幕間
いつかどこかの前日譚
赤いヒヤシンス。もしくは、オレンジリリー
―これは秘めた私の言葉。きっとずっと咲かない想い。
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無邪気に笑う貴女は、まるで花のようで。思わず、私は貴女を見つめた。
明るく迷わず、こちらを照らす。
緩んだ頬は艶やかで、ほんのり輝いてみえる。優しく細める瞳に
貴女が愛されて生きてきたことがよく分かる。
そんな明るい笑顔。
あぁ、なんて。
…なんて気持ちの悪い。
吐き気の湧き上がるこの気持ちは何と言ったらいいものか…。「憎悪」だの、「嫉妬」だのでくくってしまえば、陳腐になってしまうような、言葉にしきれない不快感。
手足と頭がすぅーっと冷える。視界が黒く狭まった。
頬は粉が噴くほどに乾いて、口の中には唾液が満ちる。
…あぁ、あの笑顔を汚したい。
でも、そんな思いも言葉もすべて飲み込んだ。ただただ奥歯を噛みしめて。
…きっと彼女は言葉でしか知らない。
「憎しみ」も「妬ましさ」も、「怒り」すら。何かが千切れるようなこの激情の濁流も、存在するはずの四肢に走るこの幻肢痛も。想像することすらないのだろう。
だから、あんな風に笑って…。
あぁ、憎い。にくい
影を照らさぬ彼女が醜い。
吐き気を催すあの瞳には、私の姿は見えやしない。見えない私の手足は何度も砕ける。一度も折れることがなかったとしても。
彼女の声は春のせせらぎのよう。明るく軽やかに響き、みんなの心を弾ませる。
そして、私の心を逆撫でするような不協和音。あのかすれ声を聴いた耳なんて引きちぎってしまいたい。
彼女の髪の甘い香りに心を奪われて、沸き起こる艶めかしい橘のような匂いに情欲をかき立てられる。
あぁ、それはまるで安い塩ビの人形のようで。臭いそれは捨てることさえ、
どうして世界は彼女を愛すのか。あぁ、生きづらい。
生きづらい私はただただ静かに心を閉じる。
ニッコリ微笑むそのために。醜い世界を飲み込んで。
あぁ、外の世界は美しい。私の
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