道や合気道などでオリンピック候補や国体の選手といった見たことのある人が並んでいる。

 そんな中、前年度覇者の師範が優勝杯を返還して開会式は終了した。


 全部で8面ある会場で試合が始まり出し、ようやく南ちゃんの試合の番になる。俺は観客席から応援をした。


「ファイトー南ちゃん!」


こちらに気づいた南ちゃんは手を振って答えてくれた。


対戦相手は去年ベスト4に残った女性で気迫がここまで伝わってくる。


「両者前へ、はじめ!」


審判の合図と共に試合が始まった。すると


ドッン!


「そ、そこまで!」


 と、乾いた音が会場中に響き、審判が手を挙げて試合を終わらせる。


 わずか5秒の瞬殺、畳に寝ている相手選手を尻目に南ちゃんは元の位置に戻り挨拶をする。


その瞬間会場中がざわめく


 今までほとんど大会に出てこなかった南ちゃんはいくら師範の娘と言ってもほとんど無名に等しかった。むしろ東子ちゃんの方が大会とかに出でいたらしいので有名だそうだ。


 しばらく喧騒が続いたが師範が出てくると一気に静寂が訪れた。

師範はいつも以上のオーラを纏っていてどこぞの念能力者を彷彿とさせている。


「両者、はじめ!」


審判の合図と共に試合が始まった瞬間


ドバーン!


師範が相手の道着と掴んだ瞬間相手が宙に浮き、そのまま倒れる。


 この技は南ちゃんの十八番〔葵流 水円〕だ!南ちゃんもさっきの試合の時に同じ技を使って倒したが、威力が違いすぎる。


 さっきの南ちゃんの試合以上に何が起こったのか分からず会場中がシーンとしているが審判の合図と共に大歓声が起こった。


「あはは、勝てる気がしないなー」


俺がそう言うと東子ちゃんが


「キム兄には悪いけど、勝てるとか勝てないとかの次元じゃないと思うよ」


「だよねー。私も激しく同意だよ」


俺たちが話していると後ろから顔を出しながら話しに混じってくる女性がいた。


「えっ、新庄さん!いらっしゃっていたんですか?」


「久しぶりだね木村君。東子ちゃんも」


 この女性は新庄さんと言って今年から社会人になった門下生の1人だ。人当たりもよく、コミュ力お化けで実力もあり、教え方が上手く東子ちゃんとすごく仲がいいのだが最近は全然道場に顔を出してなかったので心配していた。


「ほんとですよ新庄さん!最近道場に来なくて私心配してたんですよー」


「あはは、ごめん、ごめん。ちょっと仕事が忙しくてさー」


「まぁそれなら仕方ないですけど」


東子ちゃんは少し寂しそうな顔をしている


「そんな顔しないで、ほらいいこ、いいこ」


新庄さんはそんな東子ちゃんの頭を撫でている。


「えへへ、許します・・・」


(うわー、チョロいな東子ちゃん)


そう思っているとスマホが震えた。


「誰からだろう?」


と俺はスマホを見ると画面には龍一と出ていた。


俺はすぐに人気のない所まで行き電話をかける。


『おっすーキョー!今どこにいんの?』


「いきなりかよお前、相変わらずだな」


『そんな事よりお前もここに来てんだろ、なあちょっと会おうぜ!』


「はっ?流石にまずいだろ!てか、大丈夫なのかよテレビは?」


『ああ、問題ねーよ。午前中の分は撮ったから後は午後の準決からになるんだわ』


「意外と楽なんだな?」


『まぁ、今回は専門家が来てるし、俺の感想よりそっちの解説の方がいいだろ』


「そうゆう事ね」


『で、どうだ?』


「うーん、昼頃になら良いけど」


『オッケー了解だ。その時になったら連絡してくれ』


「はいよ」


俺は電話を切って観客席へと戻り試合を観戦する。


 南ちゃんや師範の試合を見た後だと他の試合が物足りなく感じてしまうがそれでも会場の熱気は衰えることが無いまま南ちゃんの二回戦が始まった。


結果だけ言おう瞬殺だった!


相手も頑張った。なんせ20秒も、もったのだから!と思ってると師範の試合が始まり今度は5秒で終わってしまった。


本当にこの親子は容赦が無い!と言うより化け物レベルと言うべきかレベルが違いすぎて対戦相手に同情してしまう。


「俺、よくこんな人たちと試合してるよなー」


「ほんとだよキム兄。私だって南姉さんとはもう3年は試合して無いわよ」


「因みに師範とは?」


「・・・・多分5年以上」


「まぁ、気持ちも分かるよ」


「「はぁ・・・」」


2人してため息をついてしまった。

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