四(2)


 四人の魔導師の名前は、それぞれ

 クラウスト

 オドマー

 バルジビア

 フェリヤ

 といった。


「私の名は、クラウスト。

 人間のよわいにして、九十四。

 現の代司祭を努めております」

 魔導師クラウストは、平静を装って続けた。

 彼が押し込められた感情から、ユリへのイヤミが溢れ出る。

 ユリへ向けられた侮蔑。

 まるで、ヘビに睨まれたカエルのように、ユリは動けない。


「私は、オドマー。

 ……」

 続けて何かを告げていたが、ユリの耳には届いていない。

 クラウストの視線が離れない。オドマーが何かを説明している。

 クラウストと比べれば、人当たりは良さそうである。それだけは、感じられた。


「私は、バルジビア。

 姫には以前、夢の中でお会い致しました。

 まことに、かわいらしいお姿で……」

 夢……?

 会ったことがある?

 かわいらしいお姿?

 ユリの中で、何かが引っ掛かった。

 確かに、この声には、聞き覚えがある、かも。

 でも、思い出せない。

 きっと、「目覚め」のせいだ。

 ユリは、そうやって、「目覚め」のせいにした。

 だけど、それは、「目覚め」の意味が、本当の「目覚め」が意味するところが、理解できていなかったから。

 あの恐ろしい「目覚め」の意味を。

 

 最後に残された四番目の魔導師が答える。

「私は、フェリヤ」

 それだけ。

 この魔導師がしゃべったのは、それだけ。

 それでも、

 何処かで聞いたことのある声……

 ユリの中で、

 こつん、と、

 また、何かが引っ掛かった。

 フェリヤは、姫に訊かれた名だけ答えると、その場を立ち去ろうとした。

 その場から、逃げるように。一刻も早く、ユリのそばから離れるように。

 しかし、

「待て」

 クラウスト、オドマー、バルジビアの三人の魔導師に同時に阻まれた。

「姫」

フェリヤの非礼を詫びるかのように、オドマーが何やら告げてくる。

「……どうか、フェリヤを、姫の……にしては、いただけませんでしょうか」

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