八 …十三

『それで、おじいちゃんになって、もうやりのこしたことはない!っておもったら、こっちにきてまたおはなしをきかせて?』


息苦しさで少し顔をゆがませながら、ゆいはくるりと赤坂のほうを向き直る。赤坂と五条の目には、もうほどんどゆいの姿は見えていなかった。

 ゆいの背後には、現世とこちらを繋げる境界線。この境界線を一歩抜ければ、ゆいと赤坂はもう二度と会うことはない。


「ゆい……俺は……」


 何かを言いかける赤坂に、ゆいは首をふるふると振って抑制する。赤坂のその言葉を聞けば、ゆいは決心を鈍らせる、と五条は悟った。

 

『あるいて、おにいちゃん。さっきいったこと、やくそくだよ?』


 ゆいはまた一歩、赤坂を自分よりも前に歩かせると、赤坂の背中をふわりと押した。優しい後押しなのに、赤坂はその力に抗うことができない。

 前に足を踏み出したまま、赤坂はゆいの方へと顔を向ける。

 ゆいは、最後に満面の笑みで赤坂を送り出した。


『だいすきだよ!おにいちゃん!』


 その笑顔と言葉を背に受けながら、赤坂の姿は光に呑まれて消えてしまった。


 残されたのは、五条とゆいのみ。

だが五条もすぐに、赤坂の精神世界を閉じて現世へと戻らなければならない。

「あれで、よかったのか」


 五条は、隣で涙を零し続けるゆいにぽつりと問う。

 ゆいは口元に浮かべていた緩みを解き、嗚咽を漏らしながら両手で顔を覆った。


『だって……あれいじょういっしょにいたら、わたし、おにいちゃんを帰したくなくなっちゃうもん……』


 苦しさも相まって息を短く吐きながら泣いているゆいの頭に、五条はポン、と手を乗せる。

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