鈍感



 次の日の午後。

 大学が終わり帰ろうとすると、南ちゃんに呼び止められ道場に行くと約束をさせられてしまった。


(今日は曲を作りたかったのになー)


 マンションに帰り、俺は日和の為の夕食を作りいつもの様にバイクで道場へと向かう。


 道場に着くとすでに何人かの人がいて、その中には緑川さんと東子ちゃんの姿もあった。


「やあ2人ともこんばんは。元気かい?」


「こんばんは木村さん、元気ですよ」


 緑川さんは軽く腰を折って挨拶してきた。


(ああ、なんて礼儀正しくていい子なんだろう)


「何言ってるのキム兄、私はいつでも元気いっぱいよ!」


 逆に東子ちゃんは指でVサインを作っている


「あっそうですか、てか何でいんの? 君受験生だよね?」


「あー大丈夫だよキム兄、私もう行く大学決まってるから」


「へぇーどこ行くの? やっぱり日大? それとも一橋大学?」


「いや、音羽大学にしたから」


「えっいいの?! 確か東子ちゃんって、全国模試とかで一桁取るくらい頭が良いだろ?もっと上の大学も狙えたんじゃ?」


「いいの! だって一人暮らしとかめんどいしそれにキ・・兄・・会えなくなるし・・・」


 指をモジモジさせながら何故か顔を伏せて小さな声で喋る東子ちゃん


「え、なんて言ったの?」


 と聞き返すと


「うるさい! 鈍感!」


 と言って師範の方へと行ってしまった。


「なんだったんだ一体?」


 すると隣にいた緑川さんが


「うふふ、東子先輩にもあんな一面があったなんて驚きです」


 緑川さんが微笑みながら言う


「そうなの? 俺の場合は会って2回目からあんな調子だけど?」


「本当ですか? 東子先輩、学校ではあんなに喋りませんし、いつも近寄りがたい雰囲気を出してますから」


「うっそだー、全然想像出来ないんだけど」


「それは多分・・・いえ、何でもございません」


「えー、気になるな、そこではぐらかされると」


「東子先輩に直接聞いてください」


「それ絶対教えてくれないやつだよね!」


「さてどうでしょうか?」


「緑川さんて、意外と腹黒?」


「そんな事ないですよー」


 お互い探り合いをしていると


「おーい木村君!そろそろ試合しようよー」


 と南ちゃんからのお誘いがかかった。


「はぁー、行ってくるか」


「頑張ってください」 


「ああ」


 その後、俺は南ちゃんと5回試合をして全て一本負けをして終わった。


「は、は、は、今日も勝てなかっね木村君!」


「くそー、次は絶対に勝つ!」


「いくらでもかかって来なさい!」


 南ちゃんは手をくいくいさせながら煽ってくる。


「その手をくいくいさせるのやめてもらって良いですか、凄くムカつきますので」


「そう言うのは一度も勝ってから言いなさい!」


「いつか泣かす!」


 南ちゃんはドヤ顔で


「楽しみにしてるよー、木村君!」


「そのドヤ顔やめろー」


 結局終わりまで南ちゃんに煽られた俺はメンタルをひどくやられながらマンションに帰り明日の用意と炊飯器のセットをして眠りについた。

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