道場


 少し長めです


––––––––




 今日は大学が休みなので、部屋で楽曲制作を軽くしてから夕食の準備をしてサイトに来るDMを処理していると、スマホのRINEに通知が来た。


【葵南 :今日は道場に来るの?】


【木村 :元々行くつもりでしたので行きますよ!】


【葵南 :やったー!】



 時刻は17時15分


「道場が始まるのは6時からだし、ここからだと20分位はかかるから、そろそろ行くか」


 俺は道着を持ってマンションの駐輪場の方へと行き、愛車のCB400に乗り道場へと向かう。


 そう、以前話したリューとの共通の趣味とはバイクの事で、リューと一緒によくツーリングに行ったりもしている。


 凡そ20分程バイクを走らせ道場に到着すると、すでに何人かの人が道場にいたので、俺も更衣室に行き道着に着替える。



 ここで、俺が通っている道場について話をしよう。

 ここ葵道場は元々、葵流古武術の当主が代々師範を務めているとの事で、現当主は何と葵流20代目当主であるそうだ。


 そんな葵道場はなんと門下生の7割が女性であり、男は数人しかいない。これにはちゃんとした理由があり、葵流は元々女性の為の流派で柔術や合気道などの投げ技や関節などを主流としている。そのため、昔は宮中などの場所に務める女性がこぞって葵流を支持していたらしい。



 道着に着替えた俺が道場に入り準備運動をしていると、よく知った女性が後ろから俺の背中にダイブしてきた。


「きーむーらーくーん!!」


ドスッ!


「イッタ! ちょっと南ちゃん、いきなり何すんのさ!」


「へへーん、どうだ参ったか」


「何? 最近構ってなかったから欲求不満なのかな?」


「なっ! そんなわけないでしょっ! ほら早く試合するわよ!」


「ハイハイ分かったよ」


 俺は道場に来ると、必ず南ちゃんと試合をする。


 南ちゃんは葵流の師範代で、前にも言ったがまともに相手になるのが師範である父親と俺くらいしか居ないので、俺がいないと試合が出来ず退屈なのだそうだ。


 因みに俺は、今まで100回以上試合して一度も勝てたことがない上、俺が勝てない南ちゃんも師範には一度も勝てたことがないらしい。


 どんなけ強いんだよ師範って!


 そんなわけで、毎度の様に試合をするせいで、俺と南ちゃんの試合はここの風物詩として有名となり、他の門下生が見物したりどっちが勝つか賭けをしてたりもする。(因み、オッズはいつも【9:1】らしい)


 我ながら悲しくなってくるよ全く……


 それにしても、なんか今日は見知らぬ顔が何人かいるような……


****


 約5分の健闘虚しく俺は負けた。それも綺麗に一本を取られてしまい悔しかった。 


 試合が終わりしばらくすると、師範である北斗さんと南ちゃんの妹の東子ちゃんが出てきた。


 師範の挨拶が終わり稽古が始まると俺の前によく知った1人の美少女が現れる。


「こんばんは東子ちゃん。珍しいね、最近は受験勉強でたまにしか来ないのに?」


「キム兄久しぶり、今日は後輩の子が初日だから出てきたのよ」


「へぇーどの子?」


「あの子ですよ」と、東子ちゃんが指を刺した方を見ると、浅茶色の髪が特徴の可愛い女の子がいた。


「あの子?」


「うんそう。あっでも、いくら可愛いくってもキム兄、あの子に手を出したら許さないからね」


「分かってるよそれくらい」


 俺と東子ちゃんが話しているとその子がこちらに来た。


「あのー、さっき試合してた人ですよね。初めまして私は『緑川芽依』と言います。葵先輩の後輩で今高校2年です」


(へぇー、日和と同い年なんだ・・・)


