八 …十四
「よく頑張ったな」
五条の一言に、ゆいはまた一段と涙を流した。
兄と妹の絆が、今回の事件解決を解決へと導いた。五条は、泣いているゆいに向き直り、一度、深くお辞儀をした。
「協力、感謝する。ありがとう」
その五条の姿を見て、ゆいはまた、涙の中に笑顔を浮かべた。
『こちらこそ、あにをすくってくれてありがとうございました』
胸を押さえながら五条へ礼を伝えるゆい。
ゆいの身体はもう限界だ。早く精神世界を閉じた方がいい。そう思い、五条は胸の前で印を結び、術を発動しようと力を込める。
『まって……ください。ひとつ、いいですか』
急に真剣な声を向けたゆいに、驚いた五条は術の発動を中断し、ゆいに顔を向ける。
やけにものものしい空気に、五条は身構えた。
『わたしもここにきてひがあさいので、よくわからないんですけど……』
ゆいは決心したかのように目に力を込め、五条へと進言する。
『そちらに、よくないものがいってるみたいです』
そちら、というのは《現世》のことか。そして、よくないものとは……?
五条が考えを巡らせている間に、ゆいの呼吸が一層荒くなる。
「分かった。忠告ありがとう」
これ以上ここへ滞在してはさすがにまずい。ゆいの身体に影響を及ぼしてしまいかねない。
「扉を閉じる。……ゆい、元気で」
五条の身体は光に包み込まれ、徐々に見えなくなっていく。
ゆいは、五条の姿が見えなくなるまで見送った。しかし今度は、消えてしまった五条の姿にすがるように、右手を前に差し出す。そして、それまで堪えていた言葉をポツリと零した。
『…………たすけて』
ゆいの発した言葉は、空しくも闇を舞って消えてゆく。
再びこの世界には、暗黒が広がっていった———。
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