「これはご丁寧にどうも。俺は『木村 京』大学2年だよ。さっきは情け無い姿を見せちゃったね」


「そんな事ないです! 凄くかっこよかったです。あの、私も頑張れば強くなれますか?」


「勿論だよ、師範や東子ちゃんは教え方が上手いから直ぐにでも強くなれるよ」


 因みに南ちゃんは感覚派なので教えるのはあまり上手く無い。


「はい、頑張ります。それにしてもあの東子先輩があんなに親しく男性とお話するのを見るのは初めてです」


「? どう言うこと?」


「あれ、知らないんですか? 東子先輩はうちの高校の生徒会長で頭も良いですから凄くモテるんですよ! でもいつも断っていて、確か今、告白56人切りだったと思います」


「それは……凄いね。確かに東子ちゃんは綺麗だし、愛嬌もあるから告白する奴の気持ちもわかるけど」


「……いえ、東子先輩高校ではもっと冷たいと言うか冷めてると言うか、とにかく凄いクールなんですよ。それでついたあだ名が『氷姫』と呼ばれています」


(何だと! それではまるで俺ガイルのヒロインの1人、ゆきのんじゃないか!)


「氷姫? それはなかなか凄いあだ名だね。……因みに緑川さんはあだ名とかついてないの?」


(東子ちゃん並に可愛い緑川さんならあだ名の1つや2つありそうだけど?)


「えっ! 私ですか? ……一応ありますけどその……」


「?」


 緑川さんは俯きながらモジモジしている。

 すると東子ちゃんがやってきて


「キム兄、何話してるの?」


「ああ、緑川さんのあだ名についてね、東子ちゃん。いや、氷姫さん」


「ちょっ! 何でキム兄が知ってるのよ! あー芽依ちゃん、話したのね!」


「ごめんなさい。話しちゃいました」


「それなら私も教えちゃうわよ! キム兄、芽依ちゃんは高校で『舞姫』って呼ばれてるのよ」


「舞姫?」


「そうよ、実は芽依ちゃん去年の文化祭でダンスを踊って最優秀賞を取ったのよそれで『舞姫』ってあだ名がついたの」


「へぇーでも何で道場に来る様になったの?」


「あーそれはね。実は芽依ちゃん、この前ナンパにあって無理矢理連れてがれそうになったのよ、それで見知らぬ誰かが助けてくれんだって」


「なるほどね~……それで自分を守れる様になるためって事でか」


「それもありますが……その、私も強くなればまた、その人に会えるかもしれないと思いまして・・・」


「あはは、可愛いね」


「ちょっとキム兄! 何口説いてるのよ!

南姉さんに言いつけるよ!」


「なっ! 別に口説いてる訳じゃないからな! ただ・・・」


「ただなに? なんで黙ったの?」


「イヤー、なんでもない!」


「ふーん、あっそ!」


(危なかった!てか、さっきの話の人って俺だね間違いなく。確かこの前駅でナンパされてた子を助けたわ!・・・絶対にバレない様にしないと)



 それからは暫く型の稽古と模擬戦を何度かしてから最後に南ちゃんと試合をしてまた負けた。


「くそー! また負けた」


「ふふん! まだまだだね木村くん、そんなんじゃ私には勝てないわよ」


「ゼッテー泣かすからね南ちゃん」


 試合が終わり片付けを済ませシャワーを浴びた後、帰ろうとすると南ちゃんのお母さんがやってきて


「木村くん、よかったら晩御飯食べてかない?」


「いいんですか?」


「遠慮しなくても大丈夫よ!」


「それならいただきます」


 俺は葵家に夕食をご馳走になる事にした。

 食卓に葵家の皆さんが座り、俺も空いている席に座る。たわいのない会話をしながら食事を終えて俺はマンションに帰った。


 マンションに帰ると日和がリビングで勉強をしていたので声をかける。


「ただいま日和、学校はどうだった?」


「お帰りキョー兄、楽しかったよ。先生はいい人だったしクラスメイトも良くしてくれたからそれに放課後生徒会長が来て校内を色々と教えてくれたんだ」


「良かったな。それなら俺も安心するよ」


「うん、でねクラスメイトの中にすっごく可愛い人がいてねその子とも友達になったんだ」


「そうか、これから大変だろうけど頑張ってな」


 俺はそう言って日和の頭を撫でてからシャワーを浴びて、布団に入り眠りについた。

